次世代の動力源
航空タービン・エンジン・プロジェクト・オフィスの近況
航空の世界は、動力技術の急速な成熟により、かつてなかった近代化の時代に突入しようとしている。近年におけるバッテリー、発電機およびエンジン技術の進歩は、航空機の性能の飛躍的な向上を実現しつつある。近い将来、ハイブリッド、MEA(More Electric Aircraft, 航空機装備品の電気化)などの電気技術の進歩が、ヘリコプターの設計や製造方法を劇的に変化させるであろう。これらの画期的な技術は、陸軍機の航続性能や殺傷性を向上させ、FVL(Future Vertical Lift, 将来型垂直離着陸機計画)の機体性能を向上させて、マルチドメイン作戦における圧倒的な優位性を陸軍航空にもたらそうとしている。陸軍航空には、現在および将来に必要となる動力源の改革を実現するための最も効率的な方策を慎重に検討することが求められている。
航空タービン・エンジン・プロジェクト・オフィスは、アパッチおよびブラックホーク用のGE T901改良型タービン・エンジンを開発し、その利用馬力と必要馬力の間のマージン拡大を図ろうとしている。GE T901は、FARA(Future Attack Reconnaissance Aircraft, 将来型攻撃偵察機)のエンジンとしても利用される予定である。また、航空タービン・エンジン・プロジェクト・オフィスは、動力源の包括的な管理に取り組んでいる。その際、タービン・エンジンだけに焦点を絞るのではなく、各機種共通で使用できる共通的な動力技術を利用し、各種航空機の動力システムを総合的に連携させることに着意している。
ITE(Improved Turbine Engine, 改善型タービン・エンジン)
現在、アパッチおよびブラック・ホークが搭載している動力源は、1970年代初頭に設計および開発されたゼネラル・エレクトリック社製のGE T700タービン・エンジンである。ブラックホークやアパッチの機体には、過去40年間、絶えず変化する敵を撃破するため、幾度となく改良が加えられてきた。そして、そのたびに導入されてきた新しいシステムは、機体重量の増加をもたらしてきた。この重量増加は、特に高温環境下での運用における各機種の揚力、航続距離、および機動性に直接的な影響を及ぼしてきたのである。
陸軍航空の近代化の最優先事項のひとつであるITEP(Improved Turbine Engine Program, 改善型タービン・エンジン・プログラム)は、この重量増加により失われた性能を取り戻し、陸軍の既存機種とその上位6つの近代化事業のひとつであるFARAに、適正な価格で信頼性の高い動力源を供給しようとするものである。ITEPの調達は、現在、マイルストーンBを達成し、ゼネラル・エレクトリック社のT901エンジンの設計、開発および納入業者への選定を完了して、EMD(Engineering and Manufacturing Development, 技術製造開発)段階を迎えている。マイルストーンBについては、2019年2月1日、陸軍契約司令部(ACC)とGEアビエーション社との間でT901タービンエンジンのEMD契約が締結され、予定より2か月早いという記録的な速さで達成された。その5億1735万7800ドルの契約は、陸軍の積極的近代化施策の一環として、航空タービン・エンジン・プロジェクト・オフィスによる陸軍航空隊の次世代ターボシャフトエンジンの設計、試験、および認定を支援するためのものである。このエンジンをできるだけ早く戦士たちの元に届けるため、GE社には、開発のスケジュールの加速を促すインセンティブが与えられている。
GE T901は、H-60ブラックホーク、AH-64Eアパッチ、およびFARA用に開発された、3,000SHPクラスのエンジンである。T901エンジンは、701Dエンジンが実現してきた世界トップクラスの性能、部隊レベルでの修理を可能にするモジュラー設計、および運用・保守コストの削減といった特性を維持しつつ、大幅な燃料節減と出力増大を実現しようとしている。
ITEPの次のマイルストーンは、2020年度第3四半期に予定されているCDR(Critical Design Review, 最終設計審査)であり、2021年第3四半期には、FETT(First Engine to Test, エンジン初号機試験)が予定されている。
