ブラウンアウト
上級准尉2 クリス・スプラング
第1航空騎兵旅団第227航空連隊第3大隊C中隊
テキサス州フォート・フード
それは、私がアフガニスタンに初めて派遣された時のことでした。私は、重要目標に対する封鎖および捜索(cordon-and-search)任務を遂行するため、夜間に異機種混合の6機で空中機動を実施していました。また、私がアフガニスタンに派遣されてから、初めて経験する空中機動でもありました。
空中機動の編隊は、長機および4番機はCH-47、それ以外の2、3、5、6番機はUH-60で構成されていました。飛行時間約700時間の私は、2番機のUH-60に副操縦士として搭乗していました。左席には、飛行時間約2,000時間の機長が搭乗していました。飛行環境には何も問題がありませんでした。視程は良好で、雲はなく、約50%の月照度が得られていました。空中機動は何度か経験していましたが、先に述べたように、アフガニスタンで実施するのは初めてでした。少し不安はありましたが、近い将来に機長への昇格検定を受ける予定になっていた私は、少し自信過剰気味になってもいました。
離陸すると、空中機動の前に、給油地点まで1時間の飛行を行いました。すべてが計画通りに進んでおり、降着を完了して展開地に帰投し、次の夜の準備に取り掛かる準備ができていました。6機のヘリコプターは、1つのLZ(landing zone, 降着地域)に着陸することになっていました。入手していた写真からは、広い地積を有する降着適地であると判断されていました。
LZに近づくにつれ、地積に十分な余裕があることが確認できました。長機のCH-47から、風が弱いという通報があり、進入隊形をとるように指示されました。私は、CH-47の後方を飛行したことがありませんでしたが、それが発生するダウン・ウォッシュの強さは理解しているつもりでした。LZは広かったので、十分な離隔距離を確保して着陸できるはずでした。しかし、予想以上の砂塵が巻きあがり、LZを覆いつくしたのです。
長機のCH-47により、LZ全体がブラウンアウト状態になってしまいました。砂塵に巻き込まれてしまった私は、直ちにゴーアラウンドを宣言しました。すべての方向への視界が遮られ、ほぼ完全なIIMC(inadvertent instrument meteorological conditions, 予期していなかった天候急変等による計器飛行状態)に入ってしまいました。同じくゴーアラウンドした他の5機を探すのに気を取られた私は、自分の操作を計器で確認することを怠ってしまいました。
機外に補助目標となるものは何もありませんでした。空中に舞い上がった砂塵の高さは、100フィートをはるかに超えていました。私は、自覚がないうちに空間識失調に陥っていました。機長が操縦を交代してくれるまで、私はサイクリックを前方に倒しすぎてしまい、昇降計が真っ黒になっていました。それに気付いていなかった私は、空中衝突を避けることばかりに集中してしまっていました。
結果的には、砂塵の雲から脱出することができ、他の機体との衝突を回避することができました。問題は、もう一度着陸をやり直さなければならないということでした。風が少なかったので、砂塵はLZの上空を覆い続けていました。最終的には、空中機動部隊の卸下を完了し、無事に帰投することができました。
その夜の経験は、私に多くの教訓を与えてくれました。パイロットとしての私を自信を大きく揺るがしました。もう少しで、搭乗者全員を殺してしまうところだったのです。私の人生の中で、最も反省すべき出来事でした。しかし、今では、それが自分にとって良いことだった、と思えるようになりました。あの経験があったからこそ、少しはまともなパイロットになれた気がします。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2022年06月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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