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陸軍航空の情報センター

満タンにすべきか?

氏名非公開

ホンジュラスに駐留する陸軍上級准尉2の中堅機長であった私は、指揮官からある任務を与えられました。その任務は、我々のクルーと他のクルー1組、そしてAMC(空中任務指揮官, air mission commander)でグアテマラへ向かい、2機編隊で1週間の支援を行うというものでした。中央アメリカで飛行した経験のある者なら誰でも、この地域の天候が、控えめに言っても予測不可能であることを知っています。予測不能な天候においては、適切な量の燃料を搭載しておくことが常に利益をもたらします。今回もそれが正しいことが証明されました。

ホンジュラスの滑走路は、山脈に囲まれた谷間にありました。その山脈は悪天候に見舞われることが少なくなく、飛行場内での訓練飛行は可能でしたが、その周辺地域から離れることは困難でした。滑走路には計器進入方式が整備されていなかったため、計器飛行状態の天候になることが分かっている状況では、飛行場への出入りが上級部隊から許可されることはありませんでした。

ホンジュラスを拠点として活動していたUH-60Lには、CEFS(crashworthy extended fuel system, 耐墜落性増設燃料システム)タンクと呼ばれる耐墜落性増設燃料システムが装備されていました。UH-60Lは、高温・高所・高重量の状況で燃料を満タンにすると、出力が制限される場合があります。グアテマラでの任務は、標高5,000フィートという高地で行われますが、その時期は気温が低く、また搭載物は搭乗員だけでした。言い換えれば、我々には十分すぎるほどの出力がありました。特に気まぐれな気候においては、任務を与えられた際に航空機の限界と能力を知っておくことが極めて重要です。

ホンジュラスからグアテマラへの飛行には、2時間弱かかります。CEFSを満タンにすると、飛行時間を約2.5時間から、多少の増減はあるものの4.5時間近くまで延長することができます。最大航続距離速度で飛行すれば、さらに航続距離を延ばすことができます。

任務のために適切な計画を立てた我々は、全ての必要事項を含んだフライト資料を作成しました。離陸前のウェザー・ブリーフィングにより、離陸および飛行が許可されました。グアテマラに到着すると、現地の気象は我々が受け取っていた予報よりも良いものでした。その週を通して、我々は大成功のうちに任務を遂行しました。週の終わりまでに、全ての任務が完了しました。ところが、基地へ帰還する前日の夕方になって、暗い雲が流れ込んできました。

翌朝、我々が目を覚ますと、IMC(計器気象状態, instrument meteorological conditions)に近い状況でした。先に述べたように、ホンジュラスの滑走路は計器進入方式に対応していなかったため、帰投するための計器飛行計画を提出することができませんでした。悪天候を迂回するという賭けに出るのも賢明な判断とは思えなかったので、我々は飛行をキャンセルし、翌日に再び離陸を試みることにしました。

翌朝、グアテマラの天候は回復しましたが、ホンジュラスには散在する雲層が予報されていました。AMCは、行動方針についての話し合いを始めました。主に高温・高所・高重量での飛行のため、我々が通常使用していた手順では、CEFSタンクを半分まで給油することになっていました。燃料を少なくすることで、輸送が必要な貨物や物資など、より多くの重量を搭載することができました。しかし、先に述べたように、この任務では追加の貨物や物資は必要ありませんでした。搭載しなければならなかったのは、自分たちのクルーとその手荷物だけでした。

AMCは尋ねました、「満タンにすべきだと思うか?」私は、簡単な計算を行うと、もしホンジュラスの雲が山脈を覆っていた場合、半分しか満たされていないCEFSタンクでは十分な飛行時間を得られないと結論付けました。警備・回収チームもいない状況で、グアテマラの人里離れた場所に着陸することは、安全な行動方針とは思えませんでした。これまでのキャリアを通してCEFSを運用してきた私には、性能計画を適切に行えば、タンクを満タンにしても飛行を妨げることがないという自信がありました。また、燃料を満タンにしておけば、もし視認進入を開始できなかった場合に、安全にグアテマラへ引き返す能力を持つこともできます。AMCは同意しました。しかし、その時点では、燃料を満タンにしたことが実際に功を奏することになるとは知る由もありませんでした。

我々は、航空機に完全な満タン状態に給油した後、ホンジュラスへの帰投のため離陸準備に入りました。グアテマラの「快晴、視程良好、気温22度」の天候は、まもなく散在雲に、そして雲多しに変わり、ホンジュラスに到着する頃には、山脈は完全に雲に覆われていました。我々は降下や減速をする必要は全くなく、意図せずIMCに進入するような兆候もありませんでした。雲の高度のおかげで、我々は飛行中ずっと有視界飛行方式の気象状態を維持することができました。

では、雲によって我々ができなかったことは何だったでしょうか? それは、山脈を越えて飛行し、滑走路への視認進入を行うことでした。旋回を繰り返しながら、次の行動方針について話し合った我々は、決断を下しました。計算の結果、グアテマラへ引き返すのに十分な燃料があることが確認できました。我々はそれを実行し、再びグアテマラで安全に一晩を過ごしました。我々は、その翌日、ホンジュラスに帰投しました。

教訓 読者の皆さんには、この物語の教訓が明らかだと思いますが、はっきりさせておきましょう。自分の航空機の限界を知っておくことは有益です。あの状況において、もし航空機がそれだけの燃料を搭載できることを知らなかったなら、もしその燃料でどれだけの距離を飛べるかを知らなかったなら、そして、もしCEFSタンクを満タンにしていなかったなら、我々はグアテマラのジャングルで夜を明かすか、あるいはもっと悪い事態になっていたでしょう。あなたは航空機をうまく操縦する方法を知っているかもしれませんが、もし航空機の限界を知らなければ、自分自身を家に連れ帰ることができないかもしれません。自分の航空機の限界を知り、そして航空機の限界が許すのであれば、常に満タンにしておくべきです。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2025年09月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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