エア・ウォーリア搭乗員落下防止索システム
今年の初め、エア・ウォーリア・プロダクト・マネージャー(Product Manager Air Warrior, PdM AW)は、ホイスト救助の実施中におけるPRT(personal restraint tether, 人員落下防止索)の不時分離に関する2件の報告を受領しました。エア・ウォーリア・プロダクト・マネージャーは、これらの報告およびその後の部隊の搭乗員たちからのインタビュー(細部後述)に基づき、装備改善を検討・実施しました。
エア・ウォーリア・プロダクト・マネージャーは、不時分離を報告した部隊との緊密な連携を保ちつつ、次の事項を実施しました。
- ・ 不安全の根本的原因の確認(設計上、PRTの落下傘索クイック・エジェクター・スナップの結合に、ある条件下においてダイナミック・ロールアウトが発生する可能性があった)
- ・ 不時分離を防止するための暫定的対策の立案
- 米陸軍コンバット・レディネス・センターおよびAMCOM(航空およびミサイル・コマンド)安全センターと連携したASAM(Aviation Safety Action Messages, 航空安全処置指令)の発簡
- ・ 暫定処置用部品の調達および航空部隊への配分
- ・ アイダホ州兵のUH-72搭乗員と協力した落下防止索の開発
- ・ 再設計された落下防止索の技術確認の実施
- ・ 新型落下防止索を製造するための契約の締結
- ・ 新型ARTS(aircrew restraint tether system, 搭乗員落下防止索システム)の装備化の開始
ARTSは、海軍の既存の落下防止索システムを陸軍に適用したもので、搭乗員のサバイバル・ベストに取り付けられる新たに追加されたQRET(quick release extension tether, クリック・リリース延長索)と機体のアンカー・ポイントに取り付けられる現行のPRT(personal restraint tether, 人員落下防止索)で構成されています。PRTについては、従来のクイック・エジェクター・スナップを落下傘索のDリングに交換することになりましたが、QRETについては、従来の延長索を完全に再設計することになりました。
新たな設計の妥当性を確認するため、水中での緊急脱出試験を含む、各種の評価が行われました。これらの試験の結果、およびその試験を支援した航空科隊員からの意見に基づき、現行の落下防止索システムにはなかった機能の追加が図られました。その一例は、ベスト前面での接続箇所の確認を可能にしたことです。開発段階において、ラコタの搭乗員たちは、落下防止索の接続状況を視認することの重要性について主張するとともに、ホイスト救助の際、従来の落下防止索をベストの前面にどのように接続していたのかをエア・ウォーリア・プロダクト・マネージャーに展示してくれました。
彼らの提言により、新型のARTSは、PSGC(プライマリ・サバイバル・ギア・キャリア)の前面への固定が可能なDリングを装備することになったのです。ブラックホークおよびチヌークの搭乗員たちも、この機能の追加に同意しました。
その他の従来のARTSにはなかった機能には、プル・タブ(作動ハンドル)を引くすることによるケーブル・システムの緊急クイック・リリース機能や、カラビナの追加によりQRETを作動させなくても切り離しができる機能があります。
QRETは、従来の吊上げ索に比較して、緊急切り離しおよび機体からの離脱が迅速かつ容易になっています。QRETの作動ハンドルは、救命胴衣のLPU-40/Pと同様に、右肩全部に位置するように設計されており、慣れ親しんだ位置で使えるように考慮されています。また、緊急事態の際に1度しか切断できない従来のCSP(crew-specific part, 搭乗員専用構成品)と異なり、QRETは複数回使用することが可能です。
これらの変更が適用された最終形態のシステムは、UH-72、HH-60、UH-60およびCH-47の搭乗員たちによって行われた試験に合格し、その安全性が確認されました。
新型落下防止索システムの最初の製品は、既にエア・ウォーリア・プロダクト・マネージャーに届けられており、現在、多用途ヘリ・プロダクト・マネージャーの協力を受けながら、装備化および訓練スケジュールの優先順位の設定が行われているところです。契約では、全航空科部隊の現行の落下防止索システムが更新されることになっており、当初の納入は2017年11月に予定されています。
ここで、最初の段落で述べたクルーチーフのインタビューの内容を紹介したいと思います。彼らの回答は、衝撃的なものでした。彼らとの議論の中で判明したことは、この問題は、何年も前から存在していた組織的なものであったということでした。私たちと話したほとんどすべての搭乗員たちが、任務実施中に安全吊上げ索の不時分離を経験していたことを認めたのです。これらの搭乗員には、現在、この種の任務を行っている兵士から、かなり以前にそれから引退していたクルーチーフまでが含まれていました。
この物語の教訓は、安全上の問題を認識したならば、速やかに「報告する」ということです。
たった一回しか起こらなかったことだから、あるいは同僚たちも同じ経験をしていることだから、他の誰かが言うだろうというような理由で、上司や安全将校に報告しなくて良いということにはなりません。陸軍においては、誰かが問題を特定しない限り、問題を解決することができないのです。本件の場合、当該部隊は、エア・ウォーリア・プロダクト・マネージャーに直接連絡をしてくれたのですが、そのことに問題はありません。ALSE(Aviation Life Support Equipment, 航空救命装備)に問題を発見したならば、エア・ウォーリア・チームにお気軽にお問い合わせください。ただし、安全系統による報告もお忘れなく。指揮系統や部隊安全将校も重要ですが、その報告の端緒を開くのはあなた自身なのです。
Readiness through Safety!(即応の基本は、安全の確保!)
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2017年09月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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3件のコメント
この不安全の原因である「クイック・エジェクター・スナップの結合が、ある条件下において外れる(原文では、Dynamic Rolloutという言葉を使っています)」とは、おそらく、このことを言っているのだとおもいます。https://vimeo.com/203281111
民間ヘリが川に墜落し、機外撮影のためにドアを外してハーネスで身体を機体に固定していた搭乗者5名が機体と一緒に水没した事故がありました。https://twitter.com/Aviation_Assets/status/973855821669965824
このような事故を回避するため、必要な器材だと思います。
Army Aviationの記事「レスキュー・ホイストの運用における安全性の向上」において、 「ダイナミック・ロールアウト」という用語が確認できましたので、訳文にもこの用語を用いるように修正しました。