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陸軍航空の情報センター

陸軍航空の推進力:航空タービン・エンジン・プロジェクト・オフィスの近況

大佐 ロジャー・D・カイケンデール

ITEP(Improved Turbine Engine Program, 改善型タービン・エンジン・プログラム)においては、COVID-19の影響を受けつつも、23年度のFARA競争試作機の初飛行に対応すべく、事業が加速されている。

2020年は、陸軍航空にとって、適応化、加速化、そして近代化が同時並行的に進んだ年であった。COVID-19の前例のない世界的な大流行は、行政機関および関連企業のあらゆる部門に大きな影響を及ぼした。「これまで通り」の年ではなかったのである。

陸軍航空は、COVID-19の影響を軽減するため、通信を活用し、柔軟性を重視し、「オーバー・コミュニケーション(同じ内容を何度も繰り返し伝えること)」をいとわずに関連企業と情報交換を行うことによって、「ニューノーマル(新しい常態)」への適応に努めている。特に、FVL(Future Vertical Lift, 将来型垂直離着陸機計画)については、FARA(Future Attack Reconnaissance Aircraft, 将来型攻撃偵察機)競争試作機(Competitive Prototype, CP)の製造およびFLRAA(Future Long Range Assault Aircraft, 将来型長距離強襲機)の各種プログラムに関連する事業を進めている。また、既存機種および戦闘航空旅団に対する支援を継続しつつ、各種装備品の供給、および関係国へのFMS(Foreign Military Sales, 有償援助)を実施している。

このような状況の中、航空タービン・エンジン・プロジェクト・オフィス(Aviation Turbine Engines (ATE) Project Office)は、2つのFVL関連第2段階近代化事業の中央管理事務局として、安全性を重視しつつ「ニューノーマル」に適応し、動力源改善のための設計、開発、納入および支援を推進している。

タービン・エンジン

ITEP(Improved Turbine Engine Program, 改善型タービン・エンジン・プログラム)は、FARA競争試作機の初飛行を実現するための重要なコンポーネントを供給するとともに、T700エンジンの後継エンジンとして、アパッチおよびブラックホークの能力維持に貢献する事業である。

高い調達優先順位を与えられた改善型タービン・エンジンは、3,000馬力クラスの次世代の最先端エンジンとして、FARAに提供されることが予定されている。このエンジンを搭載することにより、高温環境下における航続距離およびペイロードが増大し、燃料消費率が低減し、整備性が向上して、マルチドメイン作戦(Multi- Domain Operations, MDO)における陸軍航空の戦闘行動半径および致死性の向上が見込まれている。

2019年1月29日にはマイルストーンBが達成され、2019年2月1日にはT901タービンエンジンの設計、製造及び開発に関する5億1900万ドルの契約がゼネラル・エレクトリック(GE)アビエーション社との間で締結された。2010年度第2四半期には、3Dプリントで製造されたGE T901エンジンの実物大モデルを使用して、アパッチAH-64EおよびブラックホークUH-60Mでのフィットチェックを完了した。

ITEP統合チームは、アパッチ・プロジェクト・オフィス、多用途機プロジェクト・オフィス、ボーイング社、シコルスキー社およびGEアビエーション社と協力して、GE T901の形状、寸法およびヒューマン・システム統合(Human Systems Integration, HSI)を評価し、統合リスクの削減に取り組んでいる。

また、フィットチェックに問題がないことが確認されたことをうけ、最終設計審査(Critical Design Review , CDR)であるエンジン設計の技術審査を開始し、COVID-19パンデミックがもたらしたかつてない困難な状況にもかかわらず、予定より早い20年度第4四半期に完了した。3回の最終設計審査は、バーチャルで実施された。これは、主要なマイルストーン・イベントとして、初めてのことである。

現在は、21年度第4四半期後半のエンジン初号機試験(First Engine to Test, FETT)のマイルストーン達成に向け、厳格なコンポーネント・テストを実施するためのスケジュールの制定を加速している。エンジン初号機試験により、FARA競争試作機の初飛行、ならびにアパッチおよびブラックホークの開発試験を開始するために必要な予備飛行定格試験(Preliminary Flight Rating)の実施が可能になる。このエンジン初号機試験においては、すべての補機類が取り付けられ、エンジンの運転が初めて行われる。

航空タービン・エンジン・プロジェクト・オフィスは、ITEPを進捗させるだけではなく、T700およびT55エンジン・プログラムの管理も継続的に実施している。

T700エンジンは、40年間にわたり運用され、5,000万時間の飛行時間を記録し、6回にわたる主要性能の向上を経ながら複数の主要機種に搭載されてきた、優れた軍用タービン・エンジンである。2020年には、5年間の国外修理およびオーバーホール・プログラムが開始されるとともに、補機類改善プログラム(Component Improvement Program, CIP)のイベントがバーチャルで実施された。また、再設計されたP09改良型デジタルエンジン制御ユニット(Enhanced Digital Engine Control Units, EDECU)の搭載及びステージ1ローター・ディスク(ブリスク)の耐久性向上に関する事業が実施された。

