AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

誰も操縦していない!

上級准尉2 ジェームス・B・ヒリヤード
第12戦闘航空旅団第159戦闘偵察大隊第3大隊C中隊

ドイツ連邦共和国イレスハイム

その日の任務は、ドイツ国内のある演習場までの移動という、これまでにも何回も行ってきた、ごく通常の飛行任務であった。 中隊の訓練担当操縦士は、若手操縦士達を訓練するため、AMPS(aviation mission planning system, 航空任務計画システム)コンピュータを使用して新しい飛行経路を入力するように指示した。また、新しい経路の中隊の操縦士に対するブリーフィングも彼らに実施させた。システム上の制約から、若手操縦手達は、飛行経路を2つに分割して入力した。ウェイポイント6に到着したならば、編隊は後段の飛行経路に切り替えて、目的地を目指すことになっていた。
 私は、演習場へ向かう6機編隊の長機であったアパッチの前席に乗り込んでいた。無線チェックから離陸までは、すべてが予定通りに完了した。しばらくすると、TSD(tactical situation display, 戦術状況ディスプレイ)上に表示された飛行経路は、編隊がウェイポイント6を通過し、演習場に近い方の後段の飛行経路に進入しようとしていることを示すようになった。
 その時の操縦は、私が行っており、自動操縦のホールド・モードを作動させていた。編隊がウェイポイント6に到達すると、後席の機長は、ブリーフィングで説明を受けていたとおりに飛行経路の切り替えを実施した。ところが、切り替えを行った途端に、TSDから飛行経路の表示が消えてしまった。機長と私は、いったいどうしたのかという議論を始めた。議論のさなかに、機長は、私に操縦を交代するように指示した。私は、3ステップ方式での確実な操縦桿の受け渡し(訳者注:操縦を代わる時に、①”You have the flight controls”と言って操縦桿を相手に渡す。②渡された方は”I have the flight controls”と確認する。③渡した方は、確実にするために”You have the flight controls”と念を押す。の3ステップを行う要領をいう。)を行ってから操縦桿を離した。それから、TSDに以前使用していた元通りの飛行経路を表示させた。
すこし時間が経つと、機長は機体がコースの左側に寄っていると言った。私は、それに同意した。いくらも時間が経たないうちに、機長は機体がさらにコースを左側に外れていると言った。もう一度、私は同意した。
 また少し経ってから、機長は、もっと右によって、コースに戻らなければだめだと言った。私は、ちょっとの間ためらったが、機長に操縦しているかと尋ねた。「おっと、忘れていた!」という答えが返ってきた。飛行経路のことで混乱状態にあった間に、機長は操縦を交代したことを忘れてしまっていたのである。約5分間、航空機は誰も操縦していない状態で飛行していたのだ。機体をまっすぐ水平に飛行させていたのは、自動操縦のホールド・モードであった。
 航空科部隊でよく言われる言葉に次のようなものがある。何らかの指示が聞こえた時、よく考えることなく、ほとんど無意識のうちに返事だけはするが、肝心の対応動作を行うのを忘れてしまう場合が往々にしてある。アパッチに搭乗している操縦士は、お互いが見えないため、言葉を交わして確認する以外に、指示に対する対応動作が行われたかどうかを確認するすべがない。
 これまでに多くの事故が、誰も航空機を操縦していないという状態が原因で発生してきた。クルー・コーディネーションを適切に実践せよ。クルー・コーディネーションを軽く考えてはならない。ちょっとした注意散漫が命取りになりかねないのだ。

           

出典:KNOWLEDGE, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2010年10月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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