ワイヤー:目の前に潜む危険
Op-ed, Opinions, Ideas, and Information(寄稿、意見、アイデアおよび情報)
ここに表明された見解は専門的な議論を喚起するためのものであり、アメリカ陸軍またはアメリカ陸軍コンバット・レディネス・センターの方針を示すものではない。
緊迫した空気に包まれた、重要な任務でした。イラクの険しい山岳地帯に、高価値目標が潜伏しており、私たちの仕事は、特殊部隊チームを安全に潜入・離脱させることでした。目標上空を旋回する大規模な支援航空機群(スタック)は、作戦の重要性を物語っていました。
私たちは遅滞なく、地上部隊と共にバグダッドを出発しました。スタックと連絡を取り合い、攻撃準備射撃が開始される中、通信は円滑でした。ガンシップ、ファスト・ムーバー(高速機)、無人機による上空からの攻撃は、ある種の安心感を与えてくれました。分進点 (RP, Release Point) へ進入するにつれ、上空のC-130ガンシップが火を噴くたび、脅威は着実に減じていくように感じられました。
いかなる周到な作戦(deliberate operation)でも、RPへの進入段階は重要かつ常に緊張を強いられる、最も脆弱な時点です。S-2 (情報部門) が想定した携帯型地対空ミサイル (MANPADS)、敵の組装備火器(crew-served weapons)、そして未知の脅威が、全搭乗員の脳裏をよぎります。しかし、バグダッドの遥か北、低照度(near zero illumination)のこの夜、実際に脅威となったのは敵の射撃ではなく、それと同等に致命的となる可能性を秘めた別のものでした。
降着地域 (LZ, Landing Zone) から5キロメートルの地点で、私たちは飛行諸元(プロファイル)を整えました。速度を80ノットまで落とし、対地高度 (AGL, Above Ground Level) 200フィートまで降下し、進入を開始しました。
「ワイヤー、ワイヤー、ワイヤー!」 私がそれを視認したのと同時に、左席操縦士が叫びました。前方100メートル未満、飛行高度と同じ高さに、この地域で最も警戒すべき「アルファ級」と呼ばれる巨大送電線が横たわっていました。
私は操縦桿(サイクリック)を引き、急上昇して50フィート以下の差で回避しました。認識があと2秒遅ければ、ワイヤーに突っ込んでいたでしょう。暑い夜、過酷な地形で、キャビンに隊員(オペレーター)を満載した全備重量のCH-47Fにとって、その結果は致命的だったはずです。
私はこのニア・ミス(不安全)を即座に頭から追い出し、悪視程環境 (DVE, Degraded Visual Environment) 下での着陸操作に集中しました。しかし、その数秒間の重みと、起こり得た事態の重大さは、心に焼き付いて離れませんでした。
ジレンマはここにあります。私たちは、その地域にワイヤーがあることを知っていたのです。航空図(チャート)や分析にも示されていましたが、記載は標準的な電話線だったのです。実際に遭遇したのは、資料よりもはるかに高く危険な、大型の高圧送電線でした。
では、綿密な計画と予行(リハーサル)を経た任務で、なぜこれほど重大な情報を見落としたのでしょうか?
本国なら、最新かつ包括的な航法データを利用できます。手順は単純です。国家地理空間情報局 (NGA, National Geospatial-Intelligence Agency) からダウンロードし、航空任務計画システムにインポートして出発するだけ。同一ネットワーク・プロトコル上で動作し、システム間のデータ転送も比較的容易です。
しかし派遣環境では、データの区分化(コンパートメンテーション)が異なります。任務計画は完全な機密 (classified) システム上で行われます。人工障害物やワイヤーをオーバーレイ表示するベクトル垂直障害物データベース (VVOD, Vector Vertical Obstruction Database) は、非機密(unclassified)システムにあります。このデータを計画システムに取り込む有効な手段がなく、それを活用することは非現実的だったのです。
このニア・ミスはVVODがあれば防げたかもしれませんが、問題の本質と解決策は、単なるデジタル・ツールの欠如ではありません。計画作成のプロセスを見直し、より堅牢で周到な計画手法へ再構築する必要がありました。複数ソースの画像を統合し、既知の危険箇所の変化分析を優先すること。そして、たとえ国外展開頻度 (OPTEMPO, Operational Tempo) が高くとも、計画ペースを落とし、特に目標5マイル圏内での状況把握 (SA, Situational Awareness) を徹底する必要性があったのです。
派遣期間は多忙を極めます。ある周到な作戦(deliberate operation)を計画しつつ別の作戦を飛行し、その多くに同じ搭乗員や計画担当者が関わります。タスク・サチュレーション(業務過多)は避けることのできない事実であり、細部は見落とされ、危険要因は軽視されます。これは言い訳ではなく、重複する任務で限られた人的処理能力(ヒューマン・バンド幅)をやり繰りする現実なのです。
だからこそ、アクセス容易な技術が不可欠です。計画担当者に深く思考し徹底的に作業するには、データ入手時の障壁を減らさねばなりません。任務に不可欠な(mission-critical)計画ツールやデータベースを、機密・非機密の双方ですぐ利用可能にすることは、利便性を超えた安全上の必須事項です。
あの夜は幸運でした。良好な通信、適切なクルー構成(crew mix)、そして機内の多くの目による積極的な監視のおかげです。ワイヤーの発見は間に合いましたが、計画段階で特定・軽減すべき脅威の発見を、運に委ねるわけにはいきません。
このニア・ミスは慢心 (complacency) ではなく、インフラの限界、技術的なフラストレーション、そして現代の複雑な情報戦に適応しきれていない計画システムに起因したものでした。
ここから得られる教訓(takeaway)は一つ。「最も危険な脅威が、常に戦術的なものとは限らない」ということです。危険要因を確実に特定・対処するため、飛行の重要な局面(critical phases of flight)では、常に複数の情報源と視点を確保してください。
あなた、クルー、そして顧客(被支援部隊)の命がかかっているのですから。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2025年12月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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