AH-64の航空事故発生状況(2013~18年度)
2013年度から2018年6月までの約5年間(総飛行時間:1,033,833時間)にAH-64で発生したクラスA~C事故は、74件であった。そのうちの65件については、原因が特定または推定されている。9件については、原因不明または調査中である。
クラス別には、21件のクラスA事故(18件の飛行事故、1件の飛行関連事故および2件の地上事故)、14件のクラスB(13件の飛行事故、1件の飛行関連事故)および39件のクラスC(30件の飛行事故、4件の飛行関連事故、5件の地上事故)が発生した。これらの事故による死亡者は14名に達し、累積損害額は4億2700万ドル以上に達した。10万飛行時間あたりのクラスA事故の発生率は、1.74であった。クラスA~Cの事故発生率は、7.16であった。調査の結果、事故の主因で最も多かったのは人的要因の50件(76.9%)であり、それ以外の事故のうち、13件(20%)が物的要因、3.1%が環境要因によるものであった。
以下、事故の類別ごとに発生状況を紹介する。
物件との衝突
物件との衝突は、クラスA事故のほぼ36.3%、クラスA~C事故全体の24%を占めた。75件の事故のうち、樹木に接触したものは8件であり、そのうち5件でクラスAまたはBに相当する損傷が生じた。樹木以外の物件との衝突には、3件のワイヤー・ストライク(クラスAが2件、クラスCが1件)、3件の地上移動または地上試運転中の事故(クラスAが2件、クラスBが1件)、および7件の地面との衝突(クラスAが3件、クラスBが2件、クラスCが2件)があった。物件との衝突の事故事例は、次のとおりである。
事例1
2機編隊の2番機として訓練飛行を行っていた当該機は、森林に向けて降下し、墜落した。パイロットは死亡しなかったが、機体は大破した。(クラスA)
事例2
NVS(night vision system, 夜間暗視システム)を用いた狭隘地での飛行を実施していた当該機は、林の中に墜落した。機体は、横倒しになり、クラスAに該当する損害が生じた。(クラスA相当)
事例3
当該機は、接敵機動中に地上の障害物と接触した。パイロットは、そのまま機体を着陸させた。(クラスA)
事例4
当該機は、レディネス・レベル昇格のため、山岳地帯における着陸進入の訓練を実施中であった。訓練中、降着地域に指定されていた岩棚の角に尾輪が接触した。(クラスC)
パワー・マネジメント
約5年間に発生したクラスAおよびB事故のうち5件が、パワー・マネジメントまたは激しい機動を伴う飛行に関係するものであった。また、3件のクラスC事故もこれらに関係するものであった。パワー・マネジメントに関連する事故事例は、次のとおりである。
事例1
燃料再補給を終えて離陸した当該機は、背風のため、対気速度およびローター回転数が低下し、テール・ローターがその効果を喪失した。機体は、高度を下げて地面に激突し、左側面を下にして横転した。パイロットは、軽傷を負っただけで機体から脱出することができた。(クラスA)
事例2
2機編隊の僚機として飛行していた当該機は、対地高度約100フィートで最終進入を行っている間に高度を失い、尾輪から地面に接触した。機体の尾部、左主脚ストラット、ガン・ターレットおよび後部機体マウント部が損傷した。(クラスB)
事例3
HITチェックを実施中、他機の進入に備えて誘導路上を移動していたところ、ローター低回転警報が作動した。(クラスC)
整備ミス
航空整備実施中の不適切または不完全な作業などの人的ミスによる事故は、3件(クラスAが1件、クラスBが2件)であった。整備ミスによる事故事例は、次のとおりである。
事例1
No.5テール・ローター・ドライブシャフトを再取付する際に、ボルトを適切なトルクで締め付けず、じ後の検査でもそれを発見できなかった。このため、No.5テール・ローター・ドライブシャフトに振動が発生し、後方ハンガー・ベアリング・カップリングが破断して、テール・ローターが推力を喪失した。機体は、ハード・ランディングにより損傷した。(クラスB)
事例2
飛行中に異音が発生し、機首が下がるとともに右に振れた。パイロットは、開豁(かいかつ)地に緊急着陸した。着陸後の調査により、テール・ローター・リテンション・ボルトの締め付け手順が不適切であったため、飛行中にテール・ローターが脱落したことが判明した。(クラスB)
事例3
当該機は、飛行中にメイン・ローター・システムに致命的損傷が発生し、墜落した。2名が死亡した。(クラスA)
器材上の要因
クラスA~Cの事故のうち13件(17.6%)において、器材上の要因が主因であるとする調査結果が報告された。器材上の要因による事故事例は、次のとおりである。
事例1
夜間飛行任務を実施中、No.2ジェネレーターのベアリングに不具合が発生し、コックピット内に煙の臭いが立ち込めた。緊急着陸を行おうとしていたところ、コックピット内の電力が喪失し、夜間暗視システムが不作動となった。誘導なしで着陸中に砂塵環境が発生し、メイン・ローター・ブレードが地面に接触して、機体が横転した。(クラスA)
事例2
