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陸軍航空の情報センター

色あせない教訓 ― ロータック社CH-47D墜落事故から学ぶ搭乗員規律

コックピット内のタブレット、水面上のの残骸、飛行するCH-47を組み合わせた合成画像。(画像:米陸軍戦闘即応センター)

2022年にアイダホ州ノース・フォーク付近で空中消火任務中に発生したロータック社(Rotak)CH-47D墜落事故について、私はこれまで何度も考えてきました。チヌークに長く携わってきた身として、この事故と自分自身の経験を振り返れば振り返るほど、陸軍か民間かを問わず、すべての航空搭乗員に当てはまる教訓が見えてきます。この墜落事故は、壊滅的な機械的故障や過酷な気象によって起きたものではありません。ごくありふれた些細なことで発生したのです。それは、特に搭乗員の業務が拡大し続ける今日の環境において、誰もがコックピットで一度は目にしたことのあるようなことでした。だからこそ、この事故は重要な意味を持つのです。

この事故について初めて読んだとき、私は、その航空機の搭乗員が置かれていた環境と、彼らが直面していた危険性を思い描こうとしました。彼らが実施していたのは、低い高度、高いワークロード、高い気温、そして絶え間ない機動を特徴とする、過酷な空中消火任務でした。そうした条件下で飛行した経験のある者なら誰でも、コックピットが高いプレッシャーにさらされた空間と化すことを知っています。出力、地形、無線、任務上の要求、そして機体そのものを同時に管理しなければなりません。そのような環境では、ごくわずかな注意散漫でさえ、雪だるま式に大きな危険へと発展しかねません。CH-47は巨大な機体であり、これは、陸軍においては、私のような機付長が必要とされている数多くの理由の一つです。注意をそらすものはいたるところにあります。その中の一つにタブレットがあるのです。

航空事故調査官の報告によれば、事故の原因は、固定されていないiPadが機動中に副操縦士のペダルの下に滑り込んだことにありました。その瞬間を想像すると、取水前に姿勢を変化させる機体、出力と姿勢を調整する搭乗員、そして突如としてペダルが動かなくなる様子が目に浮かびます。チヌークは即座に激しくヨーイングし、搭乗員が対応できる猶予時間は、わずか数秒しかありません。ペダルが固着した状態では、このヨーイングに対抗することはできません。その高度、その環境下では、態勢を立て直すことはほぼ不可能になります。

この事案を詳しく調べると、ヒューマンエラーと航空の世界の両方が、いかに容赦のないものであるかが分かります。わずか1ポンド(約0.45キログラム)の物体でも、操縦系統に干渉すれば、数トンもの機体を制圧しうるのです。一瞬の不注意が数十年の経験を無に帰すこともあれば、地上では些細に思える危険が、空中では命取りになることもあります。

この事故について考えを巡らせるうちに、私はコックピット内で固定されていない物品(ペン、手袋、チェックリスト、水筒、携帯電話、タブレットなど)をこれまで幾度となく目にしてきたことに気づきました。たいていの場合は、何も起こりません。たいていの場合は、私たちはそれに気づき、その場で是正します。しかし航空の世界では、「たいていの場合」では不十分なのです。ロータック社の墜落事故は、よりによって悪いタイミングで、よりによって悪い物品が動いてしまったときに何が起きるかを示しています。

航空安全の観点から見れば、この事故における危険要因は明白です。コックピット内の固定されていない装備品と、ワークロードの高い環境という組み合わせが、許容される誤差の余地を搭乗員からほとんど奪ってしまったのです。急激な機動によってタブレットが移動した際、飛行高度の低さが、それによって生じた操縦系統の固着に対処する能力を著しく制限しました。

こうした状況の再発を防ぐためには、いくつかの重要な教訓を徹底しなければなりません。第一に、あらゆる物品を、常に固定しなければなりません。縛着、収納、または留め具による固定がされていない物品は、それ自体が現に存在する危険なのです。第二に、一見些細に見える危険も、重大な危険と同じ真剣さで扱わなければなりません。最も小さな物品が、最も壊滅的な問題を引き起こすことが少なくないからです。第三に、高リスクな飛行段階に入る前にわずか10秒間コックピットを点検するだけで、致命的な事態の連鎖が始まる前にこれを断ち切ることができます。最後に、何かおかしいと感じたときには、搭乗員は声を上げなければなりません。クルー・コーディネーションは、全員が主体的に関与して初めて機能するものです。これは私自身が、身をもって理解している搭乗員の責務なのです。

