ウォークアラウンドは自ら行え
その頃、ブラックホークのクルーチーフだった私は、ある患者後送チームの一員として勤務していました。それは、イラク東部での美しい朝のことでした。その日の最初の任務に備えるため、機体に向かうと、ちょうど太陽が上り始めたところでした。私は、飛行前点検を準備するため、他の搭乗員よりも先に部屋を出たのです。
準備を終えた時、部屋に忘れ物をしたことを思い出しました。その機体は他の機体から離れた場所に置かれていたので、点検口を開いたままにして部屋に戻ることにしました。その間に、他の搭乗員たちが機体に到着していました。機体の近くまで戻ると、APU(auxiliary power units, 補助動力装置)が回っているのに気づき、あわてて走り始めました。機体に到着すると、メディック(medic, 衛生兵)から、緊急任務が入ったことを聞かされました。
ちらりと機体を見ると、点検口はすでに閉じられているようでした。メイン・エンジンが回り始めたので、急いでフライトギア(flight gear, 装具)を身に付けました。ところが、エンジン回転が上昇すると、突然、両方のエンジン・カバーが開いてしまったのです。カバーを閉めるためにエンジン停止の手順を始めると、幸運なことに、運用班から任務がキャンセルされたという連絡が入りました。
エンジンが停止すると、すぐに機体に上って、すべての点検口を閉じて固定しました。それから、搭乗員たちは、何が起こったのかを話し合うために集まりました。その結果、たくさんの思い込みがあったことが分かりました。パイロットは、私が来たならば機体に上ってすべてのラッチを掛けるだろうと思い、エンジン・カバーを閉めただけでラッチを掛けていませんでした。私は、機体に駆け寄った際にエンジン・カバーが閉まっているのを見て、他の搭乗員がラッチを掛けてくれたのだろうと思っていました。誰も言わなかったし、私も聞かなかったのですが、われわれはお互いに相手がラッチを掛けてくれたと思い込んでしまったのです。
それからは、搭乗するすべての人に、自分自身でウォークアラウンド(機体の周りを回って最終確認をすること)を行うように依頼するようになりました。少なくともパイロットは、二人ともウォークアラウンドを自ら行うべきです。すべての点検口を見るだけでなく、そのラッチに手を触れ、確実に固定されていることを確認しなければなりません。この事案は、誰かが自分の仕事をやってくれたように見えたとしても、それが正しく行われたどうかは分からないということを教えてくれたのでした。
訳者注:UH-60Lにはローター・ブレーキが装備されていないので、メイン・エンジンを始動するとローターが回転を始める。エンジン・カバーのラッチは、ローターのすぐ下にあるため、ローター回転中は操作できない。ちなみに、UH-60Mはローター・ブレーキを装備している。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2021年08月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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