飛行任務における整備員の活用
それは、イラクにおける、ごく日常的な飛行任務であった。その機体には、機長である私と上級准尉の副操縦士の他に、機付長および射手として1名の特技兵と軍曹が後席に搭乗していた。その日最後の戦闘支援であったその飛行は、夕方の遅い時間に行われていた。天候が悪化しつつあるという予報があったものの、最低気象条件を満たしているものとして、飛行隊長から承認されていた。
タジにある本拠地に向けて、ラマディの北側を飛行していたところ、組織的な敵による待ち伏せ攻撃に遭遇した。命中した最初の銃弾は、油圧デッキまで貫通し、パイロット・アシスト・モジュール(パイロットの操舵力を軽減させるとともに安定性増大装置からの信号を取り込む操縦系統の機能部品)が損傷した。次の銃弾は、トランスミッション区画に当たり、スタビレーターの自動制御が不能となった。ただし、スタビレーターを手動で制御することは可能であった。
かろうじて待ち伏せから脱出できたが、その際に受けた最後の銃弾がコックピットを貫通し、副操縦士が死亡してしまった。直ちに操縦を交代した私は、僚機に無線で緊急事態を宣言し、状況を通報した。上を見上げると、最低気象条件を維持するはずだった天候が急激に悪化していた。気づいたときにはすでに、IIMC(inadvertent instrument meteorological conditions, 予期していなかった天候急変等による計器飛行状態)に陥ってしまっていた。
幸いなことに、これは私の機長資格検定に際して実施されたシミュレーションの一幕です。このシミュレーションは、搭乗員間の連携、つまり、飛行中に後席に搭乗している整備員たちを活用することについて、重要な教訓を与えてくれました。パイロットである我々は、ややもすると、整備員たちに対し、飛行任務の遂行に必要な役割を与えることを怠りがちです。訓練・計画段階から任務終了後のAAR(after-action review, 検討会)まで、可能な限りの場面に整備員たちを参加させるべきなのです。そのためには、整備員に対し、パイロットが行うアビオニクスの操作について、基本的な事項をあらかじめ理解させておくことが必要です。
先ほど紹介したシミュレーションにおいては、ハーネス・ベルトを装着した1名の整備員にタジに進入するために必要なGPSの設定を行わせようとしました。そのためには、一人で機体の操縦を行いながら、その整備員に進入のために必要なGPSへの入力要領を説明しなければならなかったのです。もし、任務開始前に訓練を実施したとしても、それには数分もかからなかったはずです。もっと落ち着いた状態の時であれば、さらに効果的な訓練ができたことでしょう。
パイロットが定期的に実施している訓練の中から必要なものを選定し、整備員たちに参加させることも有効な手立てのひとつです。整備員たちは、整備課程入校間、操縦に関連する科目(空気力学や緊急操作手順)には、あまり関心を持たないものです。
任務計画の立案やブリーフィングも、運用に関わることとされ、整備員たちの参加が求められないのが通常です。このため、整備員たちは、飛行経路や監視に必要な敵情に関する情報を把握できていないのです。パイロットには困難な機体の側方や後方の監視が可能な整備員たちは、任務の安全な遂行のために不可欠な存在なのです。飛行前ブリーフィングに整備員たちを参加させることにより、敵の識別がより容易になるのです。
やり方にはいろいろあると思いますが、整備員たちを飛行任務の遂行に積極的に活用すべきです。飛行計画の作成から任務終了後のAARまでのすべての場面において、整備員たちは、飛行チームの重要な一員なのです。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2019年11月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
整備班長だった頃、こういう意識がもっと必要だったなと反省しています。