基準の低下を回避するために
国外展開の頻度が高く、多国籍軍と各種任務を遂行することが常態となっている今日の戦いにおいては、我々の同盟国がどのように作戦を行うのかを理解できていることが重要である。同様に、同盟国のほうも、我々がどのように任務を遂行するのかを理解していなければならない。なぜ、このようなことを述べるのかというと、イラクのバスラに配備された際、自分の所属する部隊がそういった状況に置かれていたからである。
イギリス軍は、高度に訓練され、完全な機能を発揮できる部隊である。しかし、特に航空職種以外の部隊に関しては、我々の方から適切な指導を行ったり情報を提供したりしなければ、我々が任務をどのように遂行するのかを理解してもらうことが困難である。イギリス軍の兵士たちは、我々もそうであるように、イギリスの航空機を用いた航空部隊と任務の遂行するように訓練されているからである。
UH-60装備を装備する我々の部隊は、イギリスの特殊航空作戦地上部隊と連携して作戦を遂行していた。そのイギリスの部隊は、優れた作戦遂行能力を有していたが、我々との意思疎通に関しては、問題が生じる場合があった。その原因は、特に計画段階において、我々が日頃から訓練し実践しているような説明が不足していたからである。ここで貴官は、次のような疑問を持つことであろう。それは、部隊の責任なのか、それとも上級部隊の責任なのか? 我々の場合、そのどちらとも言えなかったが、その状態を回避するための処置が十分でなかったことは確かである。
中隊レベルでの計画立案は、十分すぎるほどのものであった。問題が明らかになったのは、任務が変更になった場合である。その変更が割り当てられた時間枠という基準を遵守することなく行われたため、適切な情報を適時に与えるいとまがなかったのである。もちろん、流動的な状況の下で作戦を遂行しなければならないという任務の特性を理解していた我々は、リスクを軽減するために最善を尽くした。ただし、上級部隊からの圧力により、任務遂行にあたっての問題点を無視せざるを得ないこともあったのである。上級部隊の指揮官たちは、このことの責任を問われたことがなかったし、おそらくは、隷下部隊に混乱が生じていることに気づいてさえもいなかったであろう。
規則や手順が設けられているのには、理由がある。基準による拘束を受けなくなった者は、ある時点で自動的にその基準を守らなくなる。それが何回も繰り返されると、基準そのものが低下し、本来の品質が維持されなくなってしまうものなのである。さまざまな国の兵士や民間人たちが危険に直面している時に、このような事態が生じることは許されることではない。我々は、そのことを広く知らしめる責務を有している。
末端の部隊であっても、その責務を果たすことが当たり前でなければならず、そうすることによって上級部隊から叱責されるようなことがあってはならない。それが保証されることによって、我々は基準を維持できるようになるのである。唯一の例外は、壊滅的な事故の発生を避け、兵士たちの命を守り、それによって生じる経済的損失を回避しなければならない場合だけである。基準を変更することが許される場合が、それ以外にあるだろうか?
この考え方は、陸軍全体に周知されるべきである。どんなに子細なことであろうとも、あるいは取るに足らぬように見えることであろうとも、基準というものは、厳格に守られなければならない。我々の職務は、漫然と遂行できるようなものではない。成り行きに任せていたのでは、兵士たちの命を守ることができないのだ。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2020年09月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
末端部隊の准尉がこのような意見を堂々と発表できるところが、すごいと思います。