悪視程環境(DVE)の克服
悪視程環境に対応するための技術は、あらゆる環境条件における回転翼機の運用を可能にすることにより、陸軍航空に、自然の、あるいは人工の障害を克服する能力をもたらし、敵に対する戦術的優位性の維持に貢献する。
陸軍は、実績のある陸軍調達モデルを踏襲し、新しく、かつ、成熟しつつあるテクノロジーの活用を図っている。この手法には、数十年間に渡って、陸軍に顕著な優位性をもたらしてきた装備であるNVG(暗視眼鏡)の開発モデルが反映されている。
我々に求められているのは、あらゆるDVE(悪視程環境)における、すべての飛行要領において、飛行に対する自然のまたは人工の危険要素を検知・表示して、搭乗員による安全な操作を容易にし、正確な位置を維持できる能力を獲得することである。運用限界領域を制約している障害には、埃、煙、霧および雪などがある。DVE技術により、回転翼航空は、もはや環境要因により阻害を受けなくなる。NVG技術が米軍兵士たちの「夜間の克服」を可能にしたのと同じように、DVE技術は、米軍パイロットの「環境の克服」を可能にすることであろう。
DVEが陸軍航空にもたらす効果
DVE環境における回転翼機の運用は、部分的または完全な視界喪失をもたらし、それによって引き起こされる事故の危険性により、操縦士などの搭乗員に重大なリスクを負わせている。課題となるのは、気象状態の変化だけではない。平穏な気象状態であっても、着陸または機動中に、急激な悪条件が生じる場合がある。DVEは、パイロットに作戦上のリスク以上の危険をもたらすものであり、人命を救うために軽減されなければならない、日常的な安全上の課題なのである。DVEは、陸軍航空における事故の主要な要因である。それは、クラスA/B航空事故の4分の1、2002年から2015年の死亡事故の80%以上の要因となっている。これにより生じた物的損失は、10億ドルを超えると見積もられる。人的損失には、計り知れないものがある。
陸軍は、自然に発生または人工的に生成される11種類のDVEを定義している。ブラウンアウト、砂、煙、スモッグ(煙霧)、雲、霧、雨、雪、ホワイトアウト、夜間およびフラットライト(低コントラスト)である。当初の開発は、ブラウンアウト状態での飛行安全の強化に焦点を定めて実施される。このうち、埃や砂塵により形成される雲であるブラウンアウトは、これまでのDVE関連事故および損失の60%近くを占めている。
開発の経緯
2007年、陸軍は、DVE関連事故および損失を軽減するためのコンセプトの検討を開始した。今日のDVE事業は、2007年9月にUSAACE(U.S. Army Aviation Center of Excellence, 米陸軍航空研究センター)により実施されたFAA(functional area analysis, 機能領域解析)にその起源を見出すことができる。2014年、陸軍はBORES(ブラウン・アウト対処強化システム)AoA(Analysis of Alternatives, 代替案分析)チームを発足させた。そのチームが得た結論は、単一のセンサーによるシステムでは、DVEに関する運用上の要求性能を満たすことはできない、というものであった。2015年4月にAoAの承認を受けるとすぐに、AAe(Army Acquisition Executive, 陸軍調達管理官)は、PEO AVN(program executive office aviation, 航空計画管理室)に対し、複合センサー方式の検討を指示した。2015年8月、PEO AVNは、AAEの指導に基づき、AS(Aviation System, 航空システム)の指揮下にDVE/BORESプロダクト・オフィスを設立した。
DVE/BORESプロダクト・オフィスは、前方監視能力の研究・供給を担当し、パイロットの意図に基づく着陸進入、限定的なホバリングおよび地上滑走、ならびに離陸を行うことにより、回転翼航空機のブラウンアウトによるリスクを軽減しようとしている。完全なDVE機能を開発するための第一歩であるBORES能力は、一部の航空機に限定的に装備される予定である。
企業、S&T(science and technology,科学技術)団体、学術機関、関連政府機関と協力した研究を直ちに開始したAoAチームは、政府および企業が現在保有している成果およびTRL(Technology Readiness Level, 技術準備レベル)と、陸軍回転翼機に既存および計画中の技術を統合できる可能性を評価した。2015年11月にACC(Army Contracting Command, 陸軍契約コマンド)が企業に広く発行したRFI(request for information, 情報資料提供要求)により、データは著しく増大した。
