FM 1-506 Fundamentals of Aircraft Power Plants
米陸軍の航空機用エンジンに関する教範です。
【部分訳】
T-700エンジン制御システム
エンジン制御システムは、エンジンの制御に必要な機器で構成されている。このシステムは、燃料の移送、計量、コンプレッサーのブリードおよびVGの制御、ローター回転数制御のための出力調整、および過回転保護機能を有している。このシステムには、複数のエンジンを搭載した場合に必要なトルク・マッチングおよび過熱保護のための制御機能も備えている。T-700エンジンの制御システムは、パイロットの操作を簡単にし、負担を軽減するように設計されている。このシステムは、従来はパイロットが行っていた制御の多くを自動的に行う。この性能は、次の機能によって実現されている。
- パワー・タービン回転数とヘリコプター・ローター回転数(Np/Nr)との等時性を持った制御
- オートマチック・ロード・シェアリング(負荷の自動配分)
- パワー・タービン入口温度の自動的な制限
- コレクティブ補正による迅速な応答
- 自動スタート
- コンティンジェンシー・パワー(緊急出力)
このシステムは基本的に、ECU(エレクトリカル・コントロール・ユニット)とHMU(ハイドロメカニカル・コントロール・ユニット)の相互作用によって制御される。通常、HMUはNgを制御して、加速制限、失速およびフレームアウト保護、出力要求に応じたNgの制限、およびVGの作動を行う。ECUは、負荷要求に応じてHMUを調節して、ローター速度を維持し、負荷の配分を調整し、エンジン出力タービン入口温度を制限する。
機器の配置および相互接続
エンジンに供給する燃料の計量およびエンジン制御に必要な基本的な計算は、HMUによって行われる (図 4-18)。エンジンの出力要求に応じた燃料量は、ECUおよびHMUによって計算される。燃料および燃料制御システムは、次の機器で構成される。
- HMUには、9947 RPM (Ng100 パーセント時) で回転する高圧ベーン・ポンプ部およびクローズドループのVGサーボアクチェータが含まれている。その基本的な機能は、Ng、T2、P3、エンジンに搭載されたECUからの電気トリミング信号ならびにコックピットから入力されるPASおよびLDSの値から、エンジンに必要な燃料を計算し、計量することにある。
- ECUは、HMUをエンジンの許容制限内で調節し、TGTを自動的に制限しながら等時性を有するNp制御を実現する。また、複数のエンジンを搭載する場合には、トルク信号を交換しあい、負荷を自動的に配分する。ECUは次の情報を提供する。
- オーバースピード・アンド・ドレン・バルブへのNP過回転保護のための情報
- エンジンに取り付けられたレコーダーへのエンジン運転履歴を記録するために必要な情報
- コックピットへの適切なエンジン運転に必要な情報
T-700-GE-701/701A エンジンが 1発停止 (one engine inoperative, OEI) 状態にある場合には、ECUのオートマチック・コンティンジェンシー・パワー・スイッチにより、過熱防止機能を調節し運転中のエンジンが出力を増加できるようにする。
図 4-19 は、HMUとECUの機能分担を示す。
エンジンは、次の3つの入力により統合的に作動する。
- PAS(パワーアベイラブル・スピンドル)は、他のエンジン制御装置のスロットルまたはパワー・レバーと同様の機能を有している。燃料コックを機械的に閉鎖し、Ngの許容範囲をグランド・アイドル状態から中間出力までの動作条件に合うように設定する。120° を超えて130° までオーバートラベルすると、エレクトリカル・ユニットの故障時に必要となるエレクトリカル・ユニット・インターフェイスのロックアウトが行われる。また、HMUのオーバーボード・ドレインへのベントを行い、燃料システムのプライミングを容易にする。
- ロードデマンド・スピンドルは、コレクティブ・ピッチに応じて変化する。ローターのトランジェント・ドループを低減するために必要なコレクティブ補正を行う。
- コックピットに取り付けられた電気ポテンショメータは、出力タービン回転速度を所望の値に設定する。
HUMの動作
HMU は、トルク・モーターへの入力がなく、ロードデマンド・スピンドルが最大負荷に設定されている場合、従来のガス・ジェネレータ・パワー・コントロールと同じ動作を行う。 (図 4-20)。エンジンの加速燃料流量およびコンプレッサーVGポジションなどの設定は、NgおよびT2によって制御される。加速 (または減速) 制限は、Wf/P3に応じたNgおよびT2の最大値に応じて設定される。最小流量設定は、エンジンの減速を制御する。メータリング・バルブの最大および最小位置を設定することにより、絶対的な燃料流量が制限される。中間出力のトッピング・ラインは、最大Ng速度を制御する。また、T4.5制御システムに電気的故障が発生した場合にT4.5が過大にならないようにする。これらの機能により、HMUはPASがどのように動かされても、エンジンは安全に運転され、損傷することがない。意図的に燃料コックを閉鎖する場合を除き、PASの動きによってエンジンがシャットダウンすることはない。
ロードデマンド情報は、LDSを介してHMUに伝達される。航空機のローターのコレクティブ・ピッチを下げてLDSの最大設定値を下げると、要求されるNgが通常のPASの設定値から下げられ、Ngの迅速かつ正確なレスポンスが得られる。この新しい設定は、Npおよび負荷制御の機能を満たすようにECU によって調整される。
