機外搭載物の不時落下
機外搭載訓練は、貨物ヘリコプターのパイロットにとって、自分の能力を試す絶好の機会です。それは、刺激的で充実感のある任務ですが、緊急時には重い機外搭載物を投棄しなければならないという固有のリスクを抱えるものでもあります。最近も、訓練中に、CH-47Fの搭乗員が1万ポンドの機外搭載物を演習場内に落下させる事案が発生しました。
飛行前点検
陸軍のすべての部隊では、あらゆる飛行に先立って、飛行前点検が行われます。それは、航空機の安全な運航に不可欠なものです。当該機の搭乗員は、経験豊富な機長(pilot in command, PC)、機長昇格訓練を実施中の副操縦士(pilot, PI)、長年の経験を有する機上整備員および機外搭載に精通した機付長で構成されていました。当該訓練任務を実施する前に、徹底した飛行前点検およびカーゴフックの点検が行われました。すべての機器の機能に問題がありませんでした。
地上試運転
地上試運転においても、搭乗員はカーゴフックの点検を適切に行い、その機能が良好であることを確認しました。パイロットは、フック・リリース・ボタンを操作し、フックが適切に開放することを確認しました。機付長は、その手元にあるフック・ボタンを操作し、これも規定どおりに機能することを確認しました。すべてのフックについて、正常な作動が確認できました。フック・スイッチがOFF/SAFEに設定されている時はボタンを押しても開放せず、当該スイッチが正しく機能していることも確認しました。
訓練
演習場に到着した搭乗員は、10,000ポンド(約4.5トン)の懸吊訓練用ブロックを訓練に用いることに決めました。あらかじめ準備されていたパフォーマンス・プランニング・カード(performance planning card, PPC)によれば、当該機外搭載訓練において、機体の制限を超過することはありませんでした。その後、搭乗員は、通常運航およびエンジン故障などの緊急時の各人の行動について、ブリーフィングを行いました。
その後、エレベーター・ドリル(懸吊物をフックで引き上げた後、その場に降ろす訓練)を数回繰り返しました。その訓練が終了すると、次の訓練についてブリーフィングを行いました。それは、懸吊物を吊り下げた状態でトラフィック・パターンを飛行する訓練でした。離陸すると、機長は、シングルエンジン制限対気速度(single-engine airspeed)を超過し、最も高い障害物よりも250フィート(約76メートル))上空に達したことを搭乗員に伝達しました。これは、カーゴフック・スイッチをOFF位置にし、「安全」状態に切り替えるタイミングであることを意味しています。そうすることによって、どのカーゴ・リリース・ボタンが押されたとしても、懸吊物が切り離されることがなくなります。
不時落下
最初の訓練周回は、無事に終了しました。しかし、2回目の訓練周回で右旋回中、機付長から懸吊物がフックから切り離されたという報告がありました。機長は、直ちに、落下地点が安全な場所かどうかを確認するように指示しました。機付長は、懸吊物は、安全な場所に落下したと返答しました。機長は、フック・スイッチが安全位置に切り替わったままであることを確認し、続いて機付長にフックを手動開放しなかったかどうかを確認しました。機付長は、手動開放は行っていないと答えました。
着陸後の行動
機長は、懸吊物の近傍に着陸し、機体およびフックの状態を確認することにしました。着陸し、エンジンを停止すると、無線を使って司令部に発生状況を通報しました。フックを目視点検しましたが、異状は確認できませんでした。
調査結果
当該機は、飛行場への帰投を許可され、整備員による機体の点検およびカーゴフックの作動点検が行われました。その結果、懸吊物が切り離されたのは、フックの機械的故障によるものであり、搭乗員の過失によるものではないことが判明しました。緊急投棄レバーからフックにつながっているケーブルに不具合があったのです。当該ケーブルが外皮(retaining sheath)から飛び出し、荷重がかかった状態でフックがスイングした際に必要な余長が無くなっていたのです。当該機が右旋回を行った際に、懸吊物の荷重がかかっているフックがスイングしてケーブルが緊張し、緊急切り離しハンドルを引いたのと同じ状態になって、懸吊物が切り離されてしまったのでした。
処置
同型機を調査したところ、複数のCH-47Fのカーゴ・フックに同様の問題が生じていました。緊急切り離しケーブルに、機外懸吊物を不時落下させた機体と同様の不具合の兆候が確認されたのです。本不具合の発生およびその処置を通知するため、予防整備通達(precautionary maintenance message)が全部隊に発せられました。本事故においては、演習場内での訓練中だったため、地上に民間人や軍人がおらず、機外搭載物の落下による人的被害がなかったのが不幸中の幸いでした。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2022年12月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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