空域の競合回避
任務部隊「アウトフロント」の管轄下にあったカンダハール空軍基地で航空安全担当将校を勤めていた私は、機長および空中部隊指揮官として、アフガニスタンのカンダハール州から発せられた数多くの交戦報告に対応し、150以上の戦闘任務を遂行していました。その間に、旅団内の地上部隊間の連携およびUAS(unmanned aircraft systems, 無人航空機システム)の経路把握が不十分だったことによる空中衝突が発生してしまいました。その時の状況について、お話ししたいと思います。
ある武装偵察チームが、「フォートアイアン」に対する間接照準および直接照準射撃についての交戦報告を「アイアン6」から受領し、対応行動を開始しました。現地に到着した後、交戦中の地上部隊から、目標地域上空をRQ-11レイヴンが平均海面高度3,580フィートで飛行中であるとの情報を受領しました。この情報は、事前の地上展開部隊との進入手続きの際には、提供されていませんでした。長機は、RQ-11よりも低い高度を飛行していました。このため、地上部隊に対し、武装偵察チームはレイヴンよりも低高度で任務を遂行し彼我の配置を速やかに把握すること、およびレイヴンは目標地域を離れたより高い空域に移動すべきであることを通報しました。
地上部隊がこの行動方針を承認した後、武装偵察チームは、彼我の配置の特定を開始しました。突然、後続機が平均海面高度約3,250フィートでレイヴンと衝突しました。左側の風防が破損し、左側のグレアシールド(計器盤上部に取り付けられた反射防止壁)、デジタルカメラ1台およびM4カービン1丁が損傷しました。当該機は、それ以上に事故を拡大させることなく、また、どちらの搭乗員も負傷することなく、前方運用基地ラムロッドに帰投しました。地上展開部隊が、UAS、爆破、他の航空機、間接照準射撃などに関する情報を適時かつ正確に把握し、戦闘地域内で運用されている航空機に提供することができていなかったのです。
この事故は、どうして発生したのでしょうか?まず、空中部隊指揮官は、UASが飛行制限空域(restricted operations zone, ROZ)内を飛行中であることを認識した後も、その空域に留まることを選択してしまいました。いかなる種類の飛行制限空域であろうとも、そこに進入してしまったことに気づいた時点で、そこから離脱すための処置を直ちに行っていれば、この事故は回避することができたのです。パイロットであれば、誰でも即座に可能なことです。
一方、地上部隊にも、問題がありました。無線通信士は、空域を高度分離によって調整することに同意しました。しかしながら、その情報は、UAS操縦手には適時に伝わっていませんでした。このやり方では、空域の競合を回避できなかったのです。航空機搭乗員とUAS運用者間の双方向通信が確保できていない限り、航空機が飛行制限空域に進入する際の競合回避を適時には行えないのです。
空域の状況把握は困難を伴うものです。RQ-11は、常に、垂直分離ではなく、水平分離で運航されるべきです。たとえ、あらかじめ旅団および飛行隊から武装偵察チームに対し許可が行われており、その上で地上部隊が武装偵察チームとUASとの垂直分離に同意していたとしても、武装偵察チームがUAS運用者と直接通信することは、必ずしも求められていませんでした。航空機の衝突を回避するための措置は、運用者に伝達するのが遅れたため、その効果を発揮できなかったのです。この衝突は、地上部隊によるUASの経路把握の不十分、空域の競合回避の不適切、RQ-11運用者とOH-58D搭乗員間の通信の欠如、および戦闘行動に関係したすべての部隊等の焦りが招いたものでした。
この事故は、搭乗員と地上展開部隊との意思の疎通がより適切に実施されていれば、回避できたはすです。戦闘行動においては、敵を評定し攻撃する際に、友軍同士の相互干渉を防止するための短切な戦術的間隙を設けることが許容されています。地上部隊と空中部隊を統合するためには、行動を開始する前の調整が不可欠です。機長および空中部隊指揮官は、事前の情報がほとんどまたはまったくない場合においても、任務遂行の危険度を軽減するために最善の努力を尽くさなければならないのです。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2021年06月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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