進化を継続するAMSA(航空任務システム及びアーキテクチャー)
前例の通用しない今日、アメリカ陸軍には、大規模戦闘作戦(Large Scale Combat Operations, LSCO)に焦点を絞った新たなビジョンを持ち、国家の要請に応えるための準備を整えておくことが求められている。18か月前に行われたAviation Systems Project Office(航空システム・プロジェクト・オフィス)からAMSA(Aviation Mission Systems and Architecture, 航空任務システム及びアーキテクチャー)プログラム・マネージャーへの改編は、それを具現するためのものであった。
AMSAは、従前より、通信、航法、整備、計画および実行ツール、ならびに航空交通管制にまたがる、49種類もの陸軍航空向け機能セットの製品ラインを管理してきた。そして、過去18か月の間は、航空企業全体の統合という新しい目標に向け、その任務を進化させてきた。この新しい任務は、陸軍のマルチドメイン作戦(Multi-Domain Operations, MDO)への移行やマルチドメイン戦場(Multi-Domain Battlefield, MDB)における全領域統合指揮通信能力(Joint All Domain Command and Control, JADC2)の有効化と同調している。
AMSAプログラム・マネージャーは、プロダクト・オフィスを再編成し、重要な利害関係者とのシームレスな調整を行い、マルチドメイン戦場のゲーム・チェンジャーとして機能できる陸軍航空の将来構想を作り上げようとしている。
戦力の維持
A3S(Assured Airspace Access Systems Product Office, 空域アクセス保証システム・プロダクト・オフィス)(従前のAir Traffic Control Product Office, 航空管制プロダクト・オフィス)は、その新しい任務の一環として、APNT(Assured Precision、Navigation、and Timing , 正確性、航法、時期保証)機能横断型チームと連携し、陸軍航空がマルチドメイン戦場において航法・時期情報を継続的に供給する能力を維持できるように努めている。その主要な取り組みは、MAGNA(Multi-platform Anti-jam GPS Navigation Antenna, マルチプラットフォーム妨害対策GPS航法アンテナ)およびEAGLE-M(Enhanced Aviation, Global Air Traffic Management (GATM), Localizer Performance with Vertical Guidance (LPV), Embedded GPS/Inertial Navigation System (EGI) (EAGLE) M-Code, Mコードを用いたGPS慣性一体型航法装置による縦方向誘導におけるローカライザー性能を備えた改良型全地球航空交通管理を実現する装置)であり、GPS戦闘環境における陸軍航空の勝利を確実にできるようにするための主要な取り組みとなっている。
MAGNAとは、CRPA(Controlled Reception Pattern Antenna, 被制御式受信パターン・アンテナ)および各種アンテナ電子機器で構成される小型の適応型耐妨害GPSアンテナ装置である。この装置は、GPS妨害による影響を軽減し、GPSの能力が低下した環境においても、作戦用航空機によるGPSの位置、航法、および時間情報へのアクセスを可能にする。
EAGLE-Mとは、現在使用されているSAASM(Selective Availability Anti-spoofing Module, 選択的有用性対抗スプーフィング・モジュール)信号に代えて、Mコード(Military Code)信号を利用することにより、陸軍航空のマルチドメイン戦場における防護力の強化を実現する次世代航法機器である。
A3Sは、また、位置、航法および時間情報を取得するための代替方式の構想を評価し、GPSが利用できない環境においても陸軍航空が戦闘に勝利できることを確実にしようとしている。
AGSE(Aviation Ground Support Equipment, 航空地上支援器材)プロダクト部局は、陸軍航空の整備員及び搭乗員に対する卓越した支援を継続している。
