先進複合材料
ブラスト・フロム・ザ・パスト(過去のFlightfax記事から):1992年4月号(Vol.20 No.6)

現代の技術は数多くの有用な材料を生み出してきましたが、製造・修理の過程や航空機事故の後において、これらの材料に曝露(ばくろ)するおそれのある人々に対する予防措置を講じなかった場合には、現代版の「パンドラの箱」となる危険性があります。
1機のアパッチが墜落・炎上しています。原因はまだ特定されていませんが、このAH-64は駐屯地内の訓練場でほふく飛行を行っている間に樹木に接触したのです。救急隊員と消防隊員が現場に到着し、救助・消火活動を開始します。消防隊員のうち2名は、呼吸用保護具を着用しておらず、火災の煙を吸い込んでしまいました。数分のうちに、1名の消防隊員に頭痛、眼の灼熱感、嘔吐の症状が現れます。この隊員は治療のため、近隣の救急処置室に医療後送されました。診断結果は「反応性気道機能不全症候群」でした。保護具を着けていなかったもう1名の消防隊員は、医師の診察は受けなかったものの、その後2〜3日間「ひどい」頭痛に悩まされることになります。陸軍安全センターの調査チームが到着し、事故調査が始まります。調査が完了すると、支援担当駐屯地から派遣された作業班が残骸の撤去作業を開始します。この撤去作業に従事した作業員のうち2名にも、作業参加後2〜3日間にわたって激しい頭痛と呼吸困難の症状が現れました。
いま述べたシナリオは、実際に起きた事例そのものではありませんが、陸軍航空部隊で過去数年間に発生した複数の事例をつなぎ合わせたものです。航空機の墜落現場に立ち入った人々からは、これと同様の健康影響がしばしば報告されています。これらの症状を引き起こしている共通の犯人が、先進複合材料(advanced composite materials, ACM)です。
製造
先進複合材料の製造は多くの複雑な工程からなり、そのなかには樹脂(接着)系材料や、強化繊維、充填材・添加剤の製造が含まれます。これらの構成材料は組み合わされたのち、「硬化」処理を経て、樹脂が三次元の網目状につながった母材(マトリックス)を形成します。こうして作られる繊維のうち2つは、「ケブラー」や「ノーメックス」という商標名でよく知られています。
樹脂は、先進複合材料の「接着剤」の役割を果たします。最も広く使われている樹脂はエポキシです。樹脂が燃焼すると熱分解生成物が発生し、これを含んだ煙を吸い込むと刺激作用を引き起こすと考えられています。
炭素系およびグラファイト系の先進複合材料は、航空機からテニス・ラケットに至るまで、さまざまな構造物に、より高い頻度で、かつ大量に使用されるようになっています。先進複合材料には、従来の金属材料に比べていくつかの利点があります。最大の利点は、強度重量比に優れていることです。また、引張強度や剛性が高く、耐食性に優れ、熱膨張係数が小さい、すなわち加熱されてもあまり膨張しないという特長を持っています。一方、短所としては、コストが高いことと損傷許容性が低いことが挙げられます。
航空機への使用状況
航空機に使用される先進複合材料の量は、増加の一途をたどっています。F-14、F-15、F-16、F-18では構造重量の約3〜5パーセントが複合材料であり、先進戦術戦闘機(Advanced Tactical Fighter, ATF)やB-2では30〜50パーセント、V-22オスプレイに至っては最大70パーセント(訳者注:執筆当時の見通しであり、最終的には約43パーセントにとどまった)が先進複合材料になるとみられています。陸軍のパイロットにとってより重要なのは、現在保有している陸軍機の一部にも先進複合材料が使われていることです(表1)。UH-60やAH-64のメイン・ローター・ブレードは複合材料製であり、新型のRAH-66コマンチ(訳者注:2004年に開発中止となった)では最大80パーセントが先進複合材料になる可能性があります。さらに、UH-1をはじめとする旧型機の一部でも、先進複合材料を含む部品への換装が進められています。
表1 陸軍機の複合材料含有率(概算、%)*
| 機種 | 基本重量(ポンド) | グラファイト・エポキシ | ケブラー・エポキシ | グラスファイバー | ボロン |
|---|---|---|---|---|---|
| UH-60 | 10,500(約4,760キログラム) | 0.54 | 1.6 | 1.6 | 0.06 |
| AH-64 | 10,505(約4,760キログラム) | 0.1未満 | 2.2 | 1.7 | 0 |
| CH-47D | 22,499(約10,200キログラム) | 0.08 | 0.15 | 7.5 | 0 |
| OH-58D | 3,100(約1,400キログラム) | ** | ** | ** | ** |
* 出典:米陸軍航空システム・コマンド(1989年)
** データなし
健康有害性
