陸軍航空の変革
陸軍航空変革の始まり
「陸軍航空の変革は2004年2月23日、RAH-66コマンチ・プログラムが中止された時にはじまった」と言う者がいるが、果たして本当にそうであろうか?陸軍航空は、南北戦争の勝利に大きく貢献した陸軍気球軍団を起源とし、米空軍誕生の基盤となった第1次世界大戦のArmy Air Corps(陸軍航空隊)及び第2次世界大戦のArmy Air Forces(陸軍航空軍)の創設を経て、朝鮮戦争における偵察、輸送、指揮・統制及び患者後送へリ機能の追加、ベトナム戦争における航空戦闘機能の追加等、常に変革を続けてきたのである。そして今、統合・連合作戦を主体とした戦い方に適応するため、これまでとは全く異なる新しい方法で、統合軍司令官のニーズに応えようとしている。
陸軍航空に対するニーズの進化
20年前から始まり、今後10年から15年は継続すると考えられる今回の変革をもたらした主たる要因は、「Persistent Conflict(継続的武力紛争)」と「Counter-Insurgency Fight(対テロ戦争)」である。これをさらに限定して、「OIF(Operations Iraqi Freedom、の自由作戦)」と「OEF(Operations Enduring Freedom、不屈の自由作戦)」が要因であるという者もいる。しかしながら、陸軍航空の変革は、これら2つの作戦だけではなく、グレナダ及びパナマ作戦、クエートにおける砂漠の楯作戦及び砂漠の嵐作戦、及びソマリアやバルカン諸国における作戦にも影響を受けているのである。
UASの装備
現在ほど、指揮官の状況の把握及び認識の必要性が高まったことはない。思慮深くかつ機敏な敵との戦いにおいて勝利を得るために最も重要な要件は、「(敵を)探知し(敵に)反応するまでの時間軸」である。このため、敵を探知する手段としての有人及び無人航空機への依存度は、これまで以上に高まっている。陸軍航空が装備しているUAS(Unmanned Aircraft Systems,無人航空システム)は、レイブン、シャドー、スカイ・ウオーリア(最新型の航続距離の長い多目的型UAS)等であるが、これらのシステムがその真の能力を発揮するためには、垂直方向だけではなく、水平方向の情報共有が必要である。現在の情報共有は、機種毎の専用システムを通じて行われているが、近い将来には、TCDL(Tactical Common Data Link,戦術共通データ・リンク)が装備され、すべての種類のUASを遠隔画像送受信機、共通地上ステーション又はAH-64D戦闘ヘリから制御し、それらからの情報を得ることが可能になる。将来的には、ARH-70A武装偵察へリ及びArmy Airborne Command and Control System(陸軍空中指揮統制組織)にもこの機能が拡張される計画である。
2003年8月、陸軍参謀長であった陸軍大将ピーター・J・シューメーカーは、J・D・サーマン中将(当時)の指揮下にArmy Aviation Task Force(陸軍航空任務部隊)を創設した。シューメーカーは、統合戦闘における兵姑業務の縮小を実現するため、高い機動能力を有する航空科部隊を活用することにしたのである。その後、サーマン中将やそれに続く中将ジェフリー・J・シュレゼールの指揮の下、航空科部隊のCAB(Combat Aviation Brigades, 戦闘航空旅団)への改編が計画・実行され、統合戦闘に必要な基盤が整備されることになった。この改編は、DOTMLPF(Doctrine, Organization, Training, Material, Leadership, Personal and Facilities, 教義、編成、訓 練、指揮及び教育、器材、人員及び施設)のすべての要素に影響を与える大規模な改編となった。一方、兵站業務を軽減するためには、旧式化した機体を再活用する必要があり、整備、維持及び訓練上の問題点を解決するため、機体の共通化についても検討しなければならなかった。また、GWOT(Global War on Terrorism,テロリズムに対する世界規模の戦争)を支援するため航空搭乗員を危険な地域に派遣する際には、わが国が有する最高の自己防護機器、通信機器等を装備させる必要があった。なお、衛生科が提案していた空中MEDEVAC(Medical Evacuation, 患者後送)や情報科が提案していたUASに関する事業の航空科への移籍は、陸軍航空任務部隊の戦力基盤の充実に大きく寄与することとなった。これらの提案に基づく航空戦力の増強は、陸軍航空の貴重な財産であり、これら2つの兵科のこれまでの業績及び陸軍航空に対する継続的な貢献に感謝したい。
