航空機の地上搬送およびサービシング中の事故
地上搬送およびサービシング中の事故とは、無人機を含む航空機の不適切な地上搬送またはサービシング(保守業務)に起因する事故またはそれに関連する器材の不具合に起因する事故を指す。
それには、航空機のけん引、燃料補給、貨物の積み降ろし、ジャッキング、吊り上げ、給脂、除氷などによるものが含まれる。分析によれば、航空事故の43%は、地上事故により占められている。地上事故の大部分は、不適切な整備や地上搬送に起因する、地上搬送及びサービング中の事故によって占められている。具体的には、航空機のサービシング、けん引、貨物の積み下ろし作業中に発生したものが多い。地上搬送およびサービシング中の事故の94%がヒューマン・エラーによるものであり、陸軍航空で最も予防可能な事故であると言える。事故防止対策を徹底し、この傾向から脱却するために定められた指標として、パフォーマンス・ベースド・エラー(performance-based error)がある。パフォーマンス・ベースド・エラーとは、各隊員が事故を誘引する要領で特定のアクションを行った場合に生じる要因である。それには、機器の意図しない操作、チェックリストの未活用、不適切な手順、航空機または車両の不適切な制御、見張りの不十分、対応行動の不適切などがある。
サービシング中の事故は、地上搬送およびサービシング中の事故全体の33.7%を占める。そのほとんどが、不適切なサービシング手順によるものであり、手順が正しく守られていないことが直接的な原因となっている。IETM(Interactive Electronic Technical Manual, 対話型電子整備実施規定) は、複数の作業パッケージ (work packages, WP)で構成されている。そこには、特定の航空機において、特定の整備タスクを実施するために必要な手順が詳細に定められている。また、共通整備実施規定 (TM-1-1500-204 シリーズ)は、一般的な整備手順を定め、機種共通のさまざまな整備手順の実施要領を示している。各整備員は、整備実施規定に従った手順に従ってサービシングを実施しなけらばならない。各部隊の検査陸曹、整備幹部等は、部下に対し、規定に基づくサービシングの実施を徹底する必要がある。サービシングに起因する事故の発生を減少するためには、個々のタスクについて技術検査員育成プログラムを実施することが有効である。
地上搬送中の事故は、地上搬送およびサービシング中の事故全体の31.6%を占めている。この事故は、航空機のけん引および貨物の積み下ろし業務中に発生している。分析の結果、地上搬送による事故のほとんどは、手順が適切に履行されなかったり、タスクに割り当てられた人員が不足していたり、見張りが中断されていた場合に発生している。これらの要因により、けん引中の航空機が他の航空機、貨物積載機器またはその他の静止物に接触し、装備品を損傷させたものがほとんどを占めている。航空機の地上搬送中の事故を防止するためには、適切な整備実施規定を参照し、その手順を確認したうえで、適切な要員を配置することが必要である。
航空機のけん引を実施する地上支援要員は、次に述べる手順を遵守しなければならない。けん引作業を実施する前に、けん引車の操縦手がすべての機種をけん引できるように訓練されていることを確認し、必要な監督を行わなければならない。特定の機種に関する具体的な手順については、該当する整備実施規定を参照すること。
一般的手順
以下の手順は、すべての航空機の地上搬送に適用される。
航空機を地上搬送する際に必要な最小限の人員は、指揮官 (陸曹)、けん引車の操縦手、ブレーキ操作員、および機体両側の側方監視員(wing walker)である。指揮官は、操縦手と直接コミュニケーションを取りながら、全体を把握できる場所に位置する。航空機を手押しする場合は、上記の者以外の人員で機体を押さなければならない。
- ・航空機の移動に不要なすべての支援・整備・サービシング器材を取り外してから移動を開始しなければならない。
- ・必要に応じ、チョークを取り外してから再度取り付けるまでの間、資格を有する整備員に機体のブレーキ操作を実施させること。
- ・各翼の先端付近に要員を配置し、地上搬送中の誘導を実施させること。
警告
地上搬送中は、側方監視員はローター圏外に位置し、機体に接近してはならない。けん引中に機体に近づく者がある場合、運転手は完全に停止しなければならない。
- ・駐機位置への進入・離脱に際しては、資格を有する整備員を誘導員に割り当てること。
けん引
航空機のけん引は、該当する整備実施規定に従って実施しなければならない。以下の手順は、すべての航空機に共通する一般的なけん引要領である。
- ・航空機をけん引する前に、けん引アタッチメント、ロープ、およびバーの許容荷重が十分な余裕を有しており、使用可能であり、かつ航空機およびけん引車両の指定されたけん引装置に確実に固定されていることを確認すること。
- ・けん引速度は、要員のうち最も遅い歩行速度が遅い者を超えないようにすること。最大速度は、時速5マイル(時速約8キロメートル)である。氷上、雪上、荒地、岩場、泥濘地および混雑した場所では、細心の注意を払ってけん引すること。
- ・極度の低温環境で機体をけん引する場合は、油圧シールを損傷させ、ストラットからの油漏れを生じさせないように注意すること。
手押し
航空機の手押しは、該当する整備実施規定に従って、実施すること。以下の手順は、すべての航空機に共通する一般的な手押し要領である。
- ・グランド・ハンドリング・ホイールを下げてロックする (該当機種のみ)。
- ・機体を押したり、持ち上げたり、回転させたりするための物理的な圧力は、該当する整備実施規定に示された手押し可能箇所に対してのみ加えること。
- ・適切な手押し可能箇所は、手以外の物で押さないこと。
- ・指揮官は、事前に各人の任務および手押し搬送の危険性について説明を行うこと。
手信号
陸軍航空機の移動に使用する手信号は、TC 3-21.60「手信号」に従って行うこと。
地上搬送およびサービシングにおける事故は、地上事故全体の65%を占める。それは、他に注意をそらされるものが多い環境下で行われることが多く、複数のエラー領域が存在する。指揮官および整備員は、実行中のタスクに注意力を集中しなければならない。すべてのタスクは、次世代の戦闘員を指導する機会でもある。基本を遵守し、規定どおりの手順を教育し、問題点を明らかにすることにより、この種の事故は減少させることが可能なのである。
Keep ‘em Safe!(安全を確保せよ!)
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2022年08月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
アクセス回数:989
コメント投稿フォーム
1件のコメント
「サービシング」は、「保守作業」と訳した方が良いのかも知れませんが、陸自の整備実施規定では「サービシング」という用語を使っていたと記憶しているので、そのまま使いました。
「ground handling」の訳語には、「地上搬送」を充てました。ただ、本記事においては、その中に貨物の搭載卸下も含まれているようです。こちらも「グランド・ハンドリング」の方が良いのかも知れません。