航空事故回顧-CH-47Fにおける非標準懸吊物スリング中の機体損傷
当該CH-47Fは、前方展開地域においてスリング任務を実施していた。胴体の下には、重量約4,500ポンド(約2,041キログラム)のコンテナハウス(relocatable building, RLB)がデュアル・ポイントでスリングされていた。対地高度約1,000フィート(約305メートル)を降着地域に向けて進入していたところ、懸吊物が大きく振り上げられ、左側胴体および左側エンジン・ナセルに接触した。チェーンおよびストラップが胴体の一部に巻き付き、懸吊物を切り離せない状態になった。当該機は、卸下地域への進入を継続した。機体をホバリングさせている間に、懸吊物の切り離しを行うための地上要員が招集された。当該機は、スリング・ベルトを切断して懸吊物から切り離され、駐機場に移動し、エンジンを停止した。被害状況の確認結果(暫定)によれば、2枚のローターブレード(全損)、エンジン・カウリング、機体外板、複数のカーゴ・フックおよび動力伝達系統が損傷していた。
任務開始前の状況
当該航空任務部隊(aviation task force, TF)の航空支援要求(air movement request, AMR)対応班は、1棟のコンテナハウスを移設する支援要求を受領した。その任務は、CH-47Fによるスリングで実施されることになった。最初のコンテナハウスを移動する前には、懸吊準備およびスリングの要領を検討し、CH-47Fを使用した吊り上げ試験を実施して、安全性の確認が行われた。そのコンテナハウスは、TM 4-48.11に記載されている8x8x20フィートのシェルターに類似していたことから、そのスリング要領は、それに関する規定および実施された試験の結果に基づいて決定された。当該航空支援要求は指揮官によって承認され、CH-47Fのスリングによるコンテナハウスの移動が開始された。その後3か月間に渡って、作戦地域内の各所からコンテナハウスの移動が行われた。その間、いくつかの問題が発生したが、この任務の危険見積が見直されることはなかった。飛行中にコンテナハウスが不時に切り離される事故が2件発生していた。そのうちの1件は電気的な故障が原因であり、もう1件は搭乗員が転倒した際に誤ってスリング・リリース・ボタンを押したことが原因であった。それ以外に、飛行中の空気流により、コンテナハウスの後壁が僅かに内側にへこんでしまうという事案も発生していた。対策として、コンテナハウスの後壁を内側から木で補強することになった。ただし、スリング準備班によれば、この補強作業が行われていたのは、手元に材料があり、時間に余裕がある場合に限られていた。事故発生時にスリングされていた懸吊物には、この補強が行われていなかったのである。
当該部隊は、後退作戦の全般支援を命ぜられており、2機のCH-47Fをもって人員および装備品の輸送を実施していた。敵の脅威の度合いは中程度と見積られ、担当する少佐がブリーフィングを実施し、任務部隊指揮官が任務の実行を承認した。任務完遂に対する過度の切迫感はなく、機内積載物の搭載作業にわずかな遅れが生じたものの、任務全体には大きく影響しなかった。1300、搭乗員たちは中隊指揮所に集合を完了し、その日の勤務を開始した。1400頃、当該任務に関する運用・情報ブリーフィング(operations and intelligence (O&I) brief)が実施された。ブリーフィングには、気象、敵の脅威、航空支援要求(air movement request, AMR)、特別指示(special instructions, SPINS)、通信保全(communications security, COMSEC)に関する事項が含まれていた。搭乗員たちは、機体の飛行前点検、搭乗員および編隊ブリーフィングを実施し、現地時間1545に気象情報の更新を行った。任務実施間の天候は晴天、視程7マイル、西風10ノットであった。、
事故発生時の状況
