V-280バローの速度と行動半径がもたらす効果
アメリカ軍は、航空分野において、これまで何十年にもわたり世界中のあらゆる国に対する優位性を維持してきた。現行機種のライフサイクルが終わろうとする中、その後継機種の開発が重要な局面を迎えようとしている。
陸軍航空にとって、航空機の速度および航続距離は、現時点で十分であるだけでは足りない。増大を続ける敵の脅威に対抗してゆくためには、それらの能力を向上し続けることが不可欠である。そんな中、FVL(Future Vertical Lift, 将来型垂直離着陸機)計画は、既存の回転翼機を遥かに超える、新たなレベルの性能を有する機体を生み出そうとしている。
第2世代のティルトローター機であるV-280バローは、陸軍航空に革新的な任務遂行能力をもたらし、地球的規模のピアツーピアの危機・紛争における勝利を確実なものにしようとしている。その能力は、単なる紙面上の憶測ではない。200海マイル(約370キロメートル)先の目標まで45分以内に到達できるV-280の飛行性能は、飛行試験をもって実証された能力なのである。その基盤となっているのは、V-22オスプレイの戦場での運用を含む60万時間以上の飛行時間から得られた経験である。V-280は、その経験を機体に合わせて最適化することにより、即応性、有効性および生存性の大幅な向上を実現している。
将来の戦場において生き残れるのは、慎重かつ大胆に新たなアイデアを採用し、先端技術の獲得をいとわない者だけである。FLRAA(Future Long Range Assault Aircraft, 将来型長距離強襲機)の候補機として設計されたベル社のV-280バローは、これまでとは異次元のレベルの先端技術を採用し、現行機種を遥かに超える行動半径を実現しているのである。
陸軍の地球的規模での運用性向上をもたらすV-280の速度および機動性能
「冷戦以来で最悪の脅威にさらされる中、世界中の滑走路などの支援基盤が存在しない地域においても、速やかに対応できることが求められています。垂直離着陸機は、そのための唯一の解決策なのです」とベル社の軍事販売・戦略担当副社長であるカール・コフマンは言う。「東欧で起こっているような危機に際し、国家の安全を保障するために必要なのは、単なる進化ではなく、革命的な能力の向上なのです。」
コフマンたちのチームにとって、革新的な能力の向上とは、世界中に分散した場所から直ちに部隊を集結することが可能な速度および機動性能を有する航空機の設計を意味する。V-280バローのような機体がもたらす速度および行動半径は、陸軍の指揮官たちに戦場(FLRAAの場合は戦域全体)における高い機動能力を与えるだけではなく、敵による攻撃を受ける可能性を劇的に低下させるという効果ももたらすことになる。
「戦場において卓越した能力を保持するために必要なのは、あらゆる潜在的脅威に対し、一挙に戦力を集中できるFLRAAの速度性能なのです」とコフマンは語る。「紛争を抑止するために兵力を事前配置するという戦略的効果を目的とする場合でも、あるいは、やむを得ない場合には殺傷行動を行うという戦術的効果を目的とする場合であっても、いずれは戦闘行動を伴う紛争段階に突入することを想定しなければならないのです。」
V-280によって提供されるシームレスな統合支援基盤
ティルトローター機は陸軍にとって特異な装備となるが、V-280は、現在使われている各種装備品をそのまま利用し、陸軍が保有する航空支援基盤を活用できるように設計されている。また、そのデジタル搭載機器は、将来の戦場を見据えた陸軍の新たな戦略および戦術への適合が容易なように考慮されている。さらに、ティルトローター機を複数の軍種に納入し、その統合を図りつつ維持してきたベル社の経験は、陸軍内における相互運用性の維持に大いに役立つに違いない。
V-280の速度および行動半径の価値と必要性
「V-280をUH-60ブラックホークの単なる代替品と考えることは適切ではありません。それは、何光年も先をゆくまったく新しい兵器システムなのです」とコフマンは述べる。「ベル社は、既存の回転翼機についても、大国間の危機および紛争において効果的に任務を遂行できるよう、その能力の維持・向上に努めてきましたが、それも限界に近づきつつあります。今こそ、V-280のような新たな世代の機種を導入し、陸軍航空兵器システムに関する陸軍教義に革命を起こすべき時なのです。」
V-280の速度および信頼性は、多用途性が求められる長距離強襲任務、垂直離着陸能力が不可欠な患者後送や緊急航空輸送任務などの遂行能力を劇的に向上させる。救助を待つ負傷兵たちにとって、V-280の行動半径の持つ価値は計り知れない。これからの航空機には、従来の回転翼機と同じ任務を遂行できることに加えて、長距離を高速で飛行し、戦場の最前線から患者集合点までの距離を実質的に短縮できることが求められているのである。
「V-280の装備は、敵前を飛行する際に攻撃を受ける可能性を大幅に減らし、陸軍の殺傷性および生存性を大幅に高めることにも貢献します。」とコフマンは説明する。
V-280は、高い速度性能を有するだけではない。戦略展開能力を向上させて運用の柔軟性を向上させ、パイロットによる操作を補完して悪視程環境下での運用を可能にする高度な任務統制システム(advanced mission controls)も搭載している。コフマンによれば、これらは、長距離精密火力打撃および極超音速ミサイルなどにより作り出された敵の弱点に戦闘力を効果的に指向するため、欠かすことのできない機能なのである。
最低のリスクで最高の投資利益率を得るために
V-280の装備は、飛行性能を大幅に向上させるだけでなく、長期的なライフサイクルコストにも改善をもたらす。このことは、日々、機体を使用する飛行部隊だけではなく、高い投資利益率(return on investment, ROI)を実現することにより陸軍全体にとっても有益なことである。コフマンによれば、ある機種を維持するためのコストは、システム維持に必要な時間の増加に伴い、7年から10年ごとに約2倍に増加するという。ベル社は、将来必要となる改修費用を軽減するため、関連企業と緊密に連携し、ライフサイクルの延長および機体価格の低減を図っている。
「ベル社は、機体設計および飛行試験だけではなく、デジタル関連企業および製造技術にも多額の投資を行ってきました」とコフマンは述べる。「肝心なことは、V-280の技術の成熟度は、競合機種よりも高く、かつ、実証されたものであるということです。V-280は、コストに対するリスク、スケジュールに対するリスク、利用可能性能に対するリスクのいずれもに関しても、現在の陸軍機に比べて遥かに低く抑えることができています。大国間競争において、こちらが追いつくまで敵が待ってくれることはありません。敵は、前に進むのみです。今は、リスクを冒すべき時ではありません。」
V-280の革命的な速度および行動半径は、敵の侵攻を妨げて国家の安全を確保するため、陸軍戦力の集中が必要な場合に、その価値を最高度に発揮してくれるに違いない。
ベル社のV-280バローによってもたらされる航空技術の進化に、引き続き注目してもらいたい。
出典:Defense One, Government Media Executive Group LLC. 2022年03月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
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