航空事故回顧-予期せぬ天候急変によるUH-60の墜落
対地高度500フィート(150メートル)でNVGを使用した編隊飛行を実施していた2機編隊のUH-60Lのうちの長機が、IMC(計器飛行気象状態)に遭遇した。当該機は、予期せぬIMCに対応している間に、急降下し、地面に激突した。機体は大破し、7名の搭乗員のうち5名が負傷した。
飛行の経過
事故機の搭乗員は、もう1機のUH-60Lと一緒に編隊による練成訓練を実施中であった。当該訓練飛行は、昼間に訓練を開始し、駐屯地内の飛行場から民間飛行場までの間で実施される予定であった。帰路の飛行は、NVGを使用して行われる予定であった。しかしながら、計画外整備により訓練開始が遅れ、日没後に昼間飛行として離陸し、往路間にNVG飛行に切り替えられることになった。
当該機は、離陸し、民間飛行場に着陸した後、2318にNVGを使用して離陸した。飛行中、双方の航空機の搭乗員たちは、降雨、低雲、および低地における霧の発生により、気象状況が悪化し始めたことに気づいた。搭乗員たちは、予期していなかった天候急変による計器飛行状態への対応行動について話し合い、必要に応じIFR(計器飛行方式)に切り替えて駐屯地まで帰投することにした。それについて議論してから数分後、降雨がさらに強まった。事故機は、濃霧の中に入ったと通報し、議論していた対応行動を取ろうとした。
事故機は、その対応行動において、ロール方向の水平を保ちつつ、サイクリックを使って前進速度を上昇速度に変換しながら、まっすぐ前方に向け上昇した。PI(副操縦士)は、前進速度が50ノット(時速93キロメートル)まで低下したため、PC(機長)に注意を促そうとして、急激にピッチを上げ、50ノットを維持しようとした。さらに、一瞬機首を下げてから、約20度まで上げ、前進速度を回復しようとした。事故機は、20度に機首上げた減速姿勢に入った。PI(副操縦士)は、前進速度が0ノットで降下中であることを宣言し、再び機長に注意を促した。PC(機長)は、修正操作を行わなかった。機体は、毎分2,000フィート(毎分610メートル)の速度でほぼ垂直に急降下し始めた。「アイ・ハブ(操縦を交代する)」と宣言した副操縦士は、操縦かんを取り、コレクティブを一杯に引き上げたが、機体は林の中に落着した。
搭乗員の練度
PC(機長)の総飛行時間は969時間であり、そのうち597時間がUH-60での飛行時間であった。PI(副操縦士)の総飛行時間は356時間であり、そのうち170時間がUH-60での飛行時間であった。
考 察
飛行計画の作成にあたっては、最新の情報を入手できているか確認することが重要である。搭乗員たちが訓練飛行のブリーフィングを行い、飛行計画を作成する際には、任務の中断または変更に関し、計画の修正をどのように行い、それを示すかについて、あらかじめプリ―フィングを行っておく必要がある。航空の世界において、整備および天候の変化は、常に起こるものであり、これらの変化にどのように対処するかをブリーフィングしておくことが重要なのである。規則が示すブリーフィング項目を網羅することは、任務の安全な遂行に役立つ。ブリーフィングの段階は、搭乗員たちと航空機が飛行を継続するために必要な安全の確保と任務の遂行に決定的な影響を与えるものなのである。
出典:Flightfax, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2018年01月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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