米陸軍航空交通管制の過去、現在、そして未来
1929年にセントルイス空港において、初めて雇用された航空管制官が滑走路の目立つ場所に立って、緑と赤の旗を使って操縦士に指示を出したのが、航空交通管制の始まりであった。軍における航空交通管制は1943年に開始され、1944年までに23カ所の軍専用の飛行管制センターが建設された。
航空交通管制を担当しているプロダクト・マネージャは、各種航空交通管制システムの調達、供給及びライフ・サイクル管理を行って、世界中の恒久的飛行場及び暫定的飛行場における航空機の運行支援を支えている。
装備及び施設の状況
現在、世界中の陸軍飛行場に配備されている航空交通管制システムには、次のものがある。
○ 各種レーダー
・ DASR(Digital Airport Surveillance Radar, デジタル空港監視レーダー)
・ ATNAVICS(Air Traffic Navigation, Integration, Coordination System, 航空交通航法統合調整システム)
・ FBPAR(Fixed Base Precision Approach Radar, 固定基地用精密進入レーダー)
○ 空域管理システム
・ TAIS(Tactical Airspace Integration System, 戦術空域統合システム)
○ タワー
・ MOTS(Mobile Tower System, モバイル・タワー・システム)
○ 管制システム
・ TTCS(Tactical Terminal Control System, 戦術ターミナル管制システム)
○軍用OA機器
・ 無線機
・ 表示システム
・ ボイス・レコーダー
・ その他のOA機器等
今日の航空交通管制システムは、アビオニクスの進化及び航空交通管制装備の技術革新によりめざましい発達を遂げている。
航空交通管制のはじまり
陸軍の戦術的航空交通管制航法援助施設の発達を促したのは、ヘリコプターの導入であった。陸軍がヘリコプターを調達したのは、1947年のH-13スー観測ヘリコプターが最初であったが、この頃の陸軍ヘリコプターは、有視界飛行方式(VFR)のみで運用されており、夜間や天候不良時に運用されることはなかった。しかしながら、1950年代の終わりから60年代の初めの頃になると、ヘリコプターにおいてもADFや戦術無線ビーコン等の地上基地局を利用した航法援助が行われるようになった。
ヘリコプターは、低高度及び低速度で運用されることから、そのような状況でも飛行をモニターできる、ヘリコプターの特性に適合した航法援助及び監視システムの必要性が生まれた。
レーダー
レーダーは、1940年代の後半には既に実用化され、天候不良時における計器飛行方式(IFR)等に活用されていた。現在使用されているAN/TPN-31 ATNAVICS(Air Traffic Navigation, Integration, Coordination System, 航空交通航法統合調整システム)は、いかなる天候においても監視及び精密進入を行う能力を有すると共に、戦術上の要求に応じた移動が可能なレーダー装置である。現在、センサーの有効範囲を60kmまで拡大するため、米海兵隊のPMA213(Naval Air Traffic Management Systems, 海軍航空交通管理システム開発)プログラム・オフィスの協力を得ながら改修を進めているところである。近い将来には、TAIS(Tactical Airspace Integration System, 戦術空域統合システム)とATNAVICSで航空交通管制情報を共有し、TAISに航空交通管制情報を併せて表示させることができるようになる。
飛行場照明装置
アフガニスタンの3カ所の飛行場に装備化が完了した新型の飛行場照明装置には、低明度時の有視界進入能力を向上させるためのPAPI(Precision Approach Path Indicator, 進入角指示灯)が装備されている。
管制塔
7A型タワーの後継であるMOTS(Mobile Tower System, モバイル・タワー・システム)は、製造契約が近く締結され、2013年には供給が開始される予定である。
衛星航法等
この10年間の間に、航空航法をめぐる環境は、全く異なったものに変化した。特に衛星航法及びセルフ・レポート(自発的情報発信)技術は、空軍、海軍及び連邦航空局と緊密に連携した共通の事業としてその実現が図られている。
衛星航法に関しては、JPALS(Joint Precision Approach and Landing System, 統合精密進入・着陸システム)の導入が検討されている。このシステムは、GPSの正確性を最大限に活用して艦船への着陸を容易にする次世代航法援助及び着陸システムであり、陸軍の回転翼航空機の運用特性を考慮した開発が進められている。
連邦航空局のNext Gen(ネクスト・ジェン, 次世代)事業は、JPALSが網羅する先進技術を完全に取り込み、実用化したものとして注目されており、既に陸軍の航空機用アビオニクスのアップグレードにもその技術が反映されている。Next Genは、米議会で採択された新しい航空交通管制システムであり、航空管制システムの地上波(レーダー)利用から衛星利用への転換に必要な基盤を形成するものである。
一方、セルフ・レポート技術で最も期待されているシステムは、ADS-B(Automatic Dependency Surveillance- Broadcast,放送型自動位置情報伝送監視)であり、本システムの利用により、航空機の正確な識別・位置データの管制官及び戦術航空・防空部隊への供給が可能となる。
モード5(IFFの新しい軍用モード)及びモードS(IFFの新しい民間用モード)は、将来的なセルフ・レポート手段として注目されている。これらのモードを利用することにより、ATNAVICSによる質問・応答を介して必要な情報を管制官等に提供し、その任務達成及び状況把握に貢献できるものと期待されている。
