編隊飛行
安全は、自然に確保できるものではありません。それには、各個人および指揮官が適切に訓練され、任務の計画および実行における規律が維持され、すべての行動が規定された基準に適合していることが必要です。航空のプロである私たちは、国家および同僚の兵士たちに対して、安全を確保する責務を負っています。最近の事故を見ると、編隊飛行の技量低下が見られます。特に夜間や新規任務における編隊飛行における技量低下が著しい状態にあります。基準を遵守することは、不測の事態において、特に重要となります。その多くは、計画外の行動を行った場合に生じます。そのような行動は、十分なセーフティー・マージンを確保していた任務を、セーフティ・マージンを超過させて事故を発生させる高リスクな任務に変えてしまうのです。セーフティー・マージンを維持するためには、基準を遵守するか、任務を変更するかしかありません。
編隊飛行においては、2機以上の航空機がブリーフィングで示された隊形で飛行したり、戦闘機動を行ったりすることが求められます。この記事は、TC 3-04.4「Fundamentals of Flight」の第6章を参考にして記述したものです。そこには、(異機種によるものを含む)編隊飛行に必要な基本的な操縦テクニックが示されており、搭乗員が他機と接近した状態で安全に飛行しつつ、状況判断を適切にし、戦闘力を集中するために必要な事項が記載されています。航空攻撃や攻撃/偵察活動などの割り当てられた任務を完遂するためには、これらのテクニックが必要なのです。編隊飛行の利点には、統制が容易であること、予見を容易にすること、柔軟性を維持できること、相互支援を容易にすること、敵の脅威を早期に発見できることなどがあります。編隊飛行による戦術機動は、チームによる作戦の遂行に適しており、編隊規模を拡大することにより大規模な作戦に対応することもできます。
編隊には、飛行安全を確保するうえで重要な役割を担うポジションがあります。それは、空中部隊指揮官 (air mission commander, AMC)、長機(flight lead)および僚機(wingman)です。編隊飛行においては、クルー・コーディネーションを活用して積極的にコミュニケーションを図りつつ、状況判断を適切に行う必要があります。また、任務を遂行するためには、搭乗員間相互の情報伝達を常続的に行い、危険を回避するための注意喚起を編隊全体に行き渡らせなければなりません。
空中部隊指揮官は、任務の計画、編成およびブリーフィングを担当し、任務を割り当て、編隊を統制し、飛行規律を維持して、任務の完遂を図ります。そのためには、すべての飛行リソースを掌握し、各搭乗員の能力を把握している必要があります。空中部隊指揮を効果的に行うためには、状況判断能力を適切にし、各搭乗員への情報伝達を確実に行わなければなりません。
(チームおよび編隊)長機(lead)および僚機(wingman)は、編隊内のポジションによって生じる役割です。チーム長機(team lead)とは、チームとして行動する2機の航空機の長機(flight lead)です。編隊長機(flight lead)とは、空中部隊指揮官によって指定された編隊の指揮官であり、通常は編隊の中で最も練度の高い機長をもって充てられます。長機の選定にあたっては、能力ならびに任務、戦術および部隊SOPに関する知識を考慮しなければなりません。長機の主要な役割は、航法および無線通信の実施、ならびに障害物/脅威の回避です。空中部隊指揮官は、チーム内の負担配分を管理し、飛行間の業務を分担させます。2番機は、常に長機を交代できるように準備しておく必要があります。
僚機(2番機以降) には、飛行間の補助的な業務が割り当てられます。任務の計画や準備を支援させることもあります。僚機は、長機を基準として、それぞれのポジションを飛行します。僚機には、所望の隊形を維持し、相互支援を行うことが求められます。また、障害物や敵の脅威だけでなく、他機との衝突を回避することにも着意が必要です。
「Fundamentals of Flight」によれば、編隊飛行の実施に際しては、機数に関わりなく、長機および僚機を指定する必要があります。編隊飛行任務を行う搭乗員には、単機の場合とは異なる行動が求められるのです。編隊飛行任務の実施に際しては、部隊によって承認された編隊飛行任務ブリーフィング・チェックリストに基づいたブリーフィングを行わなければなりません。そのチェックリストには、以下の事項が含まれている必要があります。
- 隊形
- 高度
- 対気速度
- 灯火の統制
- 長機の交代要領
