航空事故回顧-UH-72Aの意図しない右旋転
回転翼機初級操縦課程において学生のみでの飛行訓練を行っていたUH-72Aが、超低空飛行中に意図しない右旋転に陥った。搭乗していた2名の学生パイロットが負傷し、機体はクラスAの損傷を受けた。
事故発生前の状況
事故機は、回転翼機初級操縦課程において、教官が同乗しない状態での飛行訓練を実施中であった。事故機の搭乗員は、単独飛行に必要とされるすべての基準を満たしていた。飛行任務ブリーフィングが実施され、当該飛行は危険度の低い任務として承認された。飛行前ブリーフィングで航空機が割り当てられ、搭乗員は飛行計画の作成、機体の飛行前点検および搭乗員ブリーフィングを完了した。事故機の搭乗員は、悪天候による遅延があった後、当該任務を遂行するために離陸した。
事故発生の状況
シェル陸軍ヘリポートから離陸した事故機は、最初に操縦する学生が機長となり、アラバマ州バンクス近郊の訓練場に向かった。当該学生は、訓練場に到着後、場周経路を1周してから着陸し、次の学生と座席を交代した。2人目の機長となった学生は、右場周経路を1周し、着陸進入を行ってホバリングに移行した。再度場周経路に入った後、クロスウインドからダウンウインドに低速で右に旋回していたところ、機体が右旋転しはじめた。パイロットは、旋回を継続しながら、機首方向をコントロールしようとした。しかし、旋転速度は増加を続け、操縦不能となって墜落した。搭乗員2名が負傷し、機体はクラスAの損傷を受けた。
搭乗員の練度
最初のパイロットは、シミュレーター飛行時間が34.5時間、実機飛行時間が71.5時間であった。2人目のパイロットは、シミュレーター飛行時間が34.5時間、実機飛行時間が72.2時間であった。
考察
航空機技術マニュアルなどには、LTE(loss of tail rotor effectiveness, テールローターの効果喪失)に関し、極めて限られた情報しか記載されていない。
FAAヘリコプター飛行ハンドブック(https://www.faa.gov/regulations_policies/handbooks_manuals/aviation/helicopter_flying_handbook) には、LTEの発生を抑制するための注意事項が次のように記載されている。
- パワーオン状態での最大ローター回転数を維持すること。メインローターの回転数が低下すると、それに比例して利用可能な反トルク推力も減少する。
- 対気速度が30ノット未満の場合は、追い風状態を回避すること。転移揚力を喪失すると、必要馬力が増加し、反トルク力が増加する。
- 30ノット未満で低高度を飛行する場合には、必要馬力が増大する地面効果外(OGE)での飛行を避けること。
- 特に約8~12ノットの風がある状態でホバリングする場合には、風向および風速に注意すること。転移揚力の損失により、必要馬力および必要反トルク力が予想外に増大する可能性がある。
- 左ペダルを踏み込んだ状態を続けた場合、予期しない右旋転に対応するために必要な左ペダルの踏み込みが行えない可能性があることに注意すること。
- 尾根沿いや建物の周囲を飛行する際には、風の状態が変化する可能性があることに注意すること。
- 右旋回は緩徐に実施すること。そうすることにより、旋回慣性による影響を減少させ、方向制御を行うためのテールローターの負担を軽減することができる。
さらに、LTEからの回復要領については次のように記載されている。
突然の意図しない右旋転が発生した場合は、次の要領で回復を試みるべきである。左ペダルを一杯に踏み込む。同時に、サイクリック・スティックを前方に倒して速度を増加する。高度に問題がなければ、出力を減少させる。右旋転から回復できたならば、通常の前進飛行に復帰するように操作を行う。特にOGEホバリングを終了する際には、常に回復に必要な経路を確保し、意図しない旋転が発生した場合には直ちに回復操作を実行しなければならない。
コレクティブ・ピッチを下げることは旋転速度の抑制に効果があるが、降下率を過度に高める可能性がある。地面や障害物との接触を回避しようとしてコレクティブを急激に増加させると、旋転速度がさらに増加するとともに、ローター回転数が低下する可能性がある。コレクティブを下げるかどうかは、回復に利用可能な高度を評価したうえで判断しなければならない。
旋転を止められず、地面との接触が差し迫っている場合は、オートローテーションが最善策である可能性がある。旋転が止まるまで左ペダルを踏み込んだ後、方向を維持するように調整すること。
LTEの詳細については、アドバイザリー・サーキュラー(Advisory Circular, AC) 90-95「ヘリコプターの意図しない右旋転」(https://www.faa.gov/regulations_policies/advisory_circulars/index.cfm/go/document.information/documentid/23136)を参照されたい。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2024年06月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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