過去1年間においては、戦闘航空旅団に対するSCAMPⅡ(Self-Propelled Crane, Aircraft Maintenance and Positioning Increment II Expeditionary Crane, 航空整備および派遣用自走式クレーン)の装備化を開始し、その整備能力を大幅に強化してきた。
AGSEは、また、MFEDS(modernized Flexible Engine and Diagnositc Systems, 改良型汎用エンジン診断システム)を性能向上を行い、フォート・ラッカー、フォート・ブラッグ、およびフォート・キャンベルに配布してきた。改良されたこのシステムは、現在および将来のデジタル式エンジンの整備試験能力を大幅に向上させることであろう。
さらに、CH-47Fの整備に必要なすべての要件を満たし、従来機種もサポートできる新型のAGPU1.1(航空地上動力装置)を供給するため、その調達への取り組みもはじめている。AGPU 1.1は、FVL(Future Vertical Lift, 将来型垂直離着陸機計画)の要求事項が確定されたならば、改めて改修が行われる。新型のAGPU1.1は、CH-47Fの多様な整備項目を実施する整備員の負担を軽減するだけではなく、より高い信頼性および整備性を有するシステムして、航空機の運用を支えてゆくことであろう。
将来における戦力の維持
AMSAは、現在の部隊を維持するための機能を提供するだけではなく、将来の航空部隊を実現する責任も有している。
ACMC(Aerial Communications and Mission Command , 航空通信・任務コマンド, 従来のAviation Mission Equipment)プロダクト・オフィスは、ネットワーク機能横断型チームならびに任務指揮、共通作戦環境および通信に関するプログラム・エクゼクティブ・オフィスとの調整を行っている。これらの調整作業は、陸軍航空隊がマルチドメイン戦場におけるシームレスな相互運用性を確保し、陸軍のネットワーク内に組み込まれた状態を維持するために不可欠なものとなっている。
AGNR(Air Ground Network Radio, 空地ネットワーク無線機)は、マルチチャネル、暗号化およびソフトウェア定義機能を持った無線機であり、統合ネットワーク運用、空地連携、統合相互運用性およびMUOS(Mobile User Objective System, モバイル・ユーザー・オブジェクティブ・システム)を直接的に支援できる、新たな無線通信網を迅速に実現することを可能にする。この無線通信網は、陸軍航空が地上無線機能との連携を維持し、被支援部隊との通信を確保することを可能にする。AGNR搭載機の初飛行は、2021年10月に予定されている。
ACMCは、また、AGNRに関する業務に加えて、現行の空対空無線機(ARC-231)の暗号近代化バージョンの供給も開始し、SATURN(Second generation Anti-jam Tactical UHF Radio for NATO, NATO用第2世代耐妨害戦術UHF無線機)の無線通信網への適応を図っている。
安全かつ高度な通信はマルチドメイン作戦における鍵であるが、マルチドメイン戦場において緊要なのは、空域統制を含めた共通運用構想を動的に計画、実行および共有できる能力である。このため、ACMCは、AMPS(Aviation Mission Planning Station, 航空任務計画ステーション)およびTAIS(Tactical Airspace Information System, 戦術空域情報システム)について、現代の運用環境へのさらなる適合を目的とした再検討を行って、組織のニーズに応えようとしている。これらの取り組みの組み合わせにより全領域統合指揮通信能力の発揮が可能となり、マルチドメイン戦場において陸軍航空が重要な接続ポイントとして機能できる環境が整えられる。
AMSAは、航空企業全体の統合を最適化するため、陸軍航空のシームレスなアーキテクチャー(基本設計概念)を構築する責任も有している。
A2E2(Aviation Architecture and Environment Exploitatio, 航空アーキテクチャ・環境開発, かつてのAviation Networks and Mission Planning and Degraded Visual Environment (DVE) Product Officesと合併)は、PEO Aviation (program executive office aviation, 航空計画管理室)各部との調整を密にし、陸軍航空のための将来的アーキテクチャーを構築しようとしている。この業務は、FVL(Future Vertical Lift, 将来型垂直離着陸機計画)の基本概念共同研究ワーキング・グループ(Architecture Collaboration Working Group, ACWG)と緊密に連携しながら行われている。