空域管理
コンピューター及び通信技術の発達は、陸軍の空域管理にめざましい発展をもたらした。第18空挺軍団は、1999年に紙地図、オーバーレイ、グリース鉛筆等を用いた通常の情報資料と、TAIS(Tactical Airspace Integration System, 戦術空域統合システム)から得られる新しい情報資料の双方を使用した空域管理訓練を実施した。TAISは、無線機類、統合通信装置、ボイス・レコーダー、レーダー表示装置、及びデジタル処理装置で構成されており、空域情報、飛行航跡、要求空域及び競合空域を3D表示することができる。この新しいシステムの登場は、空域調整に革命をもたらし、オーバーレイやグリース鉛筆を過去の物にしてしまった。
2009年に供給が開始されたWindows XPをベースとした新しいバージョンのTAISは、ウエブ・サービスの活用を可能とし、陸軍の空域管理に新たな革命をもたらした。新しいTAISのハードウェアは、DACT(Dynamic Airspace Collaboration Tool, 動的空域コラボレーション・ツール)を動作させるためのシン・クライアント(小型軽量クライアント)であり、今までよりも安価、高速、かつ携帯容易なものとなった。このDACTは、戦術ネットワーク上のウェブ・ブラウザを搭載した全てのコンピューターで動作することが可能である。
今日では、Javaを用いたシン・クライアントであるTAISを使ってウエブ・ページをたどれば、3D表示の地球儀に現在、計画及び要求中の空域と状況認識用の航跡をほぼリアルタイムで表示させるとともに、新規の空域要求を入力することが可能となっている。
さらに、2012年以降は、TAISのユーザーは、スマート・フォンやタブレット上で動作するアプリケーションを利用できるようになる。情報を得るために必要なアプリケーションは、ボタンにタッチするだけで国防省のApp Store(エー・ピー・ピー・ストア、アップル社のiPhone・iPod touch・iPad向けアプリケーションのダウンロードサービス)からダウンロード可能であり、簡単にTAISの活用範囲を拡張し、空域管理能力をTAISのユーザーの手中に納めることが可能になる。
航空交通管制兵站
米陸軍が管理する空域を使用し、同盟軍とともに実施する航空統合作戦は、より多くの場面で実施されるようになり、陸軍航空の国外展開の頻度はますます増加している。このような状況において、航空交通管制に関する兵站を充実し、世界各地で使用される米陸軍航空交通管制システムの可動率を必要なレベルに維持することが、非常に重要となっている。
必要経費の低減を図りつつ飛行部隊の即応体制を維持するための鍵は、兵士及び整備員の経験の確実な蓄積と新しい維持技術の速やかな活用にある。製造業者による高額な調査・修理費用を低減するため、特技番号94D航空交通管制装備修理士の資格を有する整備士の任務を拡大するとともに、更なるモバイル化及び高スキル化を図らなければならない。また、製造業者の保有する整備知識管理システムに世界中から集まってくる情報を確実に集積し、活用することも重要である。
ライフ・サイクル管理には、「将来を予測する」能力をもたらすハードウェア及びソフトウェアの活用が不可欠である。故障を予測することは、予備部品及び計画・非計画整備の削減に大きな効果をもたらす。現在、コンディション・ベースド・メインテナンス(故障の予兆をとらえ先行的に対処する整備要領)事業を通じて、故障予測に関する新しい技術の適用を検討するとともに、ライフ・サイクル・サポートを向上させるための各種方策について研究が進められている。現在及び将来の戦闘行動において成功を修めるためには、装備品等の確実なライフ・サイクル管理は欠かすことのできない要素である。
将 来
次年度の目標は、前線の兵士との連携を強化し、航空交通管制システムやその訓練に関する問題点の速やかな改善を図り、より高い即応態勢を維持することである。
近い将来においては、航空交通管制シミュレーション・システムを使用した航空交通管制訓練が現実のものとなると想定される。
この際、新規又は改正された調達に関わる方針や規則を遵守し、情報保証、ネットワーク保全、プログラム保護等を確実にして、財政難の状況における資産の維持・管理の適正な実施に着意する必要がある。
航空交通管制は、現時点においても、そして将来においても、古いものと新しいものとの融合を図りつつ、陸軍の航空運用を支援し、その可能性を最大限に引き出し続けなければならない。
陸軍中佐 マイケル E.ルトコフスキは、アラバマ州ハンツビルに所在する航空交通管制担当の米陸軍プロダクト・マネージャである。
1~6の写真は、訳者が下記ウェブサイトから引用したものです。
※1:http://www.radartutorial.eu/19.kartei/pic/img2081.jpg
※2:http://www.raytheon.com/capabilities/products/atnavics.html
※3:http://www.armedforces-int.com/article/selex-sistemi-integrati-at-idef-2011.html
※4:http://www.fas.org/man/dod-101/sys/ac/equip/tais.htm
※5:http://www.fas.org/man/dod-101/sys/ac/equip/mots.htm
※6:http://www.minervaengineering.com/minerva/products/vehicle.aspx
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2011年11月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
アクセス回数:22,180
コメント投稿フォーム
1件のコメント
かなり古い記事ですが、なぜか人気急上昇中です。
レイアウトの乱れを修正しました。