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陸軍航空の情報センター

MEDVAC(患者後送)任務におけるSAR(捜索救難活動)

ネイサン・プロパー

MEDVAC(medical evacuation, 患者後送)用ブラック・ホークに搭乗するため、模擬患者と一緒に待機する兵士たち(写真:米陸軍)

MEDVAC(medical evacuation, 患者後送)任務におけるSAR(search and rescue, 捜索救難活動)を成功させるためには、行方不明者の位置の特定およびそこへの航法を正確かつ迅速に行う必要がある。

そのためには、最新の救命および位置標定テクノロジーを航空機に搭載することが重要である。適切に訓練された医療要員だけではなく、十分な装備を有するMEDEVACパイロット及び搭乗員が存在すれば、負傷した兵士、墜落機の搭乗員および危険にさらされているその他の人員が生還できる可能性を大幅に増大できる。

これまでSARで用いられてきた救命装備のひとつにPLS(Personal Locator System, 人員標定システム)がある。これは、FLIR(Forward-Looking Infrared, 近距離監視装置)を搭載するMEDEVAC用H-60ヘリコプターのために設計されたものであり、行方不明者から発せられる信号を探知するため、機体に専用の受信機およびアンテナシステムを搭載する必要がある。パイロットは、PLSが提供する航法指示により、AN/PRC-112救難無線機を装備する対象者を標定することができる。救難無線機が作動すると、救難無線機は、UHF周波数の遭難信号(ホーミング信号とも呼ばれる)を発信する。PLSを装備する航空機がその信号を受信すると、方位および距離に関する情報をパイロットに提供し、その信号発生源へのホーミングを可能にする。しかしながら、この通信方式は暗号化されていないため、敵に対し脆弱である。敵勢力がAN/PRC-112が発射するホーミング信号を傍受し、遭難者の位置を特定して、救援隊より先に遭難者を捕獲する可能性もある。

また、過去数年間の技術革新および部品枯渇対応に要するコストの増大も、PLSに悪影響を及ぼしてきた。さらに、AAR(after action reviews事後検討会)に関する諸部隊からの報告では、PLSの使用頻度は低く、また、機体下面に装備されたヒレ状のアンテナが損傷しやすい、と指摘されていた。結果的に、PLSシステムは、軽量化のために取り外されてしまう場合も多かった。2015年後半になって、米陸軍は、AMAM(Aviation Maintain Action Message, 航空整備実施指示) H-60-16-AMAM-03を発出し、その取り外しを指示した。それには、次のとおり記載されている。「PLSは、すでに陳腐化した装備である。この装備は、HH-60L/Mに製造段階で搭載され、UH-60A/Lの一部にもAWR( Airworthiness Release, 安全性改善通報)により搭載されていた。しかし、GOSC(general officer steering committee, 将官検討会)は、HH-60M新造機へのPLSの搭載中止に同意するとともに、全部隊に対しPLSの取り外しを承認した」

最新のテクノロジー

今日の兵士たちは、CSEL(Combat Survivor, Evader, Locator, 戦闘生存・脱出者位置標定)無線機を装備している。CSELとは、正確なGPS位置・航法データ、双方向のOTH(over-the-horizon, 見通し外)秘匿データ通信、OTHビーコン機能、LOS(line-of-sight, 見通し内)音声通話機能、および掃引トーン・ビーコン機能を提供する通信システムである。その位置情報は、秘匿処理が行われたうえで、兵士たちの無線機からPR(personnel recovery, 人員救助)センター及びJSRC(Joint Search and Rescue Center, 統合捜索救難センター)に送信される。

米陸軍のH-60型機に搭載されているBTF(Blue Force Tracking, 見方追尾装置)などの先進機器を用いれば、近傍のPRまたはJSRCから発信される標定情報を受信することが可能である。BTFシステムは、状況認識に大幅な改善をもたらす装備である。例えば、このシステムは、友軍および敵の位置を自動的に表示できる。それは、H-60A/Lで使用されているEDM(Electronic Data Module, 電子データ・モジュール)およびH-60MのMFD(Multi-Function Display, 多機能表示装置)に表示されているパイロット用ムービング・マップをオーバーライドして表示させることができるのである。また、MEDEVACに向かう航空機の搭乗員に特定の患者集合点や患者治療施設の位置を提供することもできる。

米陸軍H-60ヘリコプターにおいては、約20年間に渡ってPLSが使用されてきた。変化し続ける戦場環境に適応し、敵に対する戦術的優位性を保持するためには、最新かつ最も有効なテクノロジーが兵士たちに提供されるべきである。MEDEVAC任務は、これらの兵士の安全と生存に関し、重要な役割を担っている。確かに、このシステムの換装を設計、試験、承認し、H-60型機に搭載するためには多くのコストが必要である。しかし、PLSシステムでは、現在使用されているCSEL無線機に完全に対応しきれない可能性がある。BFT暗号化システムを用いることにより、SAR活動を行う搭乗員たち対し、提供された友軍(青軍)および既知の敵軍(赤軍)の位置情報に加えて、リアル・タイムの状況把握および秘匿化ネットワーク能力を提供できるのである。

 ネイサン・プロパーは、アラバマ州レッドストーン工廠にある米陸軍陸軍航空およびミサイル研究、開発及び工学センター航空設計部局多用途ヘリコプター部において、患者後送システムの技術者として勤務している。

           

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2017年03月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    米陸軍では、航空機用救命無線機(Emergency Locator Transmitter, ELT)は、すでに「陳腐化」しているそうです。