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陸軍航空の情報センター

航空事故回顧-UH-60Aにおける不具合発生時の不適切な対応

UH-60AがNVG(night vision goggle, 暗視眼鏡)を使用しながら、ホット・リフュエル実施場所へのタクシー移動を実施中、No.2エンジン・オイル圧力注意灯が点灯した。副操縦士が約26ノットまで機体の速度を減じたところ、メイン・ローター回転数が低下した。ローターの回転速度の低下に伴い、機体の制御が不能となり、高度が低下しはじめた。操縦を交代した教官操縦士は、出力を増加させながらサイクリックを後方に引いた。このため、機体は、20度の機首上げ姿勢となり、メイン・ローター回転数がさらに低下してしまった。その後、尾部から地面に衝突し、タクシーウェイを横切るように滑走した。さらに、タクシー・ウェイの反対側にあった地物に接触し、横方向に4分の3回転した。機体は大破し、搭乗員は重傷を負った。

飛行の経過

事故機のパイロットは、戦闘支援活動の合間に、2機編隊によるVIP輸送任務を実施するように命ぜられた。任務当日の1130、当該機の飛行前点検を実施した。その際、整備記録に「No.2エンジン始動前にプライミングを要す」という「赤/」の記事があるのを確認した。その「赤/」の記事は、「転記不要」という注釈付きで完了の署名が行われていた。その後、当該支援任務および任務終了後の副操縦士のNVGを用いたレデイネス・レベル3への昇格訓練に関し、ブリーフィングおよび危険見積を適切に実施した。

離陸した事故機は、2番機としてVIP任務を実施した。VIP任務が終了した後、飛行場の南西端からホット・リフュエル実施地点までの移動を開始した。速度50ノット、高度60フィートでタクシー中、No.2エンジン・オイル圧力注意灯とマスター・コーションが点灯した。操縦していた副操縦士は、注意灯が点灯したことを報告すると、教官操縦士が速度を減ずるように指示している間に、No.2エンジンをシャット・ダウンしてしまった。副操縦士は、速度を落とし、機体を降下させ始めた。エンジンをシャット・ダウンしたことにより、機体が降下し、ローター回転数が低下していることに気づいた教官操縦士は、操縦を交代した。降下を止めようとして、サイクリックを後方に引くとともにコレクティブ・ピッチを増加させたが、メイン・ローター回転数はさらに低下した。機体は、20度の機首上げ姿勢の状態で地面に接触し、テール・ホィールとテール・コーンが損傷した。そして、タクシーウェイを滑りながら横断し、右降着装置を地物に引っかけて横転した。その後、右側方に270度回転し、側面を上にして停止した。機体は大破し、全搭乗員が重傷を負った。

搭乗員

教官操縦士の総飛行時間は1,753時間であり、そのうち当該機種での飛行時間は1,669飛行時間であった。副操縦士の総飛行時間は708時間であり、そのうち当該機種での飛行時間は220時間であった。

考 察

当該機に発生した不具合は、直ちに緊急操作が必要なものではなかった。にもかかわらず、副操縦士は、エンジンのシャット・ダウンという不要な操作を直ちに行ってしまった。副操縦士は、機体のコントロールを適切に継続できず、また、不具合の緊急性を適切に判断できていなかった。このため、誤った緊急操作手順を突然に開始してしまったのである。

機体に不具合が発生した場合、すべての操作に優先して、機体のコントロールを継続しなければならない。飛行中に不具合が発生した場合、搭乗員、搭乗者および機体の安全確保のために最も重要なのは、適切に状況を把握し、それを評価できる能力である。指揮官は、シミュレーターおよび実機を用いた部隊訓練の実施状況を確実に把握しなければならない。そのうえで、部隊の教官操縦士および訓練担当下士官を活用し、搭乗員の不具合発生時の対応能力および状況判断能力の向上を図らなければならない。その訓練は、実際の行動、状況および結果を考慮していないような「形式的」なものであってはならない。搭乗員は、訓練のとおりに行動するものである。訓練時間を惜しんではならない。

                               

出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2020年05月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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2件のコメント

  1. 管理人 より:

    アメリカ陸軍のUH-60のOperator’s Manualには、「エンジン・コントロール・レバーを操作する前に、シングル・エンジンで飛行可能な状態であることを確認すること」という警告が記載されいます。まずは、飛ばし続けることを意識することが重要です。

  2. 管理人 より:

    整備記録の「赤/」の件について述べられている理由は、定かではありませんが、副操縦士が「エンジンをシャット・ダウンしなければならないような不具合が発生した」と誤認するきっかけになったということではないかと想像します。