T55エンジンは、60年間にわたりチヌークCH-47FおよびMH-47Gヘリコプターの動力源として使用され続け、2020年現在、1200万時間の運用時間を達成している。T55プログラム管理審査(Program Management Review, PMR)がバーチャルで実施され、FLRAAプロジェクト・オフィスと協力したエンジン要求事項の作成が進められている。

電力系統

2018年、 航空タービン・エンジン・プロジェクト・オフィスは、電力供給、電力貯蔵、電力生成、および電力管理システムの改善を促すため、電力システムに関連する技術の現況把握を開始した。その結果、既存技術への過度の依存により、電力をめぐる能力と需要の間に大きなギャップが生じていることが判明した。

この状況を踏まえ、航空タービン・エンジン技術部門内に創設されたのが電力系統(Electrical Power Systems, EPS)チームである。このチームは、要求事項の策定に必要な初期調査を実施し、契約手段を検討し、基本設計概念の構築および開発(Architecture Modeling and Development)、電力生成(Power Generation)、電力および温度管理(Power and Thermal Management)、電力変換および制御(Power Electronics)、ならびに電力貯蔵(Energy Storage)に関する検討を開始している。

第2段階近代化事業の優先事項のひとつである電力系統関連事業は、研究、開発、および他軍種、関連企業、学術機関とのコラボレーションを推進し、階層的アプローチを追求することにより、新たな問題解決策を生み出そうとしている。この際、既存機種を技術培養器として活用することにより、FVL要求事項を明確化し、将来のリスクを軽減し、FVLと既存機との共通システムに必要な技術統合の推進を図っている。なお、FVL要求事項を明確化するためには、広範囲にわたる調査・試験の実施および電力系統に関する共通的技術基盤の確立が必要であり、このことは、他の事業の進捗に、ある程度の影響を及ぼすことが予想されている。

2020年、電力系統チームは、初期の研究、概念設計、およびFVL要求事項の制定に関し、大きく躍進した。2020年5月には、12以上の企業との産業デー( Industry Day)をバーチャルで開催し、じ後のコラボレーションの基盤を確立した。

中でも、共通航空バッテリー(Common Aviation Battery)事業の進捗が目覚ましい。この電力系統事業は、バッテリーに関する要求事項の見直しとFVL要求事項の明確化に寄与する最初のものとなるであろう。20年度第3四半期にリスク軽減のための耐弾性試験(Risk Reduction Ballistic Testing)を完了したこの事業は、企業による事業開始の段階を迎えようとしている。

電力系統事業においては、既存機種がFVLのための技術培養器として活用されている。

将 来

航空タービン・エンジン・プロジェクト・オフィスは、エンジン・プログラムおよび電力系統事業を通じて、航空機の心臓部であるタービン・エンジンおよび補助・緊急電力を供給する電力系統のいずれに関しても、信頼できる解決策を適正な価格で提供しようとしている。また、FVLと従来機種の双方を支援するため、関連企業および学術機関がもたらしている急速な技術革新を生かし、垂直離着陸機、ハイブリッド、および電力機能に関わる技術の方向性を確立すべく、長期的視野に立った業務の実施に努めているところである。

各企業がハイブリッドおよび電気推進技術の研究開発に年間平均10億ドルを投資する中、航空タービン・エンジン・プロジェクト・オフィスは、新たな技術を陸軍航空に適用し、将来のマルチドメイン作戦における航空機の共通性、搭載性、および致死性を改善する機会がさらに増加してゆくことを見込んでいる。

大佐 ロジャー・カイケンデールは、アラバマ州レッドストーン工廠航空プログラム・エクゼクティブ・オフィスの航空タービン・エンジン・プロダクト・マネージャーである。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2020年12月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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2件のコメント

  1. 管理人 より:

    この記事で気になったのは、図に記載されている270vDCに関する情報です。
    本文では触れられていませんが、既に民間機では270vDCの利用が一般的になっており、軍用機への適用も始まりつつあるということです。
    「270v」って...、感電したら怖いですね。

  2. 管理人 より:

    「オーバーコミュニケーション」と「ニューノーマル」という言葉に出くわしました。
    どちらも、日本語になりつつあるようなので、そのままカタカナで表現することにしました。

    これらの言葉の翻訳にあたっては、こちらの記事を参考にさせていただきました。
    Over-Communication オーバー・コミュニケーション
    ニューノーマルとは?ポストコロナ時代の新たな働き方とその課題