経験からデータへ:航空安全管理の転換
アビエーション・アナリティクスの活用
陸軍は、陸軍航空の安全性を高めるために継続的に努力してきた。作戦地域における空中衝突やブラウンアウト着陸などの事故は、我々に貴重な教訓を与えてくれた。指揮官たちがこれらのリスクを認識し対処できるかどうかが、安全な運航と事故の分かれ目となることが多かった。
歴史的に、陸軍航空は、公式な事故報告、専任の安全担当士官、クルー・コーディネーション訓練、そして厳格な飛行任務ブリーフィングを通じて、安全性を専門化してきた。これらの取り組みは事故を大幅に減少させ、リスクに対する強い意識の文化を定着させた。しかし、今日の作戦環境は、中堅層の経験のギャップ、飛行時間の減少、訓練回数の減少など、これまでとは異なる課題を突きつけている。航空科部隊は、経験への依存から、事前対応型で、データ駆動型かつ技術強化型の戦略へと移行しなければならない。
リスクを低減するためのアビエーション・アナリティクス・ダッシュボードの使用
CRC(U.S. Army Combat Readiness Center, 米陸軍戦闘即応センター)は、アビエーション・アナリティクス・ダッシュボード(Aviation Analytics Dashboard)内に25年以上にわたって蓄積された事故データ・セットを保有・共有することで、現場レベルでの意思決定を促進している。収集されたデータは、フライト・スケジュールの調整、長期および短期訓練予定表の作成、MBO(Mission Briefing Officer, 任務担当士官)用の訓練成果物の作成、ATM(Aircrew Training Manual, 搭乗員訓練マニュアル)の訓練課目に関連するリスクや事故率の評価など、日々の業務に活用できる。これにより、事故の件数を能動的に減らし、リスクを最小限に抑え、運用をより費用対効果の高いものにするための、指向的かつ包括的な訓練計画の作成が可能となる。
カーネギー・メロン大学ハインツ・カレッジのデータ・ドリブン・リーダーシップ(Data-Driven Leadership)コースは、明確な意思決定プロセスを中心に据えたアナリティクス・プロジェクトを構成することで、その理解を容易にすることに焦点を当てている。航空安全についても、この枠組みを適用することで、データ駆動型のアナリティクスによってリスクを大幅に軽減できる可能性がある。
運用上の洞察を得るためのアビエーション・アナリティクス・ダッシュボードの使用
アビエーション・アナリティクス・ダッシュボードは、ASMIS(Army Safety Management Information System, 陸軍安全管理情報システム)の構造化データと統合されており、Microsoft Power BIを通じてアクセスできるようになっている。部隊は、このプラットフォームを活用することにより、複数のレンズを通してデータを観察できる。例えば、年度を通じた損害コストの傾向、事故の概要、事故の地理的傾向、事故の区分、および部隊間の比較などである。このプラットフォームへのアクセスはASO(Aviation Safety Officer, 航空安全士官)などに限定されているが、ASOは指揮官やMBOに対し必要なデータを提供することができる。このツールを活用することにより、部隊内の安全管理に直接影響を与える、意思決定主導型の運用アナリティクスに役立つ情報を得ることができる。
アビエーション・アナリティクス・ダッシュボードを通じた事故データの活用
Flightfax 109号の記事(2022年7月号に過去の事例として掲載)で考察されたAH-64Eの事故は、飛行計画の作成に当たって、過去の事故をどのように反映させるべきかを示している。この事故においては、練成訓練飛行中、パイロットがブレーク・ターン機動を行った際に、ローターのRPM(Revolutions Per Minute, 回転速度)が著しく低下した。このため、当該機は地面に激突(落着)し、機体が損傷した。この低リスクと考えられていた任務で事故が発生したことで、航空機の性能マージン、機動限界、および利用可能出力の分析における不備が浮き彫りになったのである。
陸軍航空は常にリスクを伴うものではあるが、この事故の考察においては、これらの教訓をMBOのリスク評価に役立てることが重視された。部隊は、アビエーション・アナリティクス・ツールを訓練計画、フライト・スケジューリング、および運用上の意思決定と連携させることで、その分析結果を日々の安全管理の一部とし、再発の防止に役立てることができる。
この事例は、飛行計画の作成時に過去の事故データを把握することがいかに重要かを示している。事故データは、AAR(after-action reviews, 検討会)への情報提供だけでなく、任務前の議論を活性化するためにも使用されるべきである。事故の傾向を把握することで、指揮官、ASO、および航空搭乗員は、類似したリスク・プロファイルを発生前に特定し、低減することができる。
現在の近代化されたリスク軽減のアプローチでは、データ駆動型のアナリティクスを包括的かつプロアクティブに運用に統合することが求められている。リスクは、事故の傾向、任務の複雑さ、および運用データに関する部隊およびクルーの分析を通じて、飛行計画の作成中に軽減されるべきである。これは、事後の考察から、情報に基づいた予測的な安全管理への移行を意味する。これらのアナリティクスを活用する部隊でなければ、情報に基づいた意思決定を通じて、経験のギャップを埋め、事故を減少させ、任務の成功を最適化することができないのである。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2025年09月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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