翻訳作業にGemini Canvasを使う
はじめに
昔々、ある翻訳の教科書に次のような翻訳作業のやり方が説明されていました。
- Wordに一文ごとに改行しながら原文を打ち込む
- 原文の下の行に訳文を入力する
- 完成したら、原文を削除する
こんな手間のかかるやり方でも、手書きでやっていた頃に比べれば、夢のような便利さでした。
その後、翻訳メモリが登場し、もっと簡単に翻訳作業ができるようになりました。私もWordfastやOmegaTを使ってきました。過去に出版した2冊の訳書の翻訳も、翻訳アプリがなければ決して成功しなかったでしょう。さらに、昨年からは生成AIを利用した「ヤラク翻訳」を使うようになり、翻訳作業は苦痛なものから楽しいものへと大きく進化してきました。
最近では翻訳以外の執筆業務にもGeminiなどの生成AIを使うようになり、それは日々のあらゆる業務に欠かせないものとなってきました。そんなある日、ふと思い立ったのです。
「翻訳作業もCanvasでできるんじゃない?」
やり方
要は、昔の教科書に書いてあった手順をAIにやらせるということです。
具体的には、GeminiのCanvasを使って、次のようにすれば実現できます。本当はClaudeを使いたい(訳文がとても良い)のですが、Canvas機能がないのでGeminiを使っています。試していませんが、ChatGPTでもできると思います。
ただし、ご存知のとおり生成AIは凄まじい勢いで進化していますので、明日は別のやり方を選んでいるかもしれません。
1. 準備
Canvasに原文と訳文を上下に並べて表示させます。
① 設定の追加
「設定とヘルプ」→「保存された情報」をクリックし、次のリクエストを追加します。
翻訳は、陸軍航空用語集(https://docs.google.com/document/d/1cM_Adksd___gf7IvnyrQle5G4QyFaZP4i6nFbO04guM/edit?usp=sharing)を使用して行う。
私の場合は、これ以外にも専門用語や頭字語の表記方法などをリクエストしています。

ちなみに、Gemのカスタム指示を使ってもよいのですが、現状ではGemを使うとCanvasが使えません。
② プロンプトの入力
「チャットを新規作成」をクリックし、次のプロンプトを入力します。(試行錯誤しましたが、この文言が一番良いようです。元自衛官なので、AIへの指示は常に命令口調です。)
一文ごとの対訳形式で翻訳せよ。 |
③ ファイルの追加
「+」ボタンを押して、翻訳したいファイルを追加します。もちろん、テキストをペーストしてもOKです。URLで原文を指定することもできます。
④ Canvasの起動
「Canvas」ボタンをクリックします。

⑤ 実行
「送信」ボタンを押すと、Canvas上に原文と訳文が上下に並んだ状態で出力されます。

2. 翻訳作業
翻訳作業は、Canvas上の原文を参照しながら、訳文(Geminiが行った下訳)を修正して行います。もちろん、Geminiに質問したり、修正を指示したりすることも、自由に行えます。敬体(です・ます調)から常体(である調)への変換などの修正も、Geminiに指示をすれば一発でできます。
気をつけなければならないことは、Geminiがユーザーが行った修正を無視して、自分が行った翻訳に戻してしまう場合があることです。その場合は、「前のバージョン」ボタンを押せば元に戻ります。念のため、時々「共有とエクスポート」ボタンを押して、Googleドキュメントなどに保存しておいた方が安全かもしれません。
ちなみに、Aviation Assetsの翻訳作業では、生成AIの訳文がそのまま残るのはせいぜい5%くらいです。残りの95%は、何らかの手を加えなければ満足できる翻訳になりません。
3. 完成・出力
翻訳作業が完了したCanvas上の文章から原文を削除して、書式を整えます。
① プロンプトの入力
次のプロンプトを入力します。
原文を削除し、翻訳前の段落構成を復元せよ。 |
② Canvasの起動
「Canvas」ボタンが押ささっている(北海道弁)ことを確認します。

③ 実行
「送信」ボタンを押すと、Canvasに翻訳前の書式で訳文が出力されます。

③ エクスポート
「共有とエクスポート」ボタンを押せば、翻訳結果を出力できます。
なお、見出しの書式は次のプロンプトで設定できます。
見出しに書式を設定せよ。 |
メリット
- 翻訳メモリのように余計な機能(失礼)がないので、スッキリした環境で翻訳作業に集中できますし、編集操作も軽いです
- 原文と訳文を上下に並べた状態で作業できます(私は横に並べてあるよりも、こちらが好きです)
- 用語集の語数に制限がありません(7,000語以上は試していません)
- PDFファイルなどからテキストを抜き出す作業が不要です(翻訳メモリでもできますが、AIの方が正確なようです)
- 当然ながら、AIがフル活用できます
デメリット
- 無料版ではいろいろと制限がありますので、PRO版の契約が必要です
- 翻訳メモリ機能はありません(やろうと思えばできるかもしれませんが...)
- その他もろもろの機能もありません(私は不要です)
発行:Aviation Assets 2025年05月
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