AMCS(Aviation Mission Common Server, 航空任務共通サーバー)は、オープン・システム・アプローチ(Open Systems Approach, OSA)によるデジタル基盤を導入した初めてのケースであり、拡張性の高いハードウェア、ソフトウェア、および作戦環境を提供して、任務システムの迅速な戦力化を可能にならしめようとするものである。また、複数の接続ポイント間で分散処理が可能な分散型任務処理に関するアーキテクチャーの確立を目指している。この基本設計概念は、ほぼ対等な敵の脅威に対抗・勝利するために必要なすべてのネットワーク機能、ソフトウェアによるアプリケーションベースの処理、センサー処理およびそれらの融合を実現しようとするものである。マルチドメイン戦場におけるエイムポイント・フォース(AimPoint Force, マルチドメイン作戦の要求事項を満たし、勝利を収めるために最適化された陸軍の新たな構造修正)への変革を目指している陸軍航空が、機動性(共通の標準インターフェースを活用した迅速な戦力化)、適応性(変化し続ける脅威に対する迅速な適応)および入手性(経費高騰をもたらす飛行諸元変更の回避)の原則を実践できる環境が整えられつつある。
A2E2は、AMCSだけではなく、DVE(Degraded Visual Environment, 悪視程環境)適応能力に関する機体の改善も継続しており、その要求指示(Directed Requirement, DR)の具現を図っている。
DVE-DR機能は、劣悪な環境下における搭乗員の状況認識能力を強化することにより、マルチドメイン戦場における戦闘の遂行時期や場所を拡大し、陸軍航空の能力を大幅に強化しようとするものである。現時点においては、デジタル地形標高データ(Digital Terrain Elevation Data, DTED)レベル2を利用して3Dアプリオリ・データを作成し、2D赤外線(IR)カメラセンサー画像に重ね合わせ、近リアル・タイムの3D光検出・測距(LiDAR)センサーのデータと融合させている。このシステムは、また、3Dコンフォーマル・シンボルを表示することにより、あらゆる飛行段階における付加的な状況の把握を可能にする。現在、DVE-DRは、患者後送機への搭載が行われている最中であり、近日中に運用評価が開始される予定である。急速に進化する技術とオープン・システム・アーキテクチャ(Open System Architecture, OSA)を活用したデジタル基盤の発達により、将来のDVE機能は、マルチドメイン戦場における真のゲーム・チェンジャーとして、陸軍航空に大きな能力向上をもたらすことであろう。
妥当性および応答性
AMSAは、かねてより、可能な限り対象を絞った近代化を図りつつ、これらの機能を毎日使用している兵士たちへの卓越した支援の実施に取り組んできた。ただし、アメリカ陸軍の進化に伴い、AMSAも進化を続けている。この18か月間、AMSAは、マルチドメイン戦場における陸軍航空のニーズを満たすため、組織と任務の変革を実行してきた。
AMSAは、オープン・システム・アーキテクチャーを活用した解決手法により将来機能を戦力化するという新しい任務とマルチドメイン戦場におけるシームレスな相互運用性を確保するため、再検討された解決手法により機能開発を収束させ、その妥当性を維持しつつ、能力開発の最先端に立って、陸軍航空とその兵士たちに卓越した戦闘能力を供給し続けることであろう。
大佐ジョナサン・フレイジャーは、アラバマ州レッドストーン工廠に所在する航空プログラム・エクゼクティブ・オフィスの航空任務システム・アーキテクチャ・プロジェクト・マネージャーである。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2020年10月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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2件のコメント
頭字語がたくさんあります。中身が良く分かっていないものが多いので、不適切な訳語もあるかも知れません。お気づきの点がありましたら、ご指摘ください。
装備品のGPSへの依存が高まる中、Mコードのような、それが妨害を受けた場合の対策が重要となりつつあるようです。