これらの材料が製造工程において健康に有害であることは従来から知られていましたが、最近では、破片化した複合材料に曝露した人員への潜在的な健康リスクが懸念されるようになってきました。特に墜落、火災または爆発を伴う航空機事故の後においては、樹脂の熱分解生成物と遊離した複合材料繊維の2つによる健康上の問題が懸念されます。
海軍環境保健センター(Navy Environmental Health Center, NEHC)は、特に火災時における先進複合材料の挙動などについて、広範なデータを収集しています(NEHC-TM 91-6、1991年9月)。火災時に最も懸念されるのは、樹脂が燃え尽きる際に遊離した繊維が細かく砕け、小さな粒子となって肺に吸入されて残留することです。また、複合材料の燃焼生成物を評価・特定するための実験研究により、グラファイト・エポキシ複合材が燃焼すると一酸化炭素が発生し、少量のシアン化水素も発生することが明らかになっています。これら以外にも、エタン、プロパン、イソプロピル・アルコール、ベンゼン、および微量のプロピレンといった燃焼生成物が検出されています。
炭素繊維の粉じんや繊維状の粒子は、皮膚に対しても潜在的な危害要因となります。複合材料の繊維は、乱暴な扱い方をしてフィラメントが破断したり、摩耗したりすると、とげ状の破片が生じ、木のとげと同じように皮膚の表面に刺さります。複合材料繊維の性質上、このとげはピンセットで抜こうとすると細かく折れてしまいます。さらに、体質によっては、複合材料のとげが皮膚の炎症を引き起こすこともあります。
防護
海軍環境保健センターと空軍航空後方支援コマンド(Air Logistics Command)先進複合材料プログラム・オフィスは、それぞれが先進複合材料を使用した航空機の事故に関する安全衛生手順を発行しています。これらの手順は、先進複合材料を使用した航空機の事故対応に当たる人員にとって、初動時の指針となるものです。各駐屯地の安全管理者や産業衛生専門官からは、より詳細な指針や助言を得ることができます。
火災または爆発を伴う航空機事故では、次の作業要領を守る必要があります。
- 墜落現場への立入りを、必要不可欠な人員に限定する。
- 可能な限り、すべての作業を墜落現場の風上で行う。
- 火災が鎮火し残骸が冷えたら、速やかにポリアクリル酸などの固定剤(例:B.F.グッドリッチ製カーボセットXL-11)を残骸に散布する。これは、軽質油のミストやアクリル系床用ワックス(または同等の粘着性物質)でも代用できる。
- 墜落現場およびその周辺での飲食・喫煙を禁止する。
- 強化繊維のとげが皮膚に刺さるおそれがあるので、残骸の取扱いには注意する。
- 墜落現場を離れた人員には、できるだけ早くシャワーを浴びさせる。
保護衣・保護具については、具体的に以下のものが推奨されます。
- 消防隊員は、航空機の残骸が燃焼中またはくすぶっている間は、空気呼吸器と防火装備を使用する。
- 初動段階で墜落現場に立ち入る人員は、高性能粒子フィルタと有機ガス用吸収缶を備えた全面形の呼吸用保護具を着用する。固定剤が散布されるまでは、浮遊繊維や燃焼副生成物が未知の濃度で存在している可能性がある。
- 残骸への固定剤の散布が終わり、蒸気やミストの発生を懸念する必要がなくなった後は、測定(サンプリング)の結果さらに高度な防護が必要と判断されない限り、粉じん・ヒューム・ミスト用のフィルタ付き呼吸用保護具を使用してよい。
- 調査要員と撤去作業員は、タイベックス製またはこれと同等のカバーオール(つなぎ服)を着用し、開口部をテープで目張りする。また、作業員は安全靴を履き、繊維を含む残骸を取り扱う際には突き刺しに強い革手袋を使用する必要がある。
- 全面形の呼吸用保護具を使用しない場合は、保護ゴーグルまたはサイド・シールド付き保護眼鏡で眼を保護する。
先進複合材料が使われるようになってから、まだ10〜15年しか経っていません。吸入されて肺の奥まで達する大きさの複合材料繊維への曝露が、アスベストなど他の産業用繊維と同様の健康リスクをもたらすかどうかを判断するには、研究も科学的データもまだ十分ではありません。しかし、リスクが十分に解明されていないときこそ、適切な予防措置をとることが賢明です。先進複合材料は、すでに多くの陸軍機の機体や追加装備品に使用されており、次世代の軍用機ではその量がさらに増えていきます。先進複合材料に伴う危険と適切な取扱い上の注意を知っておくことは、不必要な不安を取り除き、墜落現場とその周辺で作業しなければならない人々の健康を守ることにつながるのです。
連絡先:ケネス・タネン中佐(産業衛生専門官)、AV 558-2450、一般回線 205-255-2450
出典:Advanced composite materials, FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2026年07月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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