この事故がこれほどまでに大きな衝撃を与えるのは、誰もが自分のこととして捉えられるからです。航空搭乗員であれば誰しも、コックピット内の散乱物に悩まされた経験があります。航空搭乗員であれば誰しも、ワークロードに圧倒されるように感じる任務を経験したことがあり、誰もが「あれは後で固定しよう」と思った瞬間を経験しています。ロータック社の墜落事故は、「後で」では不十分なのがなぜなのかを示しています。

私がここまで述べてきたのは、誰かを非難したいからではありません。それは、現在および将来のすべての人々に、このような些細な危険がいかにして致命的な事故へと発展しうるかを理解してもらいたいからです。陸軍規則385-10、陸軍省パンフレット385-10、そして各機種の取扱書(”-10″)やチェックリストなどに示されている陸軍航空安全の考え方を踏まえてこの事故を見るとき、伝えるべきことは単純です。小さなことにおける規律が、大きな災いから私たちを守ってくれるのです。慢心が入り込む余地はありません。

ロータック社の搭乗員たちは、経験豊富で、能力が高く、周囲から尊敬される人々でした。彼らを失ったことにより、私たちは、航空の世界が、たとえ故意でない見落としであっても容赦しないということを改めて思い知らされたのです。もし私たちが、自らの習慣を引き締めること、つまり、装備品を確実に固定し、コックピットにおける規律を徹底し、固定されていない物品はすべて潜在的な脅威として扱うようになるならば、それは彼らに敬意を表すこととなり、彼らの物語は単なる悲劇にとどまらないものとなります。それは、航空コミュニティにとって、色あせることのない教訓となるのです。


本稿の筆者は、本人の希望により氏名を公表していない。

訳者コメント:本稿はRisk Management Magazine(米陸軍戦闘即応センター)2026年8月23日掲載の記事の翻訳です。筆者は氏名非公表のCH-47の機付長で、民間の消火任務で起きた事故を題材に、陸軍航空の読者へコックピット内の遊動物の危険を説いています。
記事は事故の顛末に触れていないため補足します。2022年7月21日、アイダホ州のサーモン川で、米国森林局と契約して消火に当たっていたCH-47D(ROTAK社運航)が、2,600ガロン(約9,800リットル)のバケットで取水しようと上昇したところ左へヨーイングを始め、約180度回ったところで墜落し、搭乗していた2名が死亡しました。国家運輸安全委員会(National Transportation Safety Board, NTSB)は2024年6月26日、推定原因を「会社支給のiPadを搭乗員が適切に固定しなかったことにより、iPadが副操縦士の左ペダルへ移動して固着し、操縦士が左ヨーイングを止められず操縦不能に至ったこと」と結論しています。
この機体にはボイス・レコーダーもデータ・レコーダーも搭載されていませんでした。それでも原因を特定できたのは、残骸調査で機械的故障を排除したうえで、地元住民が撮影した38秒の映像から機体の運動を解析し、ボーイングのシミュレーションで必要な操縦入力を逆算し、さらに回収されたiPadの3か所のえぐり傷が、同型機を用いた再現試験でペダル脇の金属部と一致したためです。副操縦士の左ペダルが、その身長に不釣り合いな最前方位置にあったことも符合しました。人体計測試験では、拘束装置を締めた状態ではその位置のiPadに手が届かないことも確かめられています。
事故を受け、米国森林局は2023年7月19日に省庁間安全警報IASA 23-01を発出し、機器の固定要領を周知しました。報告書はまた、運航会社の規定が重要な飛行段階での携帯電話等の使用を禁じながら、会社支給のiPadにこれが及ぶかは曖昧だったと指摘しています。規定があっても対象が曖昧なら実効性を欠くという指摘は、そのまま我が国の部隊にも当てはまります。
もう一点補足します。この事故機に乗っていたのは操縦士と副操縦士の2名のみで、機付長にあたる第三の搭乗員はいませんでした。副操縦士は総飛行時間1,727時間の経験者でしたが、当該機種での飛行時間はわずか6.8時間でした。筆者が「陸軍においては、私のような機付長が必要とされている」と一言添え、結びで「搭乗員は声を上げなければならない」と説くのは、この対比を念頭に置いたものと思われます。遊動物を発見して指摘する第三の目が編制上確保されていることの意味を、CH-47JAに空中輸送員が搭乗する我が国の運用に引き寄せて読むことができます。
なお原文は事故の局面を「放水後」としていますが、報告書はこれを取水に入ろうとする局面としており、筆者の思い違いと判断されるため、訳文では「取水前」に改めました。
                               

出典:A Lasting Lesson: What the Rotak CH-47D Crash Teaches Us About Crew Discipline, Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2026年08月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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