CAB(戦闘航空旅団)への改編
陸軍航空の各部隊は、従来の航空旅団の約2倍の航空機及び人員で構成されるモジュール化CABへの改編を完了した。CABは、従前の師団隷下の航空旅団とは異なり、装備品等の管理を自ら実施するとともに、独自のASB(Aviation Support Battalion, 航空支援大隊)、航空管制中隊及び通信中隊、増強旅団本部を有し、年中無休で作戦を遂行できる能力を有している。また、空中患者後送部隊及びCH-47中隊(従来は軍団隷下の大隊に所属していたもの)は、CABの全般支援航空大隊隷下に12機の航空機を保有する中隊として編成された。近い将来には、スカイ・ウオーリア中隊の編成も予定されている。
将来の編成
RAH-66コマンチ計画の中止は、ブロックⅢアパッチ、ARH-70A及びスカイ・ウオーリアの導入等の技術革新を推進すれば、計画中止によるリスクを局限できるという判断に基づき実行されたものである。特にスカイ・ウオーリア等のUASの導入は指揮官の状況認識を改善し、敵を探知し反応するまでの時間を劇的に減少させ、戦術的偵察・監視及び目標獲得任務において不可欠なものとなりつつある。
次世代航空機の導入
陸軍航空任務部隊の誕生
米陸軍は、現在CH-47Fチヌーク及びUH-60Mブラック・ホークの装備化を推進中である。これらの新型機と旧型機との膨大な相違点をここで説明することはできないが、言うなれば、もはや親父やお袋の時代のチヌークやブラック・ホークではないと言うことである。米陸軍はまた、LUH-72Aラコタを導入中であるが、その目的は、非戦闘状況下で必要な航空能力を保持するためのコストを低減し、戦闘状況下に十分なUH-60を派遣できるようにしつつ、これまで十分に働いてくれたOH-58A/Cカイオア及びUH-1ヒューイを退役させ、兵姑上の負担の増加を伴わずに機体の性能を向上させることにある。また、老朽化したC-23シェルパ、C-12及びC-26に変わって、統合輸送機C-27Jスパルタの契約が締結され、初号機が既に納入されている。ARH-70Aについても、このすぐれた能力を有する機体を努めて早く兵士の元に届け、老朽化したOH-58Dカイオワ・ウオーリアを退役させたいと考えている。ただし、カイオワ・ウオーリアの最終号機の退役は、2020年以降になる見込みであり、この間、この実績のある働き者の能力向上についても、継続的に実施する予定である。陸軍航空の将来における成功の鍵は、相互運用性の向上である。AH-64のデジタル化は、陸軍航空の先陣を切って実施されたが、その地上部隊との連携を含めた相互運用性は、必ずしも十分なレベルに達していない。今後の航空機への新技術の導入に際しては、この教訓を忘れないようにしなければならない。
UASの相互運用性
陸軍が装備するUASを相互運用するためのOSDGCS(One System ground control station,ワン・システム地上管制ステーション)は、火力旅団及び戦場監視旅団に配置され、陸軍の共通地上コントロール局として、シャドゥ、ハンター及びスカイ・ウオーリアシステムの相互運用を可能にする。また、Army Command Post of the Future(陸軍将来指揮所)及びDistributed Common Ground System-Army(陸軍共通地上システム)と連接した運用に加えて、各端末の独立した運用も可能となっている。
チーム・ワーク
GWOTを戦いながら、陸軍航空の変革を進めることは、人事、兵姑及び予算要求に大きな困難をもたらしたが、航空科部隊は、その構成員である諸官の日々の努力により、今後も有事に対する即応性を維持できるであろう。この変革は、チーム・ワークが必要な団体競技である。そのチームとは、議会、産業、メディア、国防省及び統合参謀本部とのチームであり、あるいは諸職種連合チームであり、陸軍参謀、Army Materiel Command(陸軍資材コマンド)、航空担当プログラム・エグゼクティブ・オフィス、航空戦闘センターと陸軍航空本部とのチームである。現在実施されている世界各地への同時展開は、陸軍航空の装備、搭乗員及びその家族に大きな試練を与えているが、諸官のプライドとプロ意識がこう言わせるのである。「We are Above the Best」(最上たれ!)
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2008年02月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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