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陸軍航空の情報センター

テクニカルトーク:サム・クルーズ博士の遺産(第2部)

飛行可能状態を維持する

トーマス・L・トンプソン博士

サム・クルーズ博士は、陸軍のパイロットや整備員が効果的かつ効率的に任務を遂行できるようにするための技術の開発および実証に情熱を注ぎました。

航空設計部局の航空力学部(現在のシステム即応部の一部)の部長であったクルーズ博士は、産業界、政府研究所および航空プログラム・オフィスの指導者たちと協力して、先進的な飛行制御システム、HUMS(Health and Usage Monitoring systems、機体健全性・使用状況監視システム)、および電子飛行性能計画アプリケーションの開発と配備を開始しました。クルーズ博士の先見性のある業績を紹介する三部構成の記事の第2部となる本稿では、航空機の安全性と即応性を向上させるHUMSの開発および実証に焦点を当てます。

ノーズ・ギアボックス(アパッチ)の故障状況

1990年代、陸軍の航空整備員は、ワンパーレブ(once-per-revolution、1回転あたり1回)のローター振動レベルを推奨値内に保つため、AVA(Aviation Vibration Analyzer, 携帯型航空振動解析装置)を使用するようになりました。ワンパーレブの振動レベルを低減することは、機体構成部品の寿命を延ばすだけではなく、振動による搭乗員への長期的影響を軽減する効果もあることが確認されていました。AVAは、CH-47チヌークの50時間ごとの振動チェックなど、重要なダイナミック・コンポーネントの定期的な点検にも使用されました。AVAを用いた取り組みが効果を上げる中、クルーズ博士らは、ローター回転の平滑(トラック・アンド・バランス)を維持し、動力伝達系統の主要構成品の振動を監視するため、機体上に恒久的に装備されたシステムの開発および実証に取り組みました。

2000年代初頭には、VMEP(Vibration Management Enhancement Program, 振動管理強化プログラム)の一環として、機上搭載システムの最初の実証試験が行われ、成功を収めました。この試験は、クルーズ博士と陸軍航空工学局のチーム、およびレス・アイズナー少将の指揮下にあるサウスカロライナ陸軍州兵など、政府、産業界、学術界の専門家による共同作業でした。そのVMEP振動監視システムは、サウスカロライナ陸軍州兵のアパッチおよびブラック・ホークに装備され、約2年間の飛行が行われました。その結果、機上システムを使用して定期的に振動を監視し、振動レベルを推奨値内に維持するように調整することの効果が確認できました。そのデータは、ローターのスワッシュプレートや動力伝達系統の各測定箇所に取り付けられた加速度計のデータを利用した、コンディション・インジケーター(Condition Indicators、CI)の開発および改良にも役立ちました。

機上振動監視システムの利点を確信した陸軍は、2005年、ハネウェル社のMSPU(Modernized Signal Processing Unit, 近代化信号処理装置)やグッドリッチ社のIHVMS(Integrated Vehicle Health Management System, 統合機体健全性管理システム)など、恒久的に機体に装備されるシステムの導入を開始しました。2013年には、特殊作戦機を含むほとんどの陸軍機にHUMS(Health and Usage Monitoring systems、機体健全性・使用状況監視システム)が装備され、整備作業の支援に活用されるようになりました。

これらのシステムの導入は、コックピットの振動レベルを監視し、推奨されるローター調整量を整備員に提供することで、ワンパーレブの振動レベルを制限値に保つための整備試験飛行の回数を削減しました。また、特定の飛行領域および定期的な間隔での振動レベルを飛行中に監視することで、トラック・アンド・バランスのための飛行時間およびそのコストを節減し、振動点検のために計測機器を一時的に搭載しての試験飛行を不要にしました。さらに、地上局のソフトウェアを用いることで、ローターおよび動力伝達系統の状態を把握し、最も早い機会に交換すべき構成部品の特定を可能にしました。HUMSにより不具合を初期段階で特定できたため、任務の中断を回避し、是正措置をあらかじめ実施できたケースも数多くありました。(図1は、アパッチのMSPUで検出されたノーズ・ギアボックスの不具合の例を示しています)。また、振動を継続的に監視することにより、アパッチのハンガー・ベアリングなどの寿命や、ブラック・ホークのオイル・クーラー・ファンなどの整備間隔の延期が可能になりました。

将来の航空機には、次世代のHUMSが組み込まれ、従来のシステムよりも、より詳細かつ包括的な健全性評価ができるようになる予定です。ただし、この能力を最大限に活用し、クルーズ博士が抱いていた健全性管理システムのビジョンを進化させるためには、陸軍と産業界がより緊密に協力し、次のようなシステムを開発・実証する必要があります。
(a) 個々の航空機から収集されたデータを陸軍および産業界の共同ウェブサイトに転送し、共通のツール・セットでデータが分析できる。
(b) システムの診断アルゴリズムおよび機上ソフトウェアをより柔軟に変更できる。
(c)構成部品の故障が近づいた場合に、交換部品を請求する兵站システムと通信できる。

また、陸軍および産業界は、すべての監視対象構成品について、実際の状態を把握し、文書化するため、補給処または工場レベルでの整備要領を確立する必要があります。そうすることによって、HUMSの指示を検証し、その精度を向上させて、クルーズ博士が目指していた即応性向上が実現可能になるのです。

トーマス・L・トンプソン博士は、アラバマ州レッドストーン工廠の米国陸軍戦闘能力開発コマンド航空ミサイル・センター、システム・レディネス局の空力機械工学主任技師です。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2024年09月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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