プロダクト・オフィスは、現在、LWIR(long wavelength infrared, 長波長赤外線)と、クリスチャンセン効果(Christiansen Feature)、MMW(millimeter wave, ミリ波)レーダーおよびLiDAR(laser imaging detection and ranging, レーザー画像検出と測距)を融合した画像に関する技術について、検討を進めている。ひとつの選択肢として、ブラウンアウト状況を軽減する能力を得るため、シンボルを重畳した合成映像を用いることにより、地理空間データとセンサーデータを融合すること検討している。
将来の展望
現在のスケジュールでは、陸軍は、この能力の装備化を2021年度に開始し、2024年度までにIOC(Initial Operational Capability, 初度運用能力)試験を完了する予定である。ブラウンアウト対策を最初に施されるのは、CH-47Fになる予定であり、その後UH-60MおよびHH-60Mにも適用される。
2017年度に向け、DVE/BORESプロダクト・オフィスは、引き続き次の事項を実施する。
- ・マイルストーンBを目標とした、システムとサブシステムの設計および開発
- ・ハードウェアおよびソフトウェアの開発試験の実施
- ・DAL(Design Assurance Level, 設計保証レベル)ソフトウェアの開発および試験
- ・航空機への統合の継続
- ・システム・モデリングおよびシミュレーター検証の実施
- ・主要および緊要設計検証の完了
- ・ハードウェアを統合するためのMWO(MaintenanceWork Order, 航空機等改造指令書)の作成の継続、ならびにH-60M用BAT(Blackhawk Aviation Trainer, ブラックホーク用訓練器材)およびCH-47F用TFPS(Transportable Flight Proficiency Simulator, 可搬型飛行訓練シミュレーター)のソフトウェア改修の開始
DVE/BORESは、完全なDVE機能を実現するための、初めての計画的事業である。環境を克服するためには、パイロットが、DVE状態においても、あたかもVMC(Visual Meteorological Conditions, 有視界気象状態)であるかのように、戦場機動を含むすべての機動を意図的に操作および実施できる能力が必要である。
実験および実証に関するS&T(science and technology,科学技術)機関との調整を継続し、現行および将来のヘリコプター・システムと完全に統合されたDVEシステムを開発することにより、あらゆる地形、気象および戦場環境の全領域における回転翼機の運用が可能となるであろう。
陸軍中佐デイビッド・ウェーゼは、アラバマ州レッドストーン工廠にある航空計画管理室(program executive office aviation, PEO AVN)の航空システム・プロジェクト・オフィスの製品リーダーです。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2016年10月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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3件のコメント
アビオニクスやセンサーに関する情報が欲しいという読者からの依頼を受けて、記事を探して翻訳したものです。
貴重な記事有難うございました。
難しく大切な技術であり何度も何度も読み返しました。実現出来れば大変重要な装備となると思い他国の情報を求めていますが、競争も厳しいようでなかなか表にでてきておりません。
レッキードマーチン社も契約したとあり、ますます注目しております。
https://www.c4isrnet.com/intel-geoint/sensors/2017/10/30/army-wants-next-gen-situational-awareness-sensors/
関連記事を楽しみにしております。
ありがとうございました。翻訳の面で、何かお気づきになった点があったら、ぜひご指摘ください。
個人的な意見ですが、米軍がやろうとしていることは、ちょっと複雑すぎるのではないかと思っています。
例えば、何らかの条件がそろったら、警報が鳴って、機体が自動的に定点ホバリングに移行する(自動車の緊急自動ブレーキのイメージ)なんてことはできないものでしょうかね?