ドッグデイズ

著者注:ハリケーン・フローレンスの被害を受ける中、任務遂行への意欲が高まった航空搭乗員の中には、与えられた任務や要請の範囲を超える行動をとる者が少なくなかった。陸軍の航空搭乗員は「任務分析」を常に適切に行う必要がある。そのことは、任務の境界を明確にし、それからの逸脱を最小限に抑えることを可能にする。
2018年の晩夏、ハリケーン救援のためノースカロライナ州へのクルー派遣の緊急要請を受けました。ハリケーン・フローレンスが猛威を振るい、甚大な被害をもたらしていたのです。医療搬送要員の新人メンバーであった私は、自分の役割を果たすという強い意志と意欲を持って、その任務に臨みました。それまでとは異なる機体での新たな任務に対し、しっかりと職責を果たしたいという強い思いを持っていました。しかし、ノースカロライナ州に到着した我々を待ち受けていたのは、全国各地から部隊が集結する中での官僚主義的な煩雑な手続きでした。何か一つでも任務を実施させてもらいたいと願いながら、作戦室に何度も足を運ぶ日々が続きました。
待機ばかりの日が続くにつれ、ノースカロライナに来たことを後悔する気持ちが強くなりました。退屈になり、不安に襲われるようにさえなりました。特に、作戦本部が任務を厳選し、ホスト州のクルーだけに写真映えのする任務を与えていることを知ってからは、事態がさらに悪化しました。そんな中、ようやく任務が与えられることになりました。
作戦本部と航空機の間の通信は間に合わせのものでした。通信距離が限られた携帯無線機しか使えなかったのです。緊急事態だったため、搭乗員には、任務が完了したならば「自分の仕事を自分で見つける」権限が与えられていました。もちろん、優秀な准尉であった私たちはそうしました。
私のクルーに与えられたのは、人里離れた病院まで飛行し、道路を挟んだ向かい側にある駐車場に着陸して、ノースカロライナ大学で手術を受ける予定の患者を救出する任務でした。その任務は、明確に定義されたものであり、そのとおりに実行されました。ただし、それが終わった後に何をするかは、いわば「暗黙の了解」のような状態でした。わざわざここまで来たのは、現地の救助活動を支援するためです。任務が完了した私たちは、低空飛行を行いながら、救助を必要とする人々を探し始めました。
その結果、窓やベランダから手を振っている被災者を発見することができました。ホバリングを行い、救助員を降下させ、被災者を最寄りの空港へ安全に移動させました。次に、ベランダの床まで浸水した家を見つけました。家族が手を振っていたので、救助活動を開始しました。数分間の地上効果外(OGE)ホバリングの後、一人の女性とその娘を救助しました。
地上の救助員から、女性の夫は救助を希望していないという無線連絡がありました。犬たちを連れて行かないと立ち去れないというのです。家族さえ助けてくれれば、自分は洪水が収まるまでそこに留まって犬の世話をしたいとのことでした。私はその気持ちを汲んで、その申し出のとおりにするべきだと思いました。さらに先へ進み、もっと助けを必要としている人々を探すべきです。しかし、私のチームの決定は、違ったものになりました。家族を降ろしてから、男性と犬たちを救助しに戻ることになったのです。その時点では、その「犬」というのは、2、3匹の飼い犬のことだとばかり思っていました。それは、大きな間違いでした。
私たちはこの男性とその犬たちに対し、本格的な救助活動を行うことになりました。彼はフォックスハウンドの有名なブリーダーだったようです。水難救助隊との素晴らしい地上連携のおかげで、彼と27匹の犬、そして子ウサギを救出することができました!
喜びに沸き立ったチームは、さらに助けを求める人々を探すことにしました。そして、まるで島のように水に囲まれた小高い丘の上に建つ家を見つけました。柵で囲まれている犬たちが餓死しないように解放することになりました。その家の住人は既に避難しているのが明らかでした。私は他に救助すべき人を探すべきだと考えましたが、少し話し合った結果、自分が仲間外れにされているように感じたので、チームプレーヤーとして協力することにしました。結局のところ、私たちは今、「暗黙の」任務に就いているのですから。
再び、ホイストを使って救助員を降下させ、犬用の柵のゲートを蹴り開けられる高さまで下げました。すると、一匹の犬が彼に向かって飛びかかりそうになりました。原子時計のような精度で高度200フィート(約60メートル)でOGEホバリングを維持しようと集中している私に向かって、クルーチーフが「右にスライド!」と言いました。別のゲートまで移動して同じ作業を始めた時、ローターのダウンウォッシュが廃屋の屋根板を吹き飛ばすのが見えました。その時になってやっと、私は正気に戻り、自問しました。「俺達はここで何をしているんだ?俺達の本当の任務は何なんだ?」
ちょうどその時、救助員は家の脇にいた最初に飛びかかってきた犬と目が合ってしまいました。救助員は直ちに「上へ、上へ、上へ!」と無線で叫びました。クルーチーフは、慌てて救助要員を引き上げました。しかし、その犬は飛び上がり、救助員のブーツに噛みついたのです。死に物狂いのその犬は、ブーツに噛みついたままホイストでさらに数フィート引き上げられましたが、ついに口を離して地面に墜落してしまいました。
教訓事項
問題は突然起こるものではありません。たいていは、好ましくない判断が重なって生じるものです。もし犬用のゲートを蹴破ろうとして何らかの事故に遭っていたら、その行為を正当化するのは難しかったでしょう。
私たちは素晴らしい意識を持って出発しましたが、未確定の領域に迷い込んでしまいました。最初の任務の後、一旦仕切り直して任務の全体像を把握していれば、その境界線を確定し、そこからの逸脱を最小限に抑えることができたでしょう。幸いなことに、この任務が私達にもたらしたのは貴重な教訓だけで済みました。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2025年09月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
私的には、災害派遣あるあるだと思います。