AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

一部計器故障状態での飛行

上級准尉4 ジョシュア・スノー
第304軍事情報大隊
アリゾナ州フォート・ファチュカ

美しきアラスカ中部。その山岳地帯が織りなす景色には、誰もが目を奪われます。ただし、天気が良ければですが...

私は、年に一度の練度・即応性検定の一環として、計器飛行練度評価を受検しようとしていました。その日に予定されていたのは、中隊内の技量評価操縦士兼計器検査官 (SP/IE)とともに行う、アラスカ州フォート・ウェインライトからフォート・グリーリーまでの飛行でした。出発地および到着地は、いずれも天候が良好でした。しかし、飛行経路は、ほぼ全域にわたって、計器気象状態となることが予報されていました。アラスカ中部には、計器飛行方式(IFR)経路が少なく、私たちは、この経路を飛行した経験が何度もありました。このため、今回の計器飛行の技量検定も、問題なく終わると信じ切っていました。あんなことが起こるとは、全く予想できていなかったのです。

口頭による技量評価および飛行前点検が完了した後、ラッド陸軍飛行場からIFRで離陸し、フォート・グリーリーへと向かいました。南に向けて何事もなく上昇し、順調に飛行を続けました。コックピット内は、リラックスした雰囲気に包まれていました。私は、それが警戒心をより高めるものであることを理解していました。私たちが搭乗していたUH-60Aは、当時、飛行隊の中で最も古い機体のうちの1機でした。韓国からアラスカに移動したばかりの私たちの部隊では、まだしばらくの間、この機体を使い続けることになっていました。

フォート・グリーリーに向かうV(ビクター)航空路に沿って、高度4,000フィートの雲上を飛行していると、姿勢指示器がおかしいことに気づきました。最初は左右に揺れ始め、その後は高速で回転し始めました。状況を搭乗員に伝えた後、隣の座席を見ると、副操縦士側でも同じことが起こっているのが分かりました。次に、水平位置指示器(HSI)にも問題が生じていることに気づきました。全部の指針が回転し続けていました。180度振れて停止し、現在の方位に戻るということを1秒ごとに繰り返していました。

そのことを報告したとき、反対側の座席でも同じ事象が起きていました。飛行時間4,000時間を超える経験豊富な准尉のSP/IEは、操縦交代を宣言しました。そして、私の検定は合格とし、この後の飛行は一部計器故障状態での訓練(partial panel training)に変更するという企図を示しました。その上で、私に対し、航空管制官に状況を通報し、着陸予定のフォート・グリーリーにおいて精密進入レーダー(PAR)による誘導を要求するように命じました。その後は、PARの誘導に従って飛行場に進入し、無事に着陸することができました。着陸後、飛行後点検を実施した試験飛行操縦士により、コマンド・インスツルメント・プロセッサのコネクターが緩んでいるのが発見されました。ジャイロの回転が制御不能になったのは、このためだったのです。

教訓事項

一部計器故障状態での飛行は、フライト・シミュレーターで訓練していますが、それが飛行中に突然発生した場合に対応するのは、容易なことではありません。姿勢指示器がない状態で飛行するのは、難しいものです。水平位置指示器(HSI)がない状態で飛行するのも、難しいことです。ましてや、その両方がない状態で飛行するのは、私に言わせると最悪です。スタンバイ・コンパス(磁気コンパス)を使った飛行には特別なスキルが必要ですが、それを確実に身に着けている人はまれでしょう。あなたは、飛行経路における磁気偏角を把握していますか? 進行方向を求めるためには、それを磁気方位に加えるのか、それともそれから引くのか、分かっていますか? 飛行計画の航法ログには、真方位角と磁気方位角の両方を記載していますか?

幸いなことに、それがまだ2回目の計器飛行検定だった若き准尉の私は、細部まで細心の注意を払って航法ログを完成させていました。しかし、検定のために徹底的に準備をしていたことが、対応を容易にしたと考えるのは間違っています。私は、あの日の飛行を無事に終えられたのは、SP/IEの適切な指揮のおかげだと思っています。この件は、私に、自信過剰をいましめる貴重な教訓も与えてくれました。-10(ダッシュ・テン, 取扱書)の第5章 (運用制限)と第9章 (緊急手順)を丸暗記しただけでは、故障による危険状態を回避することはできないのです。

最後に、技術図書は、常に最新の状態に維持しておかなければなりません。プロのパイロットとして、訓練の内容に関わらず、現行の取扱書を必ず携行するのは当たり前のことです。何をすべきか、そしてそれをどのように行うべきかを把握しているかどうかは、計器の指針が回転し初めた時の対応に大きな違いを生むのです。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2023年08月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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