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陸軍航空の情報センター

なぜFLRAA(将来型長距離強襲機)なのか?

フィリップ・C・ベイカー准将

ベル V-280 技術実証機

陸軍航空は、地上指揮官を支援するという任務のためにのみ存在する。指揮官が今日そして明日の戦場における長距離機動のために必要としているのは、柔軟性、生存性および信頼性である。

陸軍や統合軍が戦闘力を維持するためには、速度や新技術を有する陸軍機を速やかに開発し、敵の能力向上を先取りする必要がある。陸軍が敵との能力差を埋めるために選択したのは、「白紙設計(clean-sheet design)」と呼ばれる手法であった。それは、100回以上の実験・実証、高精度モデリング、研究、そして兵士主導の検討を通じて得られた情報に基づいて目標達成に必要な要求事項を特定するという慎重なプロセスを経て行われた。FLRAAには、現在の脅威に対応するだけでなく、プログラムの存続期間を通じて維持されるMOSA(モジュラー・オープン・システム・アプローチ)が活用されている。これにより、革新的なデジタル・エンジニアリングの利用とデータ所有権の明確化が促され、新しいテクノロジーが成熟し、利用可能になった場合の迅速な更新や改良が可能となる。

FLRAAは、陸軍および統合軍の指揮官に、固定翼機と垂直離着陸機の利点を兼ね備えた次世代回転翼機を提供する。これにより、長距離の空中機動、海上阻止、医療後送、戦闘捜索救難、人道支援、および戦術補給の実施が可能となる。FLRAAは、従来の陸軍機の2倍の速度で2倍の距離を飛行できる。陸軍将来コマンド司令官のジェームズ・E・レイニー大将は、陸軍の作戦遂行にはこの能力が不可欠であると証言している。FLRAAは、そういった能力を提供すると同時に、過去40年間に搭載重量の増加によって失われた完全武装歩兵分隊の搭載能力を回復することになる。

構想から現実へ

FLRAAは、速度と航続距離を向上させることに加えて、フライ・バイ・ワイヤにより操縦能力を向上させ、将来的には自律操縦を可能にすることで、陸上部隊にかつてない革新的な能力をもたらす。その設計は、JMR-TD(統合多用途ヘリコプター 技術概念実証)プログラムを通じて得られた技術革新に基づいている。そのプログラムには、MOSAの開発を含む9つの技術成熟化事業、2回の競争実証およびリスク軽減(Competitive Demonstrations and Risk Reduction)プロジェクト、そして数百時間の飛行時間が含まれていた。これら全ての革新的技術を手中に収めたベル・ヘリコプター社は、FLRAAバージョン1の設計、開発、試験の契約を獲得し、2025年にはデジタル・プロトタイプを納入する予定である。2024年2月、JROC(統合要求監査評議会)はFLRAAバージョン1能力開発文書(CDD)を審査し承認した。続いて、2024年7月にFLRAAはマイルストーンBの達成を承認され、次の開発段階に入った。この文書により新設計の陸軍航空機が承認されるのは31年ぶりのことであり、航空機システムがJROCの評議を経て承認されたのは初めてのことである。

空中強襲型機の要求事項

指揮官の要求を満たした継続的な変革を行うためには、指揮官と兵士からのフィードバックを欠かすことができない。FLRAAの機体設計には、それらのフィードバックが迅速に反映されている。

指揮官からのフィードバックに関しては、2024年に第101空挺師団がウォーファイター演習の計画と実施にFLRAAを組み込んだ。その結果、FLRAAが師団のL2A2(大規模長距離空中機動)の実施を可能にする機体であることが実証された。ケンタッキー州フォート・キャンベルの第101空挺師団長であるブレット・シルビア少将は、L2A2を「1個旅団戦闘団を500マイル以上の距離にわたって1夜の間に投入し、敵陣地後方に到達させた後、持続的な戦闘作戦を実施する能力」と定義している。

現在、陸軍にはこの能力が欠如している。このことは、第101空挺師団が最近、ルイジアナ州フォート・ジョンソンの統合即応訓練センター(JRTC)での訓練において自己展開作戦を行った際にも明らかになっていた。作戦中、師団は兵員、装備、燃料を事前配置しなければならず、その後、L2A2作戦を完了するまでに数夜の時間を要した。FLRAAとCH-47重輸送大隊が追加されれば、第101空挺師団は1回の夜間でこの旅団戦闘団の移動を完了できるようになる。それは、師団の目標を達成させ、陸軍への統合軍戦闘加入(JFE)能力の提供を可能にする。

兵士からのフィードバックに関しては、ベル社が強襲機用のコックピットとキャビンの設計の洗練に取り組んでいる。2023年12月には、テキサス州フォート・カバゾスの第1騎兵師団の兵士たちが、最初のSUE(特別使用者評価)を実施した。2回目のSUEは、ベル社がFLRAAの模型をハワイのスコフィールド・バラックスに輸送して行われた。それを用いて戦闘訓練を行った第25歩兵師団の兵士たちは、さらなるフィードバックを提供した。これらのフィードバックは、装備品の収納、戦闘員の乗降、およびガナーや搭乗員の配置を最適化するためのキャビン形態の設計に反映される。

