「第4四半期のスパイク」キャンペーンを振り返る

今から5年前の2020年3月、米陸軍コンバット・レディネス・センターは、「第4四半期のスパイク(事故急増)」と題した全陸軍規模のキャンペーンを開始した。それは、2015会計年度から2019会計年度の間の第4四半期に発生した事故の傾向について航空コミュニティに情報を提供する、極めて重要な取り組みであった。その5年間の第4四半期は23件のクラスA事故が発生し、これは会計年度全体で発生したクラスA事故の約40%を占めていたのである。それには、いくつかの要因があった。
第4四半期の傾向(2015-2019年)
移行
第一に、夏の定期異動シーズン中のリーダーの交代、特にリスク受容の責任を有する指揮官の交代は、部隊内のリスクを増大させる。着任した指揮官は、当初の段階では、自分の組織内のハザードについて全体的または正確な状況を把握できていない可能性がある。指揮官たちが適切なリスク判断を下すためには、IP(instructor pilots, 教官操縦士)やASO(aviation safety officers, 航空安全士官)など、経験豊富なベテラン・スタッフからの意見を得ることが重要である。
異動に伴う移行期間中のもう一つの重要なポイントは、特に航空安全士官が、後任者と対面での引き継ぎを行う機会があるかどうかである。着任と離任のタイミングが、常にこれを可能にするとは限らない。業務の継続性を確保するためには、記録簿とSOP(作戦規定)の維持が極めて重要になる。これらの資料を活用することは、移行期間中に着任者が新しい任務に慣れるまでの間に生じる混乱の減少につながる。この期間に指揮官が選択すべき手法の一つとして、主要な人員が部隊に慣れ、運用が正常化するまでの間、リスク受容の承認レベルを引き上げることも検討すべきである。
環境
第4四半期のスパイクをもたらしたもう一つの要因は、「高温・高所・高重量」での運用におけるパワー・マネジメントや、ブラウン・アウト/ホワイト・アウト状態のようなDVE(degraded visual environments, 視界不良環境)などの環境リスクである。派遣先での任務の必要に応じて、より高いリスク・レベルを容認することが求められる中、航空搭乗員の習熟度の向上と経験の増加に焦点を当てた環境訓練プログラムを開発し、事故の減少を図ることが求められる。
クルー・ミックス
指揮官が、その在任期間や経験レベルに関わらず、クルー・ミックスの管理に留意し、適切な人員の組み合わせを確保するために必要な評価を確実に行うことは、事故防止に極めて重要である。クルーの組み合わせが事故の要因となる場合があり、その理由には性格の不一致、現状満足などが考えられる。長時間の飛行経験を有する2名のパイロットの組み合わせは安全な選択のように思えるが、実際にはそうではないことが過去の歴史によって示されている。
第4四半期の傾向(2020-2024年)
「第4四半期のスパイク」キャンペーンの結果、第4四半期における航空安全の改善と事故発生の劇的な減少が見られるようになった。2020年度から2024年度の第4四半期に発生した航空クラスA事故の数は8件に減少し、それまでの5年間に報告された23件の事故よりも65%減少した。これを新型コロナの影響によるものだと考える人もいるかもしれないが、この期間中、陸軍航空は年間計画飛行時間のほぼ90%を飛行していたのである。この結果は、それまでの5年間の四半期に発生していた事故を削減するため、航空コミュニティが一丸となって、この問題の重要性を認識し、その解消に努力を集中したことの証であると言って良いであろう。
ただし、第4四半期の航空クラスA事故の数は劇的に減少したものの、それ以外の新たな傾向が現れ始めている。我々陸軍航空科職種には、引き続き、なさねばならぬことがある。
中堅キャリアの経験ギャップ
2016年から2022年にかけての人員構成の変化により、航空科職種の中堅層(上級准尉3及び4)の人員数が大幅に削減された。この中堅キャリアの経験ギャップを埋めるため、各級指揮官は、現実的かつ挑戦的な訓練を反復し、航空搭乗員の経験とその相互の信頼関係を築かなければならない。この取り組みは、経験の浅いパイロットに対し、パワーが制限される環境だけでなく、LSCO(large-scale combat operations, 大規模戦闘作戦)においても、成功の鍵となる自信と理解を得る機会をもたらす。
航空クラスC地上/飛行事故
2024年度には、クラスCの地上事故が61件報告された。そのうち21件、つまり34%は、地上での取り扱いや整備作業に起因する事故であった。これらの事故の要因は、ヒューマン・エラーであることが特定された。また、2025年度の第1四半期から第3四半期にかけて報告されたクラスCの飛行事故は42件であり、そのうち23件は昼間の訓練任務中に発生している。
第2四半期のスパイク
2020年度から2024年度の5年間で特定された最も重要な傾向は、第2四半期における航空クラスA事故の増加である。この期間に報告された航空クラスA事故は18件で、2015年度から2019年度の間の11件よりも増加している。
我々航空コミュニティは、2020年の「第4四半期のスパイク」キャンペーンの時と同様に、全隊員が一丸となって、これらの新たに現れ始めた事故の傾向への警戒を怠らず、それに集中し続けなければならないのである。
米陸軍コンバット・レディネス・センターのポスター・ライブラリでは、各種の航空安全ポスターがダウンロードできます:https://safety.army.mil/ON-DUTY/Aviation/Posters
訳者注:米国の会計年度の開始は10月、終了は9月であり、終了時の年で呼ばれます。また、米国陸軍の航空事故区分の概要は、次のとおりです(AR 385-10、2023年改正)。
クラスA- 250万ドル以上の損害、航空機の破壊、遺失若しくは放棄、死亡、又は完全な身体障害に至る傷害若しくは公務上の疾病を伴う事故
クラスB- 60万ドル以上250万ドル未満の損害、部分的な身体障害に至る傷害若しくは公務上の疾病、又は3人以上の入院を伴う事故
クラスC- 6万ドル以上60万ドル未満の損害又は1日以上の休養を要する傷害若しくは公務上の疾病を伴う事故
クラスD- 2万5千ドル以上6万ドル未満の損害、又は職務に影響を及ぼす傷害若しくは疾病等を伴う事故
クラスE- 5千ドル以上2万5千ドル未満の損害を伴う事故
クラスF- 回避不可能なエンジン内外の異物によるエンジン(APUを除く)の損傷
クラスG- 生物学事故
クラスH- 化学事故
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2025年07月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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