指輪を外せ
兵士たちに納得させることが最も難しい安全対策の1つに、機体上で仕事をする前に装身具を外すということがあります。特に、結婚の証である結婚指輪は、常に着用しなければならないという個人的信念を持つ者が多く、なかなか外されることがありません。ほとんどの兵士たちが、指輪装着の危険性を周知するための写真などを見たことがあるにも拘わらず、自分自身の個人的信条や配偶者の脅威のために、そのリスクを受容してしまっているのが実情です。
私自身も、結婚指輪を仕事中にはめていることによる危険性を把握し、理解しているにもかかわらず、何が何でもそれを続けていた兵士の1人でした。自分はその危険性を認識しているし、十分に注意を払っているので大丈夫だと言い聞かせていました。飛行前点検の間は手袋を装着し、機体から飛び降りないようにさえすれば、リスクを減らせると信じていました。そんなことよりも、指輪をなくしてしまったり、単に仕事の後で置き忘れてしまったりして、大切な結婚に対する忠誠と義務の象徴をなぜ常に身に着けていないのかと妻から詰問されることのほうを恐れていたのです。
もちろん、この記事を書いているのは、自分自身が指輪でけがをしたからに他なりません。これから、そのことについて、お話ししましょう。あれは、痛かった!
それは、イラクで、NVGを使用した飛行の後、ブラックホークの操縦席から降りようとしている時に起こりました。戦場で長時間飛行した後、1日の飛行を終える段階になって、まさかこんなことが起こるとは思ってもいませんでした。その頃、すでに700時間の飛行時間を有していた私は、記憶する限り、常に同じ要領で機体から降りていました。その時の降り方も、いつもと変わらないものでした。しかし、ヘリコプターを降りる時、指輪を付けた指が側方防弾装甲パネルの上部から2山ほど突き出た小さなスクリューに引っかかってしまったのです。
残念なことに、私が自分自身に課していた機体から飛び降りないというルールは、飛行後に座席から出る場合には必ずしも守られてはいませんでした。ステップに足をかけた後、機体から飛び降りていたのです。一方の足をステップにかけたままで、もう一方の足を地面まで降ろすのには、ちょっと背が足りなかったので、ステップから少しだけ飛び降りることが習慣になっていました。このため、その時も、防弾装甲パネルの上部を左手で握ってから、30センチから60センチ下の地面まで飛び降りてしまいました。指輪がスクリューに引っかかったまま、足が地面に着いた時、予期していなかった激痛が走ったのです。
最初は、その痛みを隠そうとしました。他の搭乗員が同情してくれるはずがないと分かっていたからです。我々は、搭乗中に結婚指輪を付けていることのリスクについて、何枚もの写真を見せられ、警告されていました。そういったことに関して失敗を犯した場合に、他のパイロットたちが同情してくれることは、ほとんどあり得ないのです。このため、ちょっとの間は我慢していたのですが、すぐに叫び声をあげてしまいました。予想どおり、私に同情してくれる者は誰もいませんでした。機付長にいたっては、TMC(troop medical clinic, 医務室)に提出するための写真を撮っていました。幸いにも、指輪が指から抜けてくれたので、大きなけがではありませんでしたが、その時の痛さとTMC に行くたびに自分の指の写真の前を歩かなければならない恥ずかしさは、私に貴重な教訓を与えてくれました。
この事故の前向きな成果は、仕事中に結構指輪を着用することの危険性について、妻を納得させられる確固たる理由が得られたことでした。この物語を紹介することによって、自分と同じような事故に遭う前に、皆さんにもそれが与えられることを願っています。
出典:KNOWLEDGE, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2018年02月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
私も「指輪装着の危険性を周知するための写真」を米陸軍航空兵站学校(現在の第128航空旅団)で見たことがあります。それは、こんな写真でした。http://www.orthobullets.com/hand/6061/ring-avulsion-injuries?expandLeftMenu=true (閲覧注意)