リスクを乗り越えるための3つの原則
正確性、適応性および安全性が同時に求められる陸軍航空の世界の中で、パイロットをはじめとする航空特技者にとっての道しるべとなるのは、「安全の確保(conservative response)」、「適切な状況判断(mature decision-making)」および「効果的なリスク管理(effective risk management )」という3つの原則です。
「安全の確保」の理念は、「安全第一」という言葉で言い表わされます。パイロットが不確実かつ不明確な状況に陥った場合には、特に慎重な行動が求められます。天候が悪化した場合に任務を延期したり、不具合の発生を防止するために予防整備を行ったりというように、「安全の確保」の本質は、「安全をすべてに優先させる」ことにあります。この理念を追求することが、いかなる困難に際しても、リスクを軽減し、搭乗員と搭乗者の生命を守ることにつながるのです。
この「安全の確保」へのアプローチを補完するのが、経験、判断および知恵が組み合わさった「適切な状況判断」です。陸軍航空では、緊要な場面における一瞬の判断が広範囲に影響を及ぼし、重大な結果をもたらします。そこで重要となるのは、不確実な状況を冷静かつ確実に切り抜けられる能力です。「適切な状況判断」を行える者とは、リスクを深く理解し、競合する優先事項を比較検討し、それがもたらす結果を正確に評価できる者のことをいいます。経験を重ねる中で成功と失敗の両方から学び、判断力を磨き上げたパイロットだけが、安全を確保しつつ任務を完遂できる決定を下すことができるようになるのです。
重要なことは、安全確保とリスク許容のバランスを維持することです。過度なリスク回避は、イノベーションを阻害し、任務の効果を低減し、作戦環境への柔軟な適応を困難にしてしまいます。「安全の確保」と「適切な状況判断」を結び付け、柔軟性と俊敏性を適切に維持しつつ、リスクを特定し緩和できるようにするのが「効果的なリスク管理」です。パイロットは、リスク管理への体系的なアプローチを整えることで、潜在的な危険を予測し、適切なコントロールを行い、状況の変化にリアルタイムで対応できるようになるのです。そのことは、安全性を高めるだけでなく、任務の効果を拡大し、リスクにさらされる危険性を極限しつつ目標を達成することを可能にします。
「効果的なリスク管理」のために不可欠なのは、状況判断能力、つまり、飛行安全や任務遂行に影響を及ぼす可能性のある要因を把握し、理解し、そして予測する能力です。それは、周囲の状況を常に注意深く把握し、主要な計器の示度を確実に監視して、計画や対処要領をタイムリーに調整し、いかなる敵の脅威に遭遇した場合でも機敏かつ迅速に対応することを可能にします。加えて、「効果的なリスク管理」には、パイロットや整備員から地上要員や指揮官に至るまで、すべての関係者の間での協力とコミュニケーションの文化を育むことも欠かせません。オープンな対話や情報共有を促進することは、チームとしての総合的な専門知識や洞察力の活用を促し、より効果的にリスクを特定し、それに対処することを可能にします。
陸軍航空の安全と成功のために必要なのは、「安全の確保」、「適切な状況判断」および「効果的なリスク管理」という3つの原則を相互に融合させることです。これらの原則が飛行の安全を確保し、自信を持って正確に目標を達成するための鍵であることを認識し、これらを積極的に遵守することは、私たちパイロットの義務であり、特権でもあります。陸軍航空の安全性と卓越性をより高い水準に引き上げ、その状態を維持するためには、これらの3つの原則を日々の業務に適用し、活用してゆくことが欠かせないのです。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2024年07月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
3等陸曹だったころ、ある先輩から「自衛隊が『安全』ばかりを気にしていいのか?」と問われたことがあります。その答えがここにあるような気がします。
ちなみに、本記事の著者は上級准尉です。