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陸軍航空の情報センター

陸軍航空殿堂:イゴール・イワノビッチ・シコルスキー

マーク・アルバートソン

イゴール・イワノビッチ・シコルスキーは、1889年5月15日にロシアのキエフで生まれた。5人兄弟の末っ子だった彼は、幼い頃から読書家であり、3人の姉妹と兄によく本を読んで聞かせていた。航空への情熱を開花させるきっかけを与えたてくれたのは、イゴールの母親であった。彼女はイゴールにレオナルド・ダ・ヴィンチの話をしたり、その飛行機の絵を見せたりしたのである。イゴールは、また、ジュール・ヴェルヌの著作を熟読し、特にそのヘリコプターのアイデアに興味を持った。1903年から1906年までサンクト・ペテルブルクのロシア海軍兵学校に入学し、1907年にキエフの工科大学に入学した。ヘリコプターのアイデアを一旦諦めて、固定翼機の開発に専念すると、単発エンジン機および多発エンジン機の両方を含むさまざまなデザインの航空機を数多く作り上げた。

1912年には、機体前方にバルコニーがあり、16個の車輪を備えた、世界初の4発エンジン機であるグランドの開発に力を注いだ。1913年5月13日に初飛行に成功したこの驚異的な機体は、世界初の4発エンジン爆撃機である「イリヤー・ムーロメツ」として広く知られるようになった。1914年、シコルスキーはロシアを離れ、新たな祖国、新たな職業、新たな人生を求めてフランス経由でアメリカへ渡った。

1923年3月5日、シコルスキーは、現金800ドルと数千ドルの株式担保でシコルスキー・エンジニアリング・コーポレーションを設立した。そして1930年代後半には、ヘリコプターというかつての夢を実現しはじめた。1939年9月14日、VS-300として知られる自身の設計によるヘリコプターで安定した飛行に成功した。

「1940年5月26日、オハイオ州デイトンのライト・フィールドで、陸軍航空隊の資材課の隊員たちに対し、VS-300に関する映画を上映した。この売り込みは、アメリカ政府に財布の紐を緩めさせることに貢献した。ただし、当時すでにプラット・ルページのXR-1への投資を始めていた陸軍には、資金の余裕がなかった。それにもかかわらず、シコルスキーはVS-316という別の機体を5万ドルで製造する提案を提出した。陸軍はこれに同意し、1941年1月10日に契約が締結された。」(*1)

「元々のVS-316の特徴は、3つのテール・ローターを備えていることであった。中央の垂直ローターの両側に水平ローターが配置されていた。シンプルな垂直ローターへの設計変更のため、10,000ドルが当初の契約に追加された。VS-316の後継機であるXR-4の開発費用は、およそ20万ドルに上った。」(*2)

1942年5月20日、陸軍は15機のXR-4の開発を発注した。1943年1月には、さらに14機が発注された。第2次世界大戦中、シコルスキーのR-4は、世界初の量産ヘリコプターとなった。イゴール・シコルスキーとその名を冠した会社にとって、R-4 は始まりに過ぎなかった。それに続いて開発されたR-5は、多目的ヘリコプターH-19チカソーとともに、朝鮮戦争という戦闘環境において回転翼航空機の将来を示すことに貢献した。後継機のH-34は、大統領専用機としての使用を陸軍が承認した初のヘリコプターとなった。

シコルスキーCH-37中型輸送ヘリコプターおよびCH-54大型輸送ヘリコプターは、急速に変化する機動戦の特性に対応しうるシコルスキーの先進的設計の優秀さを実証することになった。シコルスキーは、数々の賞を受賞した。その中には、1952 年の国防輸送賞や1966年のアメリカ空軍協会による年間最優秀人物賞も含まれている。1974年には、1942年以前の時代を代表する者として陸軍航空殿堂の第1期会員に選出された。

陸軍の航空機動の追求に決定的な役割を果たしたイゴール・シコルスキーは、1972年10月26日に83歳でその生涯を閉じた。

脚注
1 – マーク・アルバートソン著『第2次世界大戦の歴史』1ページ「エッグビーターの物語」2016年10月を参照。
2 – 同上

マーク・アルバートソンは、受賞歴のある陸軍航空出版歴史家であり、ARMY AVIATION誌の寄稿者である。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2024年09月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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