手抜き作業の犠牲者
その日、UH-60で戦闘任務を遂行する新米の准尉パイロットとしてイラクで勤務していた私は、同じ中隊の経験豊富な機長と一緒に飛行していた。我々の任務は、会議に参加する第101空挺師団の師団長補を戦闘作戦基地シュパイヒャーから前方運用基地ウォーホースまで空輸することであった。ウォーホース近郊のある小さな前方運用基地の上空を通過した時、共通周波数で救助を求める通信を受信した。
それは、そのFOBで兵士が重傷を負い、直ちに後送しなければ、死亡しまうという内容であった。我々は、そのFOBに戻るために旋回し、搭乗している師団長補に状況を報告した。師団長補は、着陸して細部状況を把握し、我々が支援できるかどうかを判断するように命じた。
着陸して地上部隊の兵士たちから聞いたところによれば、当該兵士は、近くの駐車場で負傷し、大量出血しているとのことであった。負傷した兵士が死にそうなことが分かっていた兵士たちは、その駐車場には十分な地積があるので、我々にそこまで移動するように依頼した。患者後送機の派遣を要求したかどうかを聞いたところ、それはすでにこちらに向かっているかも知れないが、もし到着が遅れれば、その兵士は死んでしまうだろうということであった。
我々は、2番機を降着地に残し、機体を移動させ始めた。しかし、その駐車場には電線などの障害物が多く、着陸できないことがすぐに分かった。我々は、降着地に戻り、地上部隊のj兵士たちに、負傷者をここまで運んでくる以外に方法はないことを告げた。
兵士たちが負傷者を搬送している間に、他の兵士たちから事故の細部について聞くことができた。彼らの語ったところによれば、兵士たちは、駐車場でクレーンを使って輸送コンテナの並び替えを行っていた。負傷した19歳の2等兵は、クレーンから吊り下げられたチェーンをコンテナの天井部に取り付ける作業を行っていた。その兵士は、コンテナへのチェーンの取り付けが終わった後にコンテナから降りずに、そのままコンテナの上に乗ったまま移動したほうが楽だと考えた。
コンテナが持ち上げられた時、1本のチェーンが切れ、その兵士に当たって、喉を切り裂いた。全く信じられないような事故であった。その時、降着地の正面のゲートから担架が運び込まれてくるのが見えた。運ばれている兵士は、誰かからバケツ1杯の血を浴びせられたかのようだった。兵士たちは、出血を止めようと最善を尽くしていたが、その若い兵士の体から噴き出した血は、地面へと流れ続けていた。
彼らが機体に近づいてきた時、医師を乗せた患者後送機から、間もなく到着するという連絡が入り、我々はその患者後送機に降着地を譲らなければならなくなった。直ちに離陸しなければならなかったので、地上にいる隊員たちにそれを説明できなかった。我々が離陸し始めた時、地上にいる隊員たちが見せた絶望の表情を忘れることができない。患者後送機がすでに進入し始めていることを知らない彼らは、我々が負傷者を置き去りにしたと思ったのだ。その2等兵は、病院に向かう途中で亡くなった。彼は、手抜き作業の犠牲となったのだ。その事故に関して、誰かが懲戒処分を受けたかどうかは分からなかった。その後も戦争は、続いていたのである。
それから1年半が過ぎた。上級准尉2に昇任した私は、アフガニスタンで機長を務めていた。長い1日を終えた私は、バグラム空軍基地の中隊事務所から出て、外を歩いていた。事務所から道路を挟んで反対側には、我々の装備品を詰め込んだ輸送コンテナが並べられていた。兵士たちが、クレーンから吊り下げられたチェーンを使って、コンテナを移動しようとしていた。その時、1人の兵士が、チェーンの取り付けを終わった後、コンテナから降りずに、隣のコンテナに飛び移るのが見えた。背筋が寒くなった。こんなことがまた行われようとしていることが信じられなかった。
ヘルメットを投げ捨てた私は、手を振りながらクレーンに向かって走り、作業を止めるように叫んだ。兵士たちは、クレーンのエンジンを停止した。私は、コンテナの上にいた兵士に降りてくるように言い、兵士たちを並ばせ、私がイラクで見たことを伝えた。若き2等兵の悲劇を聞くと、コンテナの上にいた兵士の顔は、明らかに青ざめていた。その後、兵士たちは、チェーンに荷重がかかっている時にはコンテナの上に誰もいないようにしながら、安全にコンテナを移動させていた。
いったい何人の兵士が手抜き作業の犠牲になったのであろうか、私には定かではない。私に分かっているのは、1人の兵士が犠牲になったし、1人の兵士が犠牲にならずに済んだということだけである。貴官は、どちらを選ぶだろうか?
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2019年10月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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