事故に向かって突き進むな
陸軍パイロットは、常に厳しい要求にさらされ続ける職務です。急いでいる場合でも、状況を適切に把握し、それをコントロールできることが求められます。ごく通常の運航で私が経験した事例を紹介しましょう。
それは、CH-47の3機編隊の中の1機として、ジョージア州サバンナのハンター陸軍飛行場からニューヨーク州のフォート・ドラムに向かっている途中のことでした。私が機長として搭乗していたCH-47Dは、中継地点のノースカロライナ州フォート・リバティのシモンズ陸軍飛行場に着陸し、給油の順番を待っていました。その日のシモンズ陸軍飛行場は、とても混雑していました。暗くなる前にフォート・ドラムに到着したかった私たちは、早く燃料補給を終わらせたいと思っていました。フォート・リバティからフォート・ドラムまでの飛行間にもう1回の燃料補給が計画されており、スケジュールを守るためには速やかに離陸しなければならなかったからです。
しかし、ホット・リフュエル・ピットに進入できたのは、15分間も待たされた後のことでした。他の2機のチヌークは、15分前に給油を完了してピットから移動し、私たちが燃料補給を完了するのをアイドル状態で待っていました。やっとピットに進入できたと思ったら、給油設備が故障し、それが解決するまでにさらに15分待たされました。そして、燃料補給がようやく始まりました。燃料補給が終了した時点で、他のチヌーク2機は30分以上アイドル運転を続けていました。それらの機体のパイロットからは、この後の1時間半の飛行を考えると、そろそろ燃料が心配になってきたので直ちに出発したいという連絡がありました。
タワーからは、さらに3機の航空機がそのピットが空くのを待っているという連絡が無線でありました。私がホバリングに移行するためのチェックリストを読み上げようとして視線を下に向けている間に、副操縦士は燃料を満載した30,000ポンドの機体を空中に引き上げ、ピットから離脱しようとしました。地面を離れた瞬間、恐ろしい感覚に襲われました。対地高度10フィートで、機首が上下に激しく振動し始めたのです。それは10秒ほどの間のことでしたが、まるで永遠のことのように思えました。まさに「すべてがスローモーションのように感じられた」瞬間でした。
機体安定装置がONになっていないことに気づいてスイッチを入れると、怒り狂っていた野獣が落ち着きを取り戻し、正常にコントロールできるようになりました。チェックリストに基づいた点検を行ってからゆっくりと移動し、他の2機のチヌークに加わりました。恥ずかしさに顔を赤らめながら離陸地点までエア・タクシーをしている間に、タワーからは大丈夫かという確認がありました。
それは、クラスAの事故を発生させ、尊い人命を失うことになりかねない危険な状態でした。急いでどこかに行こうとしたり、何かの操作を行おうとしたりすることは事故のもとです。航空科職種は、不必要に急いで行動したことにより数多くの失敗を重ね、貴重な教訓を得てきました。30年の飛行経験を持つ私に言わせると、私たちの職務に瞬時の行動が本当に必要な場合はそう多くありません。ほとんどないと言ってもよいでしょう。事故を起こさないためには、常に沈着冷静に行動することが必要なのです。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2024年03月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
アクセス回数:447