- 先行機を見失った場合(Loss of visual contact)の処置/空中会合(in-flight link-up)の要領
- 通信不能(Loss communications)時の手順
- IIMC(予期していなかった天候急変等による計器飛行状態)時の手順
- 敵と遭遇した場合の行動
- 緊急着陸時の行動手順
- 編隊離脱(Separation)の要領
これらの項目のうち、長機の交代要領および先行機を見失った場合の処置/空中会合の要領の2つは、特に重要です。「Fundamentals of Flight」においては、いずれも潜在的な危険性を有しており、会合は可能な限り地上で行うべきであるとされています。また、加速して長機を追い越すことで長機を交代することは、昼夜を問わず、決して行ってはならないとされています。
先行機を見失った場合の処置/空中会合の要領においては、編隊の再構成が最も重要です。その鍵となるのは、機内および編隊内でのクルー・コーディネーションです。機体が前に出すぎることを防止するためには機体間の距離を保つことが不可欠であり、高度差を設けることは安全マージンを著しく増大させます。空中部隊指揮官は、機体相互間の間隔を維持するため、高度、基準点、方位などを示します。空中部隊指揮官が任務を遂行するためには、隊形の維持が欠かせません。
「Fundamentals of Flight」の第6章には、クルー・コーディネーションを確立するために必要な適切な用語が示されています。基本的な隊形となるのは、戦闘隊形(combat cruise)、左/右戦闘隊形(combat cruise left/ right)、戦闘縦隊(combat trail)および戦闘展開(combat spread)です。搭乗員は、編隊の隊形に応じて必要な機体間隔(horizontal separation)および高度差(vertical separation)を維持しつつ、機動の要領を検討し、ポジションの変更は必要最低限に留める様にしなければなりません。
機体間隔(horizontal separation)は、(機種に応じた)ローター直径を用いて定義・指示されます。その値は、ローター回転面同士の間隔、つまり先行機のローター・ディスク後端から後続機のローター・ディスクの前端までの間隔を意味します。機体間隔は、通常、任務ブリーフィングで決定され、2番機によって設定されます。2番機より後方の機体は、それによって設定されたパターンに従うことになります。機体間隔は、次のように定義されます (図7)。
- タイト(Tight)タイトの機体間隔は、ローター・ディスク約2個分です。
- クローズ(Close)クローズの機体間隔はローター・ディスク3~5個分です。
- ルーズ(Loose)ルーズの機体間隔は、ローター・ディスク6~10個分です。
- エクステンデッド(Extended)エクステンデッドにおいては、戦術上の要求に応じ、ローター・ディスク10個分以上の機体間隔を保持します。
高度差(vertical separation)は、次のように定義されます (図8)。
- フラット(Flat)すべての航空機は同じ高度で飛行します。
- ステップアップ(Stepped-up)後続機は、先行機よりも1~10フィート高い高度を飛行します。
- ステップダウン(Stepped-down)後続機は、先行機よりも1~10フィート低い高度を飛行します。
編隊飛行の成功の鍵は、搭乗員間の意思疎通および各搭乗員の適切な操作にあります。任務を安全に完遂するために必要な共通の基準を提供することにより、編隊飛行における相互に近接した状態での飛行安全を維持するために欠かせないのが、TC 3-04.4「Fundamentals of Flight」第6章に記載されているテクニックなのです。
訳者注:図1~図6(いずれもTC 3-04.4から抜粋したもの)は、訳者が追加したものです。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2023年06月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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2件のコメント
整備員の私には不慣れな用語の多い記事です。
訳語には不適切なものがあるかも知れません。
お気づきの点があれば、教えていただけると助かります。
陸上自衛隊においては、空中部隊指揮官が長機を兼ねている(兼ねてしまっている)場合が多い気がします。