基本的事項を忘れるな
航空事故や不安全の多くは、操縦学生になったばかりの頃から教えられてきた基本的事項の不履行が原因で発生しています。時間が経過し、経験を積むにしたがって、これらの不履行を見過し、致命的な結果をもたらすことになりがちです。新たな任務が増加する中、それを安全に完遂するためには、これらの基本基礎を確実に履行することが重要なのです。
これからお話しする不安全を経験したのは、機長への昇格を目前に控えた「ベテラン」副操縦士だった私が、テキサス州フォート・ブリスに所在する飛行部隊で勤務していた時のことでした。フォート・ブリスで唯一のCH-47飛行部隊の一員であった我々は、駐屯各部隊に対する訓練支援に忙しい毎日を送っていました。機長になる意欲が人一倍強かった私は、次の日から2日間にわたって行われる、2機編隊による夜間の空中機動の計画作成に積極的に取り組んでいました。どちらの機体にも、経験豊富な副操縦士と教官操縦士が搭乗することになっていました。
その任務は、実に簡単なものでした。2機のCH-47は、H時に所定のLZ(landing zones, 降着地域)に地上強襲部隊を潜入させ、その後、要求に応じて、その部隊を回収することになっていました。私ともう一人の副操縦士は、教官操縦士たちの指導を受けながら、経路の設定など、この任務に必要な準備を開始しました。しかしながら、計画が完成した後、出発時刻の直前になってから、LZの位置が変更になり、予想される風向も変わったため、計画していた経路を土壇場になって変更することになりました。最終的な経路は、PZ(pick-up zone, 搭載地域)から、約3分間、ほぼ一直線に飛行するものに改められました。
2機のCH-47がPZに着陸し、兵員を搭載し、離陸および潜入の準備を行うまでは、順調でした。長機の副操縦士だった私は、そのLZまでの飛行は、あっという間に終わると思っていました。定刻に出発し、LZに向かいました。LZに進入中、長機の私と機長が気づかないうちに、我々よりもわずかに低い高度を飛行していた2番機が高圧線を発見し、パワーを増加して、衝突を回避しました。着陸後、2番機から、高圧線が見えていたのかと聞かれました(見えていませんでした)。2番機は、飛行場に帰投し、エンジンがオーバートルクしていないかを確認することになりました。私には、高圧線にどのくらい近づいていたのか分かりませんでしたし、それがあったことさえも分かりませんでした。幸運なことに、この事案は不安全で終わり、致命的な事故には至りませんでした。
この事案からは、いくつかの教訓が得られましたが、そのうち、最も重要なのは、基本的事項を忘れるなということです。パイロットになりたての頃から、経路選定を適切に行うことを何度も指導されてきたにもかかわらず、この訓練飛行においては、そのことを見落としてしまったのが明らかでした。経路の方向および目的地の位置が土壇場で変更になった際に、LZの直前に存在することが明らかだった高圧線と交わるように経路を選定してしまったのです。
また、砂漠地域での夜間の飛行であったため、コントラストが低く、高圧線を発見することができませんでした。幸運なことに、2番機は、直前にそれに気づき、回避することができました。あろうことか、この事案が起こった場所は、我々が日常的に使用する訓練地域にあり、それまでに何回も飛んだことがある場所でした。そのことは、この事案をさらにショッキングな出来事にしました。何年も前に学んだ基本的事項を怠ったことが、裏庭のように慣れ親しんだ訓練場で行われた単純な訓練に、壊滅的な結果をもたらすところだったのです。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2020年01月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
アクセス回数:1,915