1620、事故機を含む編隊は、展開地を離陸、2機編隊で各機がコンテナハウスを懸吊し、ヘリコプター降着地域に向かった。着陸まで約3.5マイル(約6.5キロメートル)のショート・ファイナル上で、事故機(2番機)のコンテナハウスが胴体左側に接触し、落下しそうな状態になった。コンテナハウスから生じた破片およびコンテナハウスに巻きつけられていた耐荷重5,000ポンドのラッシング・ベルトが後部ローター系統まで舞い上がり、黄および赤ブレードを損傷させ、ベルトがローター・ハブに巻き付いた。搭乗員は、エマージェンシー・リリース・ボタンおよびマニュアル・リリース・レバーを使用して、懸吊物を切り離そうとした。懸吊物は、後方フックからは切り離されたが、前方フックからは外れなかった。前方側のスリング・ベルトがATIRCM(Advanced Threat Infrared Countermeasures, 先進赤外線脅威対抗手段)システムに巻き付いて外れなくなり、前方フックが最後方まで引っ張られてしまったためである。当該機は、卸下地点への進入を継続した。搭乗員は、卸下地域でホバリングしながら、前方フックから懸吊物を切り離そうと試みた。それができないことが分かると、航空管制官に緊急事態を宣言し、作戦本部に連絡して、ヘリコプターから懸吊物を切り離すための地上支援の実施を要請した。地上支援部隊は、3分後に現地に到着した。地上支援要員は、当初、ATIRCMに巻き付いているスリング・ベルトを取り外そうとした。それが不可能だと分かると、懸吊物からスリング・ベルトを外そうとした。何度かそれを試みた後、スリング・ベルトを切断して、機体から懸吊物を切り離すことになった。ベルトを切断すると、前方フックにかかっていた張力が解放され、前方フックからリーチ・ペンダント(棒状のスリング用器材)が外れた。懸吊物を完全に切り離すまでに要したホバリング時間は、合計約14分間であった。懸吊物から自由になった機体は、小移動を行ってから着陸し、エンジンの緊急停止を行った。エンジン停止中に、2本の後部ローターブレードが半分に折れて機体に接触し、さらなる損傷が生じた。
搭乗員の練度
左席に搭乗していた機長の総飛行時間は2,005時間で、そのうちCH-47Fの飛行時間は1,255時間、副操縦士としての飛行時間は1,050時間、NVG飛行は1,008時間、戦闘状況下での飛行は1,128時間であった。右席に搭乗していた副操縦士の総飛行時間は491時間で、そのうちCH-47Fの飛行時間は402時間、NVG飛行は235時間、戦闘状況下での飛行は277時間であった。左ドアガンに配置されていた機上整備員の総飛行時間は2,014時間で、そのうち機上整備員としては1,278時間、戦闘状況下での飛行は721時間であった。右ドアガンに配置されていた整備員の総飛行時間は606時間で、そのうち戦闘状況での飛行は363時間。ランプに配置されていた整備員の総飛行時間は513時間で、そのうち戦闘状況下での飛行は305時間であった。
考 察
事故調査の焦点は、飛行計画の作成、懸吊物の検査および非標準任務の実施に関する規定の遵守などに当てられた。当該コンテナハウスは、20フィート長の軍用コンテナとほぼ同じ大きさではあるが、構造強度は異なっており、より高いレベルでの承認を要する非標準懸吊物として扱われるべきものであった。にもかかわらず、標準懸吊物に適用される規定に基づいて任務を行ったため、本来実施すべき手順が省略され、文書化されていない過去の教訓事項を把握することができていなかったのである。
一方、コンテナハウスの構造強度が低下し、航空機に損害が生じた後の行動に関しては、搭乗員訓練マニュアルのタスク1070「緊急事態への対応」に基づく対応が直ちに行われた。搭乗員たちは直ちにFADEC-F手法に沿った対応行動を開始した。それは、その年の初めに導入されたばかりの手法であったが、搭乗員の中で最年少であった搭乗整備員ですら、ICS(Intercommunication system, 内部通話装置)で「fly the aircraft(航空機を飛ばせ)」と発唱しているのが確認できた。このことは、搭乗員全員の冷静さの回復や、直面している問題への速やかな対応に寄与した。搭乗員たちは、航空機を飛ばし、事態および機体の状況を把握し、適切な対応を実施して、搭乗員、航空機および地上支援要員に対するリスクの増大を回避した。このことは、この事故で人的被害が生じなかった重大な要因のひとつであったと考えられる。
参考:非標準懸吊物に関する各種規定
非標準懸吊物の機外搭載手順コンテナへのアダプターの取り付け、VERTREP用ミサイル運搬台の懸吊準備などについては、NAVSEA S9750-AA-MMA-010を参照のこと。寸法、容量、または形状によりパレットやネットを使用できない懸吊物には、ペンダントまたはスリングを接続するスリング・アイまたはリフティング・アイを取り付けること。非標準懸吊物の空輸の可否に関する最終的な判断は、操縦士が行うこと。
*注意*
非標準懸吊物の懸吊準備に際しては、懸吊物の吊り上げポイントを確実に点検し、それが適切なポイントであることを確認しなければならない。リフティング・アイまたはリフティング・ポイントのように見えるものであっても、他の用途のためのもの(たとえば、タイダウン・ポイント)であり、機外搭載に適さない可能性がある。
