ミックスド・フォーメーション
編集者注:UH-60Aブラック・ホークとAH-64Aアパッチが「ミックスド・フォーメーション(mixed formation, 混成編隊)」を組んで夜間着陸を実施していたところ、ブラック・ホークにアパッチが衝突し、炎上するという航空事故が発生した。この事故により、アパッチに搭乗していた2名の操縦士が死亡し、双方の機体も完全に損壊してしまったが、ブラック・ホークの7名の搭乗者(操縦士2名、機付長2名及び搭乗者3名)は機外への脱出に成功した。 本記事は、そのブラック・ホークに搭乗していた操縦士の1人が事故のわずか1時間後に証言した内容に基づき、この悲劇の発生状況をまとめたものである。なお、本記事の掲載にあたっては、当該操縦士の了承を受けている。
その夜の我々の任務は、UH-60A×1機をもって、AH-64A×1機の同行掩護を受けつつ、物資及び人員をFARPまで空輸することであった。
当時の気象状態はVMCであり、我々のUH-60Aが編隊の長機となって、NVGを使用しながら、滑走路に対し約60°の角度で、西方向から機種方位約90°で着陸進入を開始した。 滑走路を横断後、右に旋回し、滑走路に沿って機種方位150°でFARPに向かう誘導路まで飛行した。誘導路の入り口に到着後、減速・降下しながら左ペダルを踏み込み、誘導路の方向に旋回した。 その時の高度は、主脚のタイヤが地面から約1フィートで、尾脚のタイヤが地面にすれすれになる程度であった。
その時、急に機体が右側下方向に押さえつけられるのを感じた。 「バン!」という音がして、「何かが機体に当たったのか?」と思った瞬間、爆発が発生した。 あわてて窓の外を見ると、我々の機体のローター・ブレードが吹っ飛んでおり、アパッチのロケット・ポッドが地面に転がっているのが分かった。
我々の左側でもう一度爆発が起こり、炎が燃え上がった。 私は、直ちに機外へ脱出し、機体から離れ始めた。 約10メートル位走ったところで、クルー・チーフから「操縦士1名を除き、全搭乗者の脱出を確認!」との報告を受けた。振り向くと、燃え始めている機体の中にもう1人の操縦士が残っており、脱出しようとしてドアを叩いていた。 私は直ちに機体に引き返した。 彼がセンター・コンソールの上を這い出して来たので、脱出を援助し、一緒に走り始めた。その直後、機体に爆発が発生した。
直ちに消防車が到着したものの、アパッチに搭載されていた弾薬が次々と爆発し、30ミリ弾があらゆる方向に飛び跳ねていたため、消火活動はなかなか進まなかった。 アパッチがどこにいるのかは分からなかったが、地上滑走又は飛行により既に現場を離れ、無事でいてくれることを祈っていた。
他の搭乗者は全員が自力で脱出し、ブラック・ホークから50メートル位離れた場所に集まっていたが、4名が負傷し、そのうちの2名はショック状態を起こし始めていた。 1人は足から腰にかけて、もう1人は腕から肩にかけての負傷であった。 クルー・チーフと私は、負傷した兵士の応急手当を開始した。数分後に救急車が到着し、搭乗者全員が、滑走路の反対側にある病院に搬送された。
病院で診断を受けている最中に、私の機体のメイン・ローターにアパッチのテール部が上方から接触したこと、及びアパッチの操縦士が2人とも助からなかったことを聞かされた。 現場では、火の勢いが強かったため、2機の航空機が燃えているとは判らなかった。 あの夜の任務は、3人の乗客と1箱のUAV用部品を運ぶだけの単純な任務だったはずなのに、あんなことが起こるなんて、今でも信じられない。
教訓事項
この悲劇から得られる教訓は、以下の4つである。
最初に、特に夜間運用においては、「ミックスド・フォーメーション」に伴う着意を適切にすること。 ここで言う「ミックスド・フォーメーション」には、「異なる機種が編隊を組む場合」だけではなく、同じ機種であっても「異なる部隊から差し出された航空機が編隊を組む場合」も含めて考える必要がある。自分と一緒に編隊を組んでいる航空機の「能力」と「制限事項」を確実に把握することが重要である。
2番目に、飛行中に僚機を見失った場合の通報手順を確立するとともに、それを実行すること。 緊急時における意思の疎通は、戦闘間の通信統制よりも優先する。 また、他機を見失った場合における高度差の確保と再集合の要領について、あらかじめ決定しておく必要がある。 機体が装備している航法灯は、特に街明かりがある場合には、十分に機能しないことを知っておく必要がある。
3番目に、緊急時の脱出手順について十分に訓練しておくこと。 幸いなことに、私の部隊には、アラバマ州フォート・ラッカーの飛行教官課程を卒業したばかりの操縦教官がおり、戦場への派遣前に、墜落後の各人の任務等について実機を用いた厳しい訓練が実施できていた。 特に、弾薬を搭載していた場合は、墜落地点からできるだけ遠く離れるとともに、姿勢を低く保つ着意が必要である。
最後に、人命救助訓練を自ら実施するとともに、部下に実施させること。戦闘状態における人命救助訓練は、欠かすことのできないものである。私の経験上、戦場に展開した兵士達のほとんどが、何らかの状況における応急手当を経験している。 人命救助訓練は、自分自身のためではなく、貴官の部下の命を救うために必要な訓練なのだ。
出典:KNOWLEDGE, U.S. Army Combat Readiness Center 2007年05月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
アクセス回数:2,526