PASは、最大Ngを設定する。通常、パイロットはPAS 角度を120°に設定し、中間出力が得られるNgが得られるようにする。また、コレクティブ・ピッチを操作することによってLDSの位置を調整し、Ng回転数をローター負荷が要求する出力に応じたものに調整する。PAS 角度120°での実際の馬力は、ヘリコプターが必要とする以上のものになる。
これは次の2つの理由から意図的に行われる。
- 高出力に対するフェールセーフ。設定値を高くしたうえで、トルク・モーターは、通電時に設定を所望の値まで下げるように設計されている。トルク・モーターの電流が失われると設定値は最大に戻るが、高出力による故障からは保護される。かつ、電気的障害により設定が高く変更されても、出力制限は発生しない。電気系統に障害が発生した場合は、PASを使用して出力を所望の値まで手動で絞ることができる。HMUが備えるエンジン保護機能により、トルク・モーターへの電気信号の喪失中または喪失後におけるエンジンの損傷や失速が防止される。
- 1発エンジン停止時の利用馬力。一方のエンジンが故障した場合でも、与えられたLDS (コレクティブ・ピッチ) 設定において、残りのエンジンのNgが負荷に応じた出力 まで増加(自動コンティンジェンシー・パワー) できるように、十分に高く設定される。そうでなければ、単一エンジンの故障を残りのエンジンで補うことができず、利用可能出力が大幅に減少することになる。
ECUの動作
ECUは、エンジン搭載のオルタネーターから電力を供給され、次の機能を担う (図 4-21、4-22)。
- 実際のNpと基準Npとを比較して、回転速度入力信号の誤差を計算する。
- エンジンのトルクを他のエンジンのトルクと比較して、負荷の配分を行う。自分のエンジンのトルク (Q1) が他のエンジンのトルク (Q2) より小さい場合、トルク・エラー信号をコンピュータに送る。Q1がQ2より大きい場合には、エラー信号が入力されない。この処理 (最大一致原理と呼ばれることが多い) により、出力が低下されたエンジンに合わせて正常なエンジンが出力を低下させることが防止できる。トルク・エラー信号はNp速度基準信号に加えられ、設定されたNpより最大3%増加させる可能性がある。
- エンジンの計測TGTと固定基準TGTとを比較し、温度が基準を超えたとき (のみ) は、過熱を修正するため燃料流量を減少させる信号を生成する。
- ECUのセレクター回路で、速度エラーと負荷配分信号を組み合わせたものと過熱信号を比較する。最低Ngを要求する信号を選択し、それをHMUに渡して、必要に応じてNgを減少させる。
- セレクター・ドライブからの電気出力をHMUのトルク・モーターに送信する。トルク・モーターは、出力要求が減少する方向にPASが操作されたかのように、設定された負荷要求を変更する。トルク モーターは、Ngをグラウンド・アイドル以上に絞ることができず、PAS設定までしか出力を増加させることができない。ECUは、PASを通常の飛行位置 (120°) を超えて 130° 停止位置まで進めることで、いつでもオーバーライドできる。その場合のエンジン出力は、PASをさらに絞ることで手動で調整することができる。この場合、Npオーバースピード・システムは作動せず、いかなる運用も可能である。
離陸および上昇
PASレバーは、離陸前に地上アイドル状態から通常の飛行位置である120°まで進められる。これにより、コレクティブがフラットピッチのまま、ローターヘッドは 100%Np/Nr まで加速する。Ngは、PASを進めると上昇するが、Np制御速度が100%に達すると減少する。(Npの制御は、95~101パーセントを選択できるが、100 パーセントが標準である。)
離陸時、コレクティブ・ピッチが増加させると、パワー・タービンのトルク負荷が増加する。それと同時にLDSが回転し、Np/Nr が100% を下回らないようにNgを増加させる。各エンジンのECU は、トルクが一致するように燃料流量を微調整しながら、Np/Nrを100% に維持する。
Ngが増加すると、HMUはブリード・バルブを閉じ、可変ステーターを開いて、燃焼器およびタービンを通る空気流を増加させる。
コレクティブ・ピッチを高い角度まで増加すると、TGTが制限値に近づく可能性がある。その場合、ECUはエンジンへの燃料がそれ以上に増加するのを防ぐように働く。トルク負荷がさらに増加すると、Npを維持するよりも、エンジンを過熱から保護することが優先され、Np/Nrが100%を下回る。
巡航および降下
上昇し終わると、必要なローター揚力が少なくなるため、コレクティブ・ピッチが下げられる。するとLDSが回転して燃料流量およびNgを減少させる。燃料消費を最適化し、失速マージンを維持するため、可変ステーターがわずかに閉じられる。
この間も、ECUは燃料流量の調整を継続する。降下を開始すると、同じ事象が繰り返され、ブリード・バルブが開く状態までNgが減少する。コレクティブ・ピッチが完全に下げられると、オートローテーション(出力オフ状態での降下)へと移行し、トルクがゼロまで低下する。機体のトランスミッション内のオーバーランニング・クラッチにより、負のトルク状態になることが避けられる。エンジンがローターから切り離されると、Nrは100%を超えて自由に加速できるが、両方のエンジンのNpは引き続きを100%に維持される。NrおよびNp回転速度は、コレクティブを再び増加させた場合に生じるローター負荷の増加に備えて高い値に維持される。この状態 (100%Npでゼロ・トルク) を飛行アイドルと呼ぶ。