AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

航空安全の過去、現在及び未来

陸軍准将ウィリアム・T・ウルフ
陸軍中佐ディビッド・S・フレッケンスティン

米陸軍航空は、航空事故に関する公式記録が残っている1972年から現在までの39年間、歴史的な軍事作戦のほとんどにおいて、重要な役割を演じてきた。現在も、航空事故発生件数を過去最少に維持しつつ、この伝統的役割を果たし続けている。今年度、米陸軍は、1972年以来の年間航空事故発生件数最少記録を塗り替えようとしている。この輝かしい業績の価値を理解するため、過去の状況を振り返り、何が航空事故を減少させたのかを確認してみたい。

我々は何処にいたのか?

米軍地上部隊を支援するため、ベトナムのサイゴン北東のLAに着陸中の米陸軍のヘリコプター(1966年撮影)

1972年は、米国によるベトナム戦争終戦が宣言される前の年であった。ベトナム戦争における旧式のUH-1、CH-47及びAH-1を駆使した操縦士達の活躍は、軍用ヘリコプターの多目的ツールとしての有効性を証明した。
 一方、ベトナム戦争においては、困難かつ危険な状況下におけるヘリコプターの運用により、過去最多の航空事故が発生した。1972年度の10万飛行時間あたりのクラスA事故の発生件数は7件を超過し、79件のクラスA事故で116人もの将兵が死亡したのである(※1)。

ベトナム戦争が終結すると、航空事故の発生件数は大幅に減少した。その後、ヨーロッパや朝鮮半島への継続的な展開並びにクエート、イラク、ソマリア、ハイチ、ボスニア・ヘルツェゴビナ及びコソボにおける作戦が実施されたが、航空事故の減少傾向は、20世紀の終わりまで継続した。そして2000年度には、10万飛行時間あたりのクラスA事故の発生件数は1件以下となり、6件のクラスA事故で4名が死亡したのみとなったのである。

しかしながら、2001年9月11日以降の国外展開の増加は、陸軍航空に新たなターニング・ポイントをもたらした。アフガニスタンとイラクの厳しい環境と不慣れな土地における運用により、航空機に多くの損害が生じたのである。国外展開による不安全要因の増大と国外展開頻度の増大は、航空事故発生率を1980年代後半のレベルまで悪化させ、わずか2年の間に、クラスA事故の発生件数は、2000年度の約4倍まで跳ね上がってしまった。
 事故発生数及び死亡者数の急激な増加を憂慮した陸軍副参謀長陸軍大将リチャード・コディは、航空科部隊指揮官に対し、注意喚起のための通達を発簡した。コディ大将は、航空事故の主たる原因を「天候判断の不適切」、「クルー・コーディネーションの不適切」、「飛行前ブリーフィングの不適切」、「単機任務に際しての事前指導の不十分」、「国外展開頻度の増大に対応するための整備要員に対する過大な要求」及び「国外展開のための展開前訓練・準備の短期間での実施」であるとし、改善を促した。また、「飛行前ブリーフィングは大隊長が指定した機長が担当する」こととし、「ブリーフィング担当将校の選定にあたっては、操縦士として十分な経験・資格を有するとともに、ブリーフィングする任務の全般を掌握し、当該任務を遂行する搭乗員が必要とする情報を入手・提供できる者を選定しなければならない」と指示した。
この指示は、その後、「任務承認手続」に追加され、その徹底が図られたが、戦闘状況下での航空事故発生率に明らかな改善が見られるようになったのは、それから5年以上の月日が過ぎてからのことであった。

我々が今何処にいて、何処に向かっているのか?

イラクのキャンプ・タジにおいて、AH-64アパッチ・ヘリコプターを誘導中の第1騎兵師団第1騎兵旅団、第227航空連隊第1大隊C中隊所属の機付長(2010年2月撮影)

高い国外展開頻度及び短い展開間隔にも関わらず、陸軍航空の航空事故発生状況は、次第に平常のレベルに戻りつつあり、今年度は、「不屈の自由作戦(Operation Enduring Freedom, OEF)」が開始されて以降、最低の事故発生率を記録しようとしている。この成功をもたらしたものは、熟練した兵士及び指揮官の献身的な努力並びに技術改善による航空機の改善であった。
 今日では、既に何回もの国外戦闘展開を経験している操縦士、あらゆる階級の搭乗員、整備員、列線勤務員、管制官等が航空科の将兵の大多数を占めている。また、指揮官の多くは、国外展開において、中隊、大隊、又は旅団を指揮した経験があり、戦闘状況下だけではなく、平時においても、任務を完遂するために何が重要なのかを判断する能力を十分に有している。彼らは、今後も航空科職種を正しい方向へと導いてくれるであろう。
 数々の国外展開により得られた教訓事項は、部隊交代の度に部隊から部隊へと引き継がれ、航空科部隊に高い戦闘能力、速やかな戦力回復能力及び不断の即応態勢をもたらした。さらに、AH-64ブロックⅢ、CH-47F及びUH-60Mプログラムにより、航空機自己診断装置の装備を含む航空機の改善が進められ、搭乗員の状況判断が容易になった。
 我々が今、やるべきことは、この状況を維持・継続してゆくことであり、そのために最も重要なのは、「基本を守る」ということである。

基本とは何か

アフガニスタンのキャンプ・デララムⅡにおいて、UH-60ブラックホーク・ヘリコプターの飛行前点検を実施中の第12航空戦闘旅団第214航空連隊第1大隊所属の機付長(2011年4月撮影)。当該大隊は、この地域において、国際治安支援部隊(ISAF)の航空医療支援活動を支援中である。

