AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

起きてはならない不安全事案

上級准尉 ジョン・カスト
第1機甲師団第1旅団第1騎兵連隊第6大隊D中隊
1st Brigade, 1st Armor Division
テキサス州フォート・ブリス

2011年、新しい夜明け作戦(Operation New Dawn、2010年9月以降のイラク戦の作戦名)に参加していた私は、RQ-7Bシャドー無人航空機システムの訓練担当操作員として、前方運用基地ウォーホースで勤務していました。その日、旅団戦闘チームの情報要求に基づく、ごく通常の任務を終了した時、整備要員から、着陸したばかりの機体を見に来るように言われました。

シャドーの主翼は、2本の長さ6インチ(約15センチメートル)のセンターウイング・ボルトで胴体に結合されています。整備実施規定によれば、ボルトの取り付けは、その頭が翼の表面と同じ高さになるまで手締めした後、50フィート・ポンド(約68ニュートン・ポンド、約7キログラム・メートル)でトルクをかけるようになっています。その機体は、飛行前に、センターウィング・ボルトの取り外し及び交換を伴う計画整備が行われていました。

飛行後の給脂作業を行おうとして、後部コンパートメント・カバーを開いた整備要員は、センターウィング・ボルトが2本とも緩んでいるのを発見しました。ボルトは、その頭が翼の表面から約2インチ(約5センチメートル)も飛び出していて、手で緩めることのできる状態でした。それを見た私は、「誰かが飛行後にイタズラでボルトを緩めたに違いない」と思いました。しかし、整備要員は、そうではなく、間違いなく、この状態で5時間飛行したのだと言うのです。私は、「それでは、なぜこの機体は墜落しなかったのか?」と疑問に思いました。センターウィング・ボルトは、翼を捩じると横軸を中心として10度くらい上下に傾く位まで緩んでいたからです。しかしながら、飛行要員からは、飛行後ブリーフィングにおいて、「任務実施間、何も異常がなかった」と報告されました。

シャドーは、離陸時、レールから2,000ポンドの油圧を利用して発射され、エンジンをフル回転にして約70ノットまで加速されます。離陸時の機体に加わるG荷重により、翼が完全に折りたたまれなかったことが不思議でした。飛行要員によれば、当該機は、通常どおりの性能を発揮しており、コントロール・ステーションでは、何の異常も感じられませんでした。

整備記録を確認したところ、その計画整備は、機付長によって実施され、技術検査員による確認が行われていました。私は、技術検査員にその計画整備について、問いただしました。(技術検査員は、整備記録に作業完了のサインをするまえに、機付長の作業の実施状況を目視で確認するだけではなく、適切な値に設定されたトルクレンチで締め付け状態を物理的に確認することになっています)何回か問いただすと、技術検査員は、「規定どおりの作業が終わっていることを確認してサインした」という機付長の言葉を信用してしまったことを認めました。このことにより、適切にトルクが掛けられたセンターウィング・ボルトが飛行中に緩んだわけではなく、管理上の問題により緩んだままの状態で飛行してしまったことが明らかになりました。

今度は、機付長に確認をしました。同じく何回も問いただすと、取り付けが終わったセンターウィング・ボルトにトルクを掛ける途中で、別な作業を行ってしまったことを認めました。その作業が何であれ、機付長は、誤ってトルクをかけ忘れてしまい、そのまま別の機体の整備作業を始めてしまったのです。簡単に言えば、機付長は、整備チェックリストに記載されている重要な手順を実施し忘れてしまい、技術検査員はそれを間違いなくやったという機付長の言葉を信じてしまったのです。

不安全事案の発生原因を完全に把握できた私は、小隊長と小隊陸曹に報告しました。機付長と技術検査員は、チェックリストに従った完全な飛行前点検を行わなかった機体操作員にも責任があると反論しました。しかし、飛行前点検のチェックリストに記載されているのは、後方コンパートメント・カバーが完全に閉鎖されていることを点検することだけでした。後方コンパートメント・カバーを開いて、その内部を点検することは、実施しても問題はありませんが、実施するように求められてはいないのです。

人は、間違いを犯すものです。しかしながら、航空の世界においては、その間違いは人の命に関わり、機体の損壊をもたらすことになります。この事案の発生に伴い、機付長は、是正訓練を行ったうえで、再検定を受けることになりました。技術検査員は、その資格を失い、派遣期間が延長されることになりました。私は、部隊SOP(standing operating procedures, 作戦規定)に、機体操作員に後方コンパートメントを開放し、センターウィング・ボルトの緊締状態を目視点検するように義務づける規定を追加しました。

この不安全事案は、その後、私の小隊で「過去の事例」として何度も紹介され、運用に関わるすべての隊員の意識を変えることになりました。また、私にとって初めての不安全事案調査となりました。その後、私の部隊では、このような事案が発生することがなく、無事故記録を塗り替えることができました。ただし、あの機体が発射の間だけではなく、その後の飛行の間も分解しないで済んだ理由は、未だに謎のままです。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2020年01月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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