電力システム
陸軍の現在の回転翼機は、環境によっては、十分なパワー・マージンを確保できていない。将来の動力源への要求増大に伴い、この状況はさらに悪化するものと予想される。現在の回転翼機は、その推進源をタービンエンジンに依存している。バッテリー、発電機、およびAPU(Auxiliary Power Unit, 補助動力装置)は、インターフェースがほとんどまたはまったくないため、それによるエンジンの補助は、極めて限定されいる。たとえば、現在のバッテリー能力は、緊急事態における機体の電力需要を満たすには十分でない。また、APUは、地上運転中は十分な電力を供給するが、飛行中は重量的負担をもたらすだけで、それがもたらす恩恵はごくわずかに過ぎない。パワー・マージンの不足の一因には、さまざまな動力システムを活用できていないこともあるのである。
包括的な出力管理は、現在および将来の機種に多くの利点をもたらす。現状においては、機体の必要馬力が発生馬力を超える場合、パイロットは、出力を制限せざるを得ない。優先順位に従って、重要度の低いシステムを手動で遮断するほかないのである。包括的出力管理システムは、利用可能な電力を効率的に確保し、電力需要に自動的に優先順位をつけて、出力制限の必要性をなくし、パイロットのワークロードを大幅に削減する。
現在、航空タービン・エンジン・プロジェクト・オフィスは、電力システムの性能および有効性を綿密に把握し、電力工学、充電、発電、および電力管理システムにおける技術進歩を速やかに活用しようとしている。そのためには、既製品の民間技術による速やか装備化検討やOTA(Other Transactional Authorities, その他の取引に関する権限)の迅速な契約媒体の活用などが必要となる。
電力システムはエネルギー貯蔵システムに大きく依存している。このため、改善の焦点となるのは、バッテリー技術である。航空タービン・エンジン・プロジェクト・オフィスは、現在、既存の機種、FVL、無人航空機システム、および固定翼機用の共通航空バッテリーの実用化を検討している。AMTC(Aviation and Missile Technology Consortium, 航空及びミサイル技術コンソーシアム)は、航空タービン・エンジン・プロジェクト・オフィスによって作成されたバッテリー仕様書に基づき、企業提案を募集している。その提案に関する契約の締結は、2020年1月に予定されている。航空タービン・エンジン・プロジェクト・オフィスは、また、より優れた信頼性および電力密度を実現しつつ、将来の電力需要を満たす約60KVAの油冷式共通発電機の仕様を起案した。さらに、飛行中に使用可能で、かつ、現行機種に導入可能なAPUに関する調査・分析を行うことも検討されている。
将 来
GE T901 ITEの開発は、現行のブラック・ホークおよびアパッチにおける必要馬力と利用馬力の間のギャップを大幅に減少させる。また、そのITEを陸軍のFARAに利用することで、陸軍航空にマルチドメイン作戦への対応が可能な次世代の作戦用回転翼機をもたらすことが可能になる。航空タービン・エンジン・プロジェクト・オフィスは、関連企業および民間航空におけるハイブリッドなどの革新的な電気システムの開発を助長し、より効率的な発電および充電システムの成熟を図るとともに、航空計画管理室の方針に従い、自らも新しい動力システム技術を生み出して陸軍航空の作戦用航空機の維持能力の向上に努めてゆく。包括的な動力管理へのパラダイムシフトは、指向性エネルギー兵器などの次世代兵器システムの開発と相まって、航空部隊の作戦範囲と殺傷性を大きく高める機会をもたらすことになるであろう。
大佐 ロジャー・カイケンデールは、アラバマ州レッドストーン工廠航空プログラム・エクゼクティブ・オフィスの航空タービン・エンジン・プロダクト・マネージャーである。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2020年01月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
電力需要が高まる中、発電機による負荷が利用馬力を確保するための重要な考慮事項になっていることを改めて認識できました。