非標準懸吊物
非標準懸吊物とは、電話用電柱、砲迫用の標的、防護壁用の資材など、1回限りまたはごくまれにしか輸送されない器材をいう。スリング荷重審査が定められていないからといって、それをもって直ちに非標準懸吊物の輸送が禁止されるわけではない。ただし、懸吊準備の手順が定められていないことから、リスクの高い懸吊物としての特別な考慮が必要となる。非標準懸吊物の懸吊準備およびその確認は、十分な経験を有する者によって実施されなければならない。機外搭載任務の実施間、機長は、いかなる場合においても、非標準搭載物の懸吊任務の中止または実施の決定について全責任を負う。飛行前に静的な懸吊試験を実施して重量を測定し、懸吊準備の手順を確立し、懸吊物の重量バランスを確認することが望ましい。非標準懸吊物の輸送に関する方針は、軍種ごとに決定される。非標準懸吊物の輸送は、高レベルのリスク承認権者(high risk approving authority)(海軍または海兵隊においてはoperational risk management (ORM) high risk authority)による承認を要する。(各軍種共通)DAフォーム7382(懸吊物検査記録)の備考欄の右下隅には、承認権者の階級および名前を記載しなければならない。(海軍/海兵隊)時間に余裕がある場合は、指揮系統を通じ、本規定に示された承認権者に対し、事前の承認免除を受けることが望ましい。(海軍/ 海兵隊)事前の承認免除が運用上実行不能な場合は、指揮官は、運用上の必要性を考慮した上で、その裁量により試験および承認を留保し、当該輸送を実施できる。
非標準懸吊物の装備および運用上の要求事項
第1-5項運用上の要求により非標準懸吊物をスリングするかどうかの判断は、当該指揮官の裁量に委ねられる。この規定に記載されていない装備品のスリングに際しては、懸吊準備の要領および懸吊間の安定性を確認するため、(可能な限り)クレーンを用いた静的な懸吊試験を実施すること。当該試験は、懸吊準備作業に精通している要員によって実施されなければならない。飛行による試験は、静的な試験において懸吊準備の要領が確立された後でなければ実施してはならない。
注:シェルター、空のトレーラー、パレットに乗せた物、ボート形の物、空の燃料または水用ドラム缶など、軽量で表面積が大きい(表面が平滑な)物品を懸吊する場合には、スリング飛行中に不安定になる危険性が高いため、低速度域においても細心の注意を払いながら飛行する必要がある。
CH-47搭乗員訓練規定、タスク2048「機外搭載(スリング)時の運航」
注:すべての陸軍装備品および承認済み懸吊物は、TM 4-48.09に基づいた検査の結果がDAフォーム7382-Rの様式で発簡されている。それ以外の懸吊物(訓練用懸吊器材、他軍種、外国の軍隊、他の政府機関の懸吊物など)は、各部隊の定める要領により、個別に検査を実施しなければならない。各飛行部隊は、懸吊準備を適切にし、承認権者を明確にするため、被支援部隊と連携し、DAフォーム7382-Rに準じた事項を網羅した基準を予め制定しておくのが望ましい。
結論
本記事は、同種事故の再発を目的としたものであり、記載した手順は、非標準懸吊物の輸送によるリスクの軽減に関係する事項を抜粋したものである。承認が未了であるからといって、非標準懸吊物を輸送できないということではない。ただし、懸吊準備の手順が定められていないため、リスクの高い懸吊物として特別な注意を払う必要がなる。非標準懸吊物の懸吊準備およびその確認は、十分な経験を有する者によって実施されなければならない。任務実施間、機長は、いかなる場合においても、非標準懸吊物の輸送任務の継続または中止の判断について、全責任を負う。この航空事故で負傷者が発生せずに済んだ最大の要因は、FADEC-Fの手法に従って適切な対応が行われたからにほかならない。
Keep Em Safe!(安全を確保せよ!)
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2022年04月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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2件のコメント
スリングなどが機体に巻き付いている状態は、情報・資料が不足しているため、翻訳に不適切な部分があるかもしれません。お気づきの点があれば、教えて下さい。
知床では、沈没した観光船を作業船が引き上げたものの、移動中にスリング・ベルトが外れて再度落下するという事案が発生しました。まさかということが、起こるものです。