ホット・リフューエルを完了し、対地高度100フィートまで上昇したところ、#2エンジン区画から異音が発生し、ロータ低回転の警報音が作動した。射座に着陸しようとした際に、ハード・ランディングした。(クラスA)
事例3
メイン・ローター・ヘッドにメイン・ローター・ブレードを固定しているピンが破断し、メイン・ローター・システムに致命的不具合が発生した。機体は墜落し、2名が死亡した。(クラスA)
事例4
油圧系統内の異物が原因でラテラル・サーボ・アクチュェーターに不具合が発生した。ラテラル・サーボ・アクチュェーターに接続されている機械的リンクを通じて、操縦系統にハード・オーバーが発生した。それにより、サイクリックが左に倒され、機体が約60度まで傾いて、地面に激突した。機体は大破したが、パイロットに重大な負傷はなかった。(クラスA)
事例5
ストラップ・パック・ボルトのリテーナー・ナットに不具合が発生し、ストラップ・パック・アッセンブリが損傷して、メイン・ローター・ブレードが飛散した。機体は墜落し、2名が死亡した。(クラスA)
事例6
離陸中に機体に異常が発生し、No.1エンジン・アウトの警報が作動した。着陸前のNo.1エンジンのTGTは999℃、No.2エンジンのトルクは許容外(125%~130%)まで上昇した。(クラスC)
事例7
進入中、トルク・スプリットが発生し、No.1エンジンのTGTが許容を超えた。着陸後、エンジンをシャットダウンしようとしたところ、No.1エンジンのNGが102.2%以上まで上昇した。(クラスC)
その他
事例1
帰投した航空機の誘導を開始したクルー・チーフが、ナセル・ドアが開放していることに気づいた。両方のハンドルが開の位置になっていたため、エンジンを停止しようとしているパイロットにドアが開いていることを手信号で合図した。(クラスC)
事例2
飛行後点検を実施中、1枚のパネルが脱落し、2本のメイン・ローター・ブレードおよび1本のテール・ローター・ブレードが損傷しているのを発見した。(クラスC)
事例3
整備確認飛行を終了後、飛行中にトルク・チューブがマウントから脱落して生じた金属片が、トランスミッション・デッキ上に飛散しているのを発見した。(クラスC)
事例4
No.2エンジンのインレット・プラグを取り外し忘れたままで、エンジンを始動してしまった。検査の結果、エンジン交換が必要と判断された。(クラスC)
事例5
格納庫の外に保管されていた6枚のローターブレードが、付近を通過したヘリコプターのダウン・ウォッシュで吹き飛ばされ、そのうちの2枚に修理困難な損傷が発生した。
事例6
1番機のパイロットが僚機とともに強襲攻撃の訓練を実施していたところ、近傍の目標に対し空中偵察任務を実施していた別の機体に衝突した。双方の機体が落着したが、パイロットに重大な負傷はなかった。(クラスA)
要 約
この期間における事故の発生率は、前回(2008年度から12年度まで)の発生率から大きく変化していない。前回の期間においては7.12だったAH-64のクラスA~C事故の発生率は、今回は7.16(発生件数74件)であった。発生した事故の種別もほぼ同一であり、物件との衝突、オーバースピード/オーバーテンプ/オーバートルクおよびパワー・マネジメントによるものが多数を占めた。有人機の事故に共通の事象であるが、その主因の75~80%が人的ミスで占められた。
航空機の運用および整備における人的ミスに起因する事故を減少させるためには、定められた基準および手順を厳守することと、それを適切に監督することが何よりも重要である。
訳者注:米国の会計年度の開始は10月、終了は9月であり、終了時の年で呼ばれます。また、米国陸軍の航空事故の区分は、概ね次のとおりです(AR 385-10、2013年11月改正)。
クラスA- 200万ドル以上の損害、航空機の破壊、遺失若しくは放棄、死亡、又は完全な身体障害に至る傷害若しくは公務上の疾病を伴う事故
クラスB- 50万ドル以上200万ドル未満の損害、部分的な身体障害に至る傷害若しくは公務上の疾病、又は3人以上の入院を伴う事故
クラスC- 5万ドル以上50万ドル未満の損害又は1日以上の休養を要する傷害若しくは公務上の疾病を伴う事故
クラスD- 2千ドル以上5万ドル未満の損害、又は職務に影響を及ぼす傷害若しくは疾病等を伴う事故
クラスE- 2千ドル未満の損害を伴う事故
クラスF- 回避不可能なエンジン内外の異物によるエンジン(APUを除く)の損傷
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2018年09月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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2件のコメント
Knowledge誌がRisk Management Magazine誌へと変わりました。
HITチェックとは、Health Indicator Testのことで、エンジンの性能を確認するため、定期的(通常、毎日の最初の飛行開始時)に定められた負荷をかけた状態でのタービン温度を測定する試験です。