AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

ヘリコプターのローターウォッシュとアウトウォッシュ

博士 マーク・カルバート

アウトウォッシュにより水面に生じた波紋

2012 年、システム即応性部局(Systems Readiness Directorate)の前身である航空設計部局(Aviation Engineering Directorate)は、アメリカ陸軍の駐屯地であるフォート・ カーソンから空力工学に関する支援を依頼されました。

フォート・カーソンには、2013年7月に第4戦闘航空旅団が移駐することになっていました。このため、国家歴史保存法などに定められたところに従い、航空機が歴史的遺産に及ぼす影響を判断する必要がありました。ピニョン峡谷演習場などの訓練場内には建築物や岩絵などの遺跡が存在しており、それに対する影響が懸念されていたからです。第4戦闘航空旅団は、その訓練場内で運用される予定のAH-64アパッチ、OH-58Dカイオワ ウォリアー、UH-60ブラック ホークおよびCH-47チヌークのローターウォッシュが生じさせる風速を把握したいと考えていました。そこで、航空設計部局に対し、各機種が発生するローターウォッシュの分析を依頼したのです。

ヘリコプターの揚力は、回転するローターブレードを通過する空気を加速することで発生した推力によって得られます。ローターのディスク・ローディング(回転面荷重)は、ローターが発生する推力をローター・ブレードの軌跡が描く円の面積で割ったものです。加速された空気は周囲の空気を巻き込みながらローターの下に向かって流れ、ローターウォッシュを生み出します。生成されたローターウォッシュの平均速度は、ディスク・ローディングと空気密度の比の平方根に比例します。このことは、寒い冬から暑い夏になって空気密度が減少すると、ヘリコプターの総重量の増加と同等の影響が降下速度に生じることを意味します。

ローターの下に生じるローターウォッシュ流の空間的な均一性は、ブレードの数とローターの回転速度の積の関数で決まります。ローターのブレードは、回転中に周期的なパルスを生じさせます。たとえば、6枚ブレードのCH-54Bタルヘ重輸送ヘリコプターのパルス周波数は18.5ヘルツで回転速度は185回転/分ですが、2枚ブレードのOH-58Cカイオワ偵察ヘリコプターのパルス周波数は11.5ヘルツで回転速度は345回転/分です。ローター推力が一定の場合、ブレードの数を増加させたり、回転速度を増加させたりすると、パルス周波数が増加するとともに振幅が減少し、ローターウォッシュの流れ場の平滑性が向上します。ただし、そのための設計のトレードオフにより、ローターおよびハブの構造が複雑になり、重量が増加することになります。

ローターウォッシュの運動量は、その発生源であるローターから下方向にローター直径の2倍の距離の間はほとんど低下しません。ホバリングまたは低速飛行中は、ローターウォッシュがヘリコプターの胴体上を流れるため、ローター推力に対する垂直抗力が増加します。その後、ローターウォッシュは、小規模な乱流となって消失するか、地面や水面に衝突するまで降下を続けます。地面などに衝突したローターウォッシュは、その表面に沿って向きを変え、外側に向かうアウトウォッシュ後流になります。アウトウォッシュ後流の高さは、ローターの半径のすぐ外側でも、ローターの直径の少なくとも10~15パーセントに達します。その後は、半径方向の距離の増加に比例して高さが増加し、最終的には小規模な乱流となって拡散し消失します。

ローターウォッシュ内には、ローターブレードによる渦も発生します。最も強力な渦は、ブレード・チップにおいてブレード下面の高圧の空気がブレード・チップを越えてブレード上面の低圧領域へと流れこむことによって生じます。ただし、発生する先端渦の強さはブレード先端の形状によって増減します。 UH-60Mブラック・ホークのメイン・ローター・ブレードのような下反角を備えたスイープド・テーパード・チップが発生する先端渦は、UH-1Mイロコイのメイン・ローター・ブレードのようなテーパーのない真っ直ぐなチップよりも弱くなります。ローター・ブレードの根元部分にも渦が発生しますが、外周を高速で移動するブレード・チップに比べると、内縁に位置するために圧力差が小さく、その強度は小さくとどまります。先端渦と根元渦のいずれも、ローターウォッシュによって下方へと移動します。それらの渦の強度はローターウォッシュ内を移動する間にある程度低下するものの、自由流の乱流となって消失するまでの間、アウトウォッシュの流れ場内に無秩序な乱れを引き起こします。

航空設計部局は、ローターウォッシュとアウトウォッシュの空気流の挙動に関するこれらの知見に基づき、ヘリコプターの機種、最大離陸総重量、および代表的な気温および気圧に応じたローターウォッシュとアウトウォッシュの速度分布図を作成しました。求められた速度の大きさは、ビューフォート風力階級を単位として換算され、海上および陸上で経験する(本件の場合は、樹木や構造物に損傷を与える)条件に関連づけられました。フォート カーソンは、その後、ホバリングするヘリコプターによる被害を最小限に抑えるため、その速度分布図に基づいた保護区画を遺跡の周囲に設定しました。

マーク・カルバート博士は、アラバマ州レッドストーン工廠に所在するアメリカ陸軍戦闘能力開発コマンド航空・ミサイルセンター(Army Combat Capabilities Development Command – Aviation & Missile Center)の航空宇宙技術者です。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2024年01月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    ダウンウォッシュをローターウォッシュとアウトウォッシュに分けて説明する記事は、私にとってはじめてです。