安全線による飛行中の機内での煙の発生
その飛行の目的は、NVG(Night Vison Goggle, 暗視眼鏡)を用いた空中給油の練成訓練でした。そのMH-47の6名の搭乗員は、飛行前点検およびブリーフィングを終了し、フライト・プランなどを提出しました。搭乗員と同じく、機体の準備も完了しました。
クルー・チーフは、SOP(standing operating procedures, 作戦規定)に従い、MH-47の修理及び整備に必要な搭載用工具を工具箱に入れて携行していました。その工具箱は、前方キャビン地域に備え付けられた800ガロンのロバートソン増槽燃料タンクの前の床面に縛着されました。工具箱の中には、パネル用スクリューを脱着するための電動ドライバーと2個の14.4ボルトのバッテリーが入っていました。工具や2個のバッテリーの員数を確認し、固定ができるようにするため、その工具箱には穴の開いた緩衝材が詰められていました。また、その工具箱には、計画外の軽微な整備が生じた場合に備えて、標準的なコッターピン、ナット、ワッシャおよび0.020インチの安全線1巻も収められていました。
当該機は、EENT(end of evening nautical twilight, 第2薄暮終了時刻)の直後に離陸し、ARCT(air refueling control time, 空中給油統制時刻)まで45分間の飛行を行うことになっていました。ARCTとは、被給油機(本件の場合はMH-47)と給油機(本件の場合はMC-130)が空中給油のために会合する「厳守しなければならない」時間のことです。
飛行開始から20分後、まだ低空を飛行している最中に、パイロットの1人が煙の臭いに気づいて報告しました。パイロットたちは、当該機が既に鎮火した森林火災地域の上空を飛行しているためではないかと話し合いました。しかし、臭いがますますひどくなったため、搭乗員たちは煙の発生個所を探し始めました。パイロットは、直ちに基地への帰投を開始しました。
前方キャビン地域にいたクルー・チーフは、工具箱の周辺から臭いが発生していることに気づきました。工具箱のふたを開けると、0.020インチの安全線の巻線が置かれていたトレイが赤く光り、煙を発生していました。NVGによって増幅された赤い光を見たクルー・チーフは、機内通話装置で「火災」と報告しました。「火災」という叫び声は、「ワイヤー」と並んで、パイロットが最も機内通話装置で聞きたくないものです。
驚いたパイロットは、急降下し、緊急着陸の準備を開始しました。クルー・チーフが見たのは、電動ドリルの14.4ボルトのバッテリーのうちの1つの端子間に接している0.020インチの安全線でした。安全線は、煙を出しながら赤く光り、バッテリー端子周辺のプラスチック部品を溶かしていました。そのクルー・チーフが正確な状況を他の搭乗員たちに落ち着いて報告すると、パイロットは着陸を中止し、基地への帰投を続行しました。
そのクルー・チーフは、安全線を注意深くバッテリーから離そうとしましたが、今度は、もう一つのバッテリーに接触させてしまい、全く同じように光って煙を発生し始めてしまいました。もう一度同じことを繰り返し、安全線をバッテリーから離し、煙の発生源を排除することができました。その1、2分の混乱した時間が過ぎると、搭乗員たちは平静を取り戻し、空中給油訓練のために給油機に向かうルートに復帰しました。
搭乗員たちが、短時間のうちに火元を発見できたのは幸運なことででした。電動ドライバーのバッテリーの付近に安全線を置くことは、火災や爆発に至る危険性があります。工具箱のすぐ近くにあった800ガロンのJP-8は、その火災の燃料源になるところでした。その場合、機体が爆発し、死者が出た可能性も十分にありました。
対策は、全くもって簡単なことでした。安全線を工具箱の別な引出しに移動させ、バッテリーから離隔するだけのことです。
この不安全は、我々に貴重な教訓を与えてくれたのでした。
出典:KNOWLEDGE, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2017年10月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
ありがちなことだと思いますし、安全線の置き場所以外にも、いろいろな教訓のある事例だと思います。