航空医療後送型機の要求事項

FMC-TD(将来型医療後送用キャビン技術実証機)において医療業務を実施する第82戦闘航空旅団の航空救急救命士。その目的は、FLRAA患者後送型機の改良に向けた試験を行いフィードバックを提供することにある。

医療後送(MEDEVAC)形態は、陸軍や統合軍にとって極めて重要である。FLRAA患者後送型機の情報収集には、NAVAIR(海軍航空システム・コマンド)が開発したFMC-TD(将来型医療後送用キャビン技術実証機)が用いられている。今後1年間にわたり、この実証機を総軍コマンド(FORSCOM)、訓練教義コマンド(TRADOC)、および州兵訓練施設などの複数の場所に移動させて、兵士たちによる評価を行うとともに、航空救急救命士によるモックアップ内での医療処置を検証する。これにより、FLRAAの医療後送型機の設計に必要な情報が収集される。 昨年11月、この技術実証機は最初のSUEのため、ノースカロライナ州フォート・リバティーに移送された。参加した衛生兵は、様々な医療処置シナリオを実施する間、人間工学の専門家によって観察され、降機後は今後の変更や更新に役立てるためのインタビューを受けた。この技術実証機は、利用が予想される患者取扱いシステムのレイアウトを検証するため、機体の配置を迅速に変更できるようになっている。例えば、3段積みの担架患者を2列に配置したり、または2段積みの担架患者を3列に配置したりすることができる。

さらに、この実証機は新型の担架装置も装備している。これは、「存在しないスペースを生み出す」ため、引き出しのように引き出せる構造になっている。FLRAA医療後送型機は、最終的には、6名の担架患者または歩行可能な患者を組み合わせて収容する能力を持つことになる。これにより、向上した航続距離と速度を活用して「戦場を一掃」し、戦場で多数の兵士の生命を救うことが可能となる。

今後の展望

陸軍がこの革新的な機体の配備を目指す中、関係者は次のFLRAAバージョン2に組み込まれる要件事項を洗練し、その更新を開始している。その意図は、別の目的を持った航空機を開発することではない。それは、MOSAの利点を活用して最新技術でFLRAAを更新・改良ドする反復的な取り組みのひとつである。このプロセスは、この機体のライフサイクルを通じて継続されることになる。

関係者がFLRAAの将来型機の改良に取り組む中、陸軍にはいくつかの領域においてさらなる調査を行う余地がある。それは、将来の機動部隊指揮官と戦闘員に、大規模戦闘作戦(LSCO)での戦闘に部隊が勝利しうる能力を継続的に提供するためのものである。

FLRAAは、現在のパイロットがかつて経験したことのない低高度をはるかに高速で飛行することになる。その速度においても、地形を利用した隠蔽を行い、生存性を確保するためには、パイロットの感知能力の向上という要求事項を達成しなければならない。地形や障害物を感知し、それを表示するヘッドアップ・アイズアウト機能などのシステムは、パイロットの作業負荷を軽減し、あらゆる状況下で環境を活用した戦闘や飛行を行うために必要な処理能力を向上させる。

陸軍が次世代の指揮統制能力の導入に取り組む中、陸軍航空には「ボックス型無線機(box based radios)」から、汎用ボードにカード型インターフェースを配した「ソフトウェア無線機(software-defined radios)」へと移行することが求められている。これにより、FLRAAは地上指揮官の進化する通信要求を満たし、敵の脅威に対応できる新しい波形やアンテナを使用できるようになる。

FLRAAの白紙設計とフライ・バイ・ワイヤ、MOSAの実現により、陸軍は将来の機種において、技術の成熟に応じた「監視下の自律性(supervised autonomy)」の段階的な導入が可能となる。人間を自律操縦のループ内または上に置きつつ、特定のタスクを自動化することで、状況認識を向上させ、認知のための作業負荷を軽減し、生存性を高めることができる。将来の自律操縦は、FLRAAのフライ・バイ・ワイヤ飛行制御システムと組み合わされ、完全な自律操縦航空機への道筋を切り開くことになる。

陸軍の航空機および車両は、空中および地上から発射される空中発射型UAV(LE)の発射能力を持つことが求められている。FLRAAバージョン2は、陸軍に対してLEを搭載および展開するための新たな機体を提供し、地上指揮官が適切な場所と適切なタイミングでLEの運用を確実に行うための能力の向上と柔軟性の増大をもたらすことになる。

結論

FLRAAの新たな設計と実証済みの技術は、陸軍に前例のない能力をもたらそうとしている。FLRAAは、アメリカが戦争に勝利するために必要な陸軍および統合軍の長距離機動をもたらす速度、航続距離、柔軟性および輸送能力を実現する。同時に、MOSAを基調とすることにより、費用対効果の高い継続的な改良と戦闘員の効果的な運用を可能とし、技術的優位性の維持を約束するのである。

BG フィリップ・C・ベーカー准将は、アラバマ州レッドストーン工廠に所在する将来型垂直離着陸機クロス・ファンクショナル・チームのチーム長である。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2025年01月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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