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陸軍航空の情報センター

科学技術上の転換点を迎えた陸軍航空

カービル・E・T・チョーク

シコルスキー・ボーイングSB-1デファイアント
ベルV-280バロー

毎年、年末になると、過去を振り返り、将来を占うことにしている。2019年の終わりから2020年の始まりに掛けては、過去に例を見ない出来事があった。それは、陸軍航空の科学技術に関する取り組みが転換点を迎えたことである。

2013年度、陸軍航空はJMR-TD(Joint Multi-Role Technology Demonstrator, 統合多機能技術実証)と呼ばれる科学技術上の取り組みを開始した。このプログラムは、将来の垂直離着陸機を性能向上させるために必要な情報を国防総省に提供した。2018年から2019年にかけては、ベル・バローおよびシコルスキー・ボーイング・デファイアントの実証飛行が行なわれた。また、2020年には、MSAD(Mission Systems Architecture Demonstration, 任務システム基本設計概念実証)を完了することになっている。MSADは、JMRにおいて開発された規格、手順およびツールを用いつつ、完全なオープン・システムによる機体開発の可能性を生み出すことになるであろう。

これらの取り組みと並行的に行なわれてきたDVEM(Degraded Visual Environment-Mitigation, 悪視程環境低減)プログラムについては、雨、霧、砂塵などの各種環境におけるセンサーの融合を評価するための一連の飛行試験を2020年に終了する予定である。このプログラムは、そのセンサーから得られるデータを利用して任務適合型自律飛行(Mission Adaptive Autonomy)を行い、単に視程不良環境に対応する能力だけではなく、現地の地形を評価し、安全な着陸地点を選定する能力についても実証しようとしている。

それでは、なぜ2020年が転換点なのか? 何が起き、何が変わるのだろうか?

CCDC(Combat Capabilities Development Command, 戦闘能力開発コマンド)のAvMC(Aviation & Missile Center, 航空及びミサイル・センター)航空開発本部は、JMR-TDおよびDVE-Mの終了に伴い、FARA-CP(Future Attack Reconnaissance Aircraft Competitive Prototype, 将来型攻撃偵察機用競争試作機)プログラムを支援しつつ、有・無人機チーム(Advanced Teaming)と空中発射型UAV(Air Launched Effects)の2つの事業に取り組み、陸軍航空に改革をもたらそうとしている。

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JMR-TD機における新機種の開発は、高速で飛行が可能で、揚力が大きく、抵抗が小さい機体を安価に製造できることを実証した。ベルV-280は、ティルトローター用構成品および機体の安価な製造、レベル1の飛行特性、および300ノットの高速飛行を実現してみせた。一方、現在、飛行領域の拡大を図っているシコルスキー・ボーイング・デファイアントは、低速での操縦性を犠牲にすることなく高速性能を実現する推進プロペラ(pusher prop)と、前進翼と後退翼の揚力バランス喪失を解決(lift-offset)する二重反転式ローターを装備したヘリコプターである。
MSADは、ソフトウェアの再利用を促し、ソフトウェアの費用を削減するための規格、基本設計概念およびツールを開発した。これらを用いたモデル化およびモデル分析を事前に行うことによって、機体製造後の試験および統合業務の大幅な削減が可能となった。

MSADの後続事業として2019年に開始された統合任務装備(Integrated Mission Equipment)プログラムは、FLRAA(Future Long Range Assault Aircraft, 将来型長距離強襲機)およびFARA(Future Attack Reconnaissance Aircraft, 将来型攻撃偵察機)で使用されるデジタル基盤を航空システム用 の共通基本設計規格に適合させるとともに、そのハードウェアおよびソフトウェアの適時かつ低価格な更新を可能にする。これにより、敵の投資を無効化し、それを戦場およびその周辺において撃破することが可能になる。

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DVