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陸軍航空の情報センター

陸軍航空:シミュレーション訓練総局とシミュレーションの進歩

アンドリュー・オーウェンズ中佐

フォート・ラッカーのAVCOE(Army Aviation Center of Excellence, 陸軍航空高級訓練センター)内にあるDOS(Directorate of Simulation, シミュレーション総局)は、陸軍航空における訓練の先駆者として、比類のないリアリズムと品質の提供に努めています。2025年の残りの期間と、さらにその将来を見据えながら、陸軍のパイロットに最高の訓練機会を提供し続けるための2つの重要な取り組みの実行を監督しています。これらの取り組みの焦点は、既存のフライト・シミュレーション技術のアップグレード、訓練インフラの拡充、そして没入型学習体験の全体的向上にあります。これらの事業に対するDOSの投資は、急速に進化する技術的状況の中において時代を先取りすることが極めて重要であるとの認識に立ち、米陸軍のパイロットに至高の訓練環境を提供するという固い決意を表しています。

eRCTD

これらの取り組みの一つは、陸軍航空のPME(Primary Military Education, 初級軍事教育)の初級および上級訓練課程を支援するフライト・シミュレーター群のアップグレードです。このアップグレードには、従来のRCTD(Reconfigurable Collective Training Devices, 再構成可能集合訓練装置)から、より高度なeRCTD(Enhanced Reconfigurable Collective Training Devices, 機能強化型再構成可能集合訓練装置)への移行が含まれています。また、最新鋭で忠実度の高いAH-64アパッチOFT(Operational Flight Trainers, 実運用飛行訓練装置)を収容する最先端のシミュレーター施設についても、関連企業の支援を受けながら建設が進められています。さらに、既存の「ウォリアー・ホール・ノース・ベイ(Warrior Hall North Bay)」に設置されている旧式のUH-60およびCH-47用OFTの新機種への換装も行われています。これらeRCTDとOFTに関する取り組みは、いずれもパイロットの訓練を大幅に強化し、実機で実行する場合よりもはるかに少ないコストでの戦術能力の向上を可能にするものとなっています。

DOSが現在フォート・ラッカーに維持している18台のRCTDは、陸軍航空の学生が実施する仮想環境内での戦術訓練演習に不可欠なものとなっています。これらの装置は2005年以来、4つのPME課程において信頼性が高く効果的な集合訓練を行うために使用されてきました。現在は、AVC3(Aviation Captains Career Course, 航空大尉キャリア課程)、ACLC(Air Cavalry Leader Course, 航空騎兵リーダー課程)、ALE(Advanced Leader Exercise, 上級リーダー演習)課程、およびAWOAC(Aviation Warrant Officer Advanced Course, 航空准尉上級課程)において、複雑な戦術訓練シナリオを提供するため毎日利用されています。RCTDの能力を最大限に活用することで、陸軍のパイロットに、友軍と敵軍の航空および地上部隊と連携または対抗しながら運用するという複雑な状況を正確に再現した仮想環境を提供し、技能向上のための貴重な機会を与えることができています。

取り組みの優先順位

最優先の取り組みは、RCTDからeRCTDへの移行です。eRCTDは、複数機種の同時実行と計算能力の点において、訓練能力の大幅な飛躍をもたらします。シミュレーション可能な航空機の範囲も拡大され、UH-60M、CH-47F、およびAH-64Eにも対応可能となります。これは単なる対応機種の拡大ではなく、よりリアルな航空機計器表示、大幅に改善された情景、およびパイロット視野の拡大を特徴とした、より没入感のある体験を生み出します。また、アップグレードされたヘッド・マウント・ディスプレイは、状況認識とリアリズムをさらに向上させます。

eRCTDの重要な特徴の一つは、コックピットをさまざまな機種に再構成し、18機の複製機を保有する任務部隊をカスタマイズできることです。これらの機種の構成は、学生の学習目標の達成を最大限に追求し、各シミュレーションを学生のニーズに合わせて正確に調整するために不可欠なものとなっています。

eRCTDは、仮想要素と物理的構成品をシームレスに統合することにより優れた訓練体験を提供し、その結果、比類のないレベルのリアリズムをもたらし、陸軍のパイロットを現代の戦闘における課題に備えることを可能にします。この高度なシミュレーション技術への取り組みは、パイロットがあらゆる不測の事態に備えられるようにすることへの陸軍の強い意欲を表しています。

