誰が操縦しているのか?
パイロットとしての資格を得た私は、その頃始まったばかりの東部方面軍(Regional Command East)の作戦に参加していました。そこでの任務は、私にとって、興奮と緊張に満ちたものでした。2回目の飛行試験でレディネス・レベル3から2への昇格が認められた私は、訓練担当操縦士(standardization pilot, SP)といっしょに戦闘任務を遂行するようになっていました。学校教育で身に着けた操縦練度は、そういった危険な任務を行うために十分なものではありませんでした。このため、ほぼ完ぺきに任務を遂行できた日もありましたが、機長に迷惑をかけてしまう日もありました。
訓練担当操縦士と指揮官は、私を敵の行動があまり活発でない夜間のシフトに配置し、戦闘状態での任務を遂行するために必要な練度を向上させようとしていました。そんな中で行われていた、ある夜明け前の飛行で、私はもう少しで死ぬところだった経験をしてしまいました。
私と訓練担当操縦士は、あるFARP(forward arming and refueling point, 燃料弾薬再補給点)から離陸しようとしていました。左席に搭乗した私は、マストに取り付けられた索敵照準器と無線機を適切に操作することに集中していました。訓練担当操縦士は、NVG(night vision goggle, 暗視眼鏡)を調節するため、私に操縦を交代させました。新米の私が、真っ暗な中を操縦することになったのです。
滑走路の離陸末端の上空を上昇中、後続機と残りの任務について交信している最中に、訓練担当操縦士のフロア・マイク・スイッチが固着して戻らなくなってしまいました。無線機が送信したままの状態になってしまったので、右席にいた訓練担当操縦士は、何度もスイッチを踏みつけて、固着を直そうとしていました。後続機が、別の無線機を使って、大丈夫かと聞いてきました。私は、無線機を切り替えるようとして、前方に手を伸ばしました。完全武装状態での飛行経験に乏しい私は、身に着けていた防弾ベストと弾倉でサイクリックを前に押し倒しまったのです。機体は、毎分500フィートで降下しはじめました。
機体の降下に気づいた訓練担当操縦士は、サイクリックを握りなおして、降下を止めてくれました。訓練担当操縦士が操縦を交代してくれたと思った私は、操縦交代を発唱することなく、操縦かんから手を離してしまいました。この時点で、機体は誰も操縦していない状態となってしまったのです。操縦しているはずの訓練担当操縦士が操作の修正について指示し始めたため、私は混乱に陥ってしまいました。訓練担当操縦士と私は、ほぼ同時に、何が起こっていたのかを理解しました。訓練担当操縦士が操縦を交代して、駐機場に引き返し、その日の任務は中止となりました。
私は、新人のパイロットと一緒に飛行するたびに、ブリーフィングでこの話をすることにしています。完全武装に慣れていなかったことと、パイロットとしての経験が足りなかったことから、危険な状況が生じ、もう少しで死ぬところだったのです。その日、整備記録には、赤字で「U」(訳者注:飛行中の不具合発見を示す)が記載されましたが、事故にならなかったおかげで、その後もパイロットとして飛行を続けることができています。
訳者注:レディネスレベルとは、米陸軍における回転翼パイロットの訓練練度の段階区分である。3段階に区分されており、レディネス・レベル3は操縦技術は修得しているが戦術的訓練は実施していないレベル、その上のレディネス・レベル2は特定の機種について操縦技術及び戦術を修得しているレベル、最上位のレディネス・レベル1は派遣を予定している地域の環境に適合した訓練を終了しているレベルとされている。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2020年12月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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