まず第1に、国外展開等を通じて得られた教訓事項を次の世代に引き継がなければならない。人類の最も不幸な特性は、「過去に犯した過ちを繰り返す」ことである。「教訓事項を詳細に文書に残すこと」、「教訓事項に基づいて方針や指導要領を見直すこと」及び「教訓事項を教育すること」は、すべて「過去の過ちを繰り返さないための方策」として欠くことのできない事項である。
 第2には、退役を間近に控えた航空科職種先任将校として特に強調しておきたいことだが、国外展開等を通じて検証された任務遂行手法及び手順を組織の中に保存しなければならないということである。そのためには、教育・訓練等のあらゆる機会を通じて、これらの知識を伝達してゆくことが必要である。
 第3に、航空科部隊及び指揮官は、任務承認のための手順等、国外展開等を通じて必要性が証明された基本原則に従わなければならない。そのために、最低限実施しなければならないのは、規則や手引きを遵守することである。
 最後に、「避けられない事故」という言葉をもって、現状を甘受してはならない。事故防止のための目標が達成されたならば、直ちに新たな目標を設定し、更に前進し続けなければならない。これが搭乗員や航空兵士にとってより安全な勤務環境を創造するための唯一の方策なのだ。

ヒューマン・エラーとの戦い

安全プログラムの実施に際して最も重視すべき事項は、航空事故調査の結果、事故の主因の80パーセント以上を占めているヒューマン・エラーである。
 ヒューマン・エラーとの戦いに勝つためには、「自信過剰と自己満足の克服」、「搭乗員の協力態勢の評価・訓練」、「付与された任務のリスクに対する適切な評価」及び「任務遂行に必要なミッション・プラニングの確実な実施」が不可欠である。

航空機の改善

近年のH-60及びH-47シリーズの改修は、航空安全に影響を及ぼす性能の向上に大きく貢献している。しかしながら、これらの航空機の搭乗員であっても、戦場における分進点から着陸点までの間の状況判断や視程不良状態での着陸は決して容易なことではない。
 これらの問題を技術的に改善するための努力は続けられているものの、各部隊長は、機内におけるコミュニケーション要領を確立して、状況判断を適切に行わせるとともに、視程悪化に応ずる腹案を保持させるように着意しなければならない。

リーダーシップが鍵

航空事故発生率がベトナム戦争時代に戻らないようにするための鍵は、各級指揮官の「積極的な関与」と「主動性の確保」であり、そのどちらもが今後の航空科職種に変革をもたらす可能性のある事項である。
 結局のところ、各級指揮官がとるべき対策は、旧来から指導されている「規律の遵守」とならざるを得ない。列線において整備を行っている陸曹から最先任上級曹長及び旅団長に至る各級指揮官が確行すべきことは、「何が正しいことなのかを部下に明確に示す」ことである。
航空科部隊の指揮官が、規律を遵守してその任務の遂行に取り組むことにより、安全に任務を遂行できる能力を獲得することができる。我々が今日作り上げた状況が、明日の安全性と即応性を決定するのだ。
 Above the best, and remember, Army Safe is Army Strong!「最高よりも上を目指せ、陸軍の安全は陸軍の強さを示すことを忘れるな!」

陸軍准将ウィリアム・T・ウルフは、陸軍安全部長兼米陸軍コンバット・レディネス/セーフティ・センター(アラバマ州フォート・ラッカー)長であり、陸軍中佐ディビッド・S・フレッケンスティンは、米陸軍コンバット・レディネス/セーフティ・センターの航空任務部隊に所属している。

訳者コメント:
 陸上自衛隊の保有機数は448機(※2)であるのに対し、米陸軍は約10倍にあたる4,950機(※3)を保有しています。これだけの機数を保有し、かつ、国外への展開を継続しながら、クラスA事故の発生件数を年間10件以下に押さえている米軍の航空安全施策は、我々にとっても大いに参考になるはずです。

訳者注:
※1 米国の会計年度の開始は10月、終了は9月である。また、米国陸軍の航空事故は、概ね以下のとおり区分されている。
クラスA- 100万ドル以上の損害、航空機の破壊、遺失若しくは放棄、死亡、又は完全な身体障害に至る傷害若しくは疾病を伴う事故
クラスB- 20万ドル以上100万ドル以下の損害、部分的な身体障害に至る傷害若しくは疾病、又は5人以上の入院を伴う事故
クラスC- 1万ドル以上20万ドル以下の損害又は1日以上の休養を要する傷害若しくは疾病を伴う事故
クラスD- 2,000ドル以上1万ドル以下の損害、又は職務に影響を及ぼす傷害若しくは疾病を伴う事故
クラスE- クラスDに至らない航空インシデント
※2 平成23年度版防衛白書 資料16 「主要航空機の保有数・性能諸元」
※3 Wikipedia, “List of active United States military aircraft”, http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_active_United_States_military_aircraft

           

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2011年06月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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2件のコメント

  1. 11 より:

    そんなに減ったんですねーしらなかったです

  2. 管理人 より:

    コメントありがとうございます。
    現職の頃、陸上自衛隊の資料を見たことがありますが、同じような傾向だったと記憶しています。
    このため、事故が減少した原因は、戦闘状況下での飛行の減少よりも、安全確保のための技術の発達にあるのではないかと思っています。