2023年に開始された2番目の重要な取り組みは、アラバマ州デールビルの基地外にあるフォート・ラッカーにおける、高い忠実度を有する航空フライト・シミュレーター複合施設の拡張工事です。2023年11月から2025年4月まで、DOSの契約業者は、主にIERW(Initial Entry Rotary Wing, 回転翼初級課程)の訓練を支援するウォリアー・ホールおよびビクトリー・ホールについて、建設プロジェクトの実行を監督しました。これらの建物には、UH-72ラコタ、UH-60ブラックホーク、CH-47チヌークヘリコプターなどの最新鋭の仮想OFTが収容されています。最近行われた拡張工事により、ビクトリー・ホールの施設に2番目に大きいオープン・ベイ格納庫が増築されました。AVCOEは、この新しい建造物に5台の高度な新型AH-64Eアパッチ OFTを設置する計画です。この拡張工事の実施は、進化する訓練プログラムのニーズに対応し、最先端の機器に十分なスペースを確保するための積極的なアプローチとして位置づけられています。

このプロジェクトは、陸軍航空訓練の将来への重要な投資を意味し、アパッチ・プラットフォームが提供する全能力を忠実度の高い仮想環境で習得するための専用スペースをパイロットに提供します。この野心的なプロジェクトの成功は、フォート・ラッカーにおいて、ウォリアー・ホール訓練複合施設内に駐留するわれわれが保有するすべての米陸軍航空機の仮想表現を完成させるため、15年間にわたって続けてきたわれわれの努力の成果なのです。

2026会計年度から2027会計年度にかけての18か月の期間にわたりDOSの契約業者が行う既存のOFTのアップグレードは、相当な規模の投資となります。この投資には、合計17台の装置が含まれます:4台のアップグレードされたCH-47チヌーク・シミュレーター、8台のアップグレードされたUH-60ブラックホーク・シミュレーター、そして5台の全く新しいAH-64アパッチ・シミュレーターです。これらのアップグレードは、機能性、忠実度、そして機体性能の再現性が大幅にレベルアップしたものになります。

コックピットはフル・モーション・プラットフォームに搭載され、IGE(in-ground effect, 地面効果内)およびOGE(out of ground effect, 地面効果外)ホバー効果のより正確な再現、外部荷重および環境要因に応じた出力管理、初期資格訓練など、重要なタスクを訓練するために不可欠な手がかりをパイロットに提供します。パイロットは、ローターの振動、空力効果、および高エネルギー機動に応じて物理的に要求される力など、よりリアルな感覚を体験できるようになります。

さらに、新型のOFT装置には、アップグレードされたコンピューター技術と高度な視覚表示システムが組み込まれ、比類のない解像度と没入感を提供します。最後に、強化された教官ステーションにより、教官パイロットは自分たちの飛行学生に的を絞った建設的なフィードバックを提供することに集中し、その能力を適切に評価し、スキル開発を加速させることが可能になります。

DOSは、技術の進歩に適応しつつ、これらの技術を仮想フライト・シミュレーターに組み込むことに引き続き注力していきます。このイノベーションへの継続的な取り組みは、陸軍の競争優位性を維持し、そのパイロットを将来の戦場の課題に備えさせるために欠かせないものなのです。

アンドリュー・オーウェンズ中佐は、アラバマ州フォート・ラッカーのシミュレーション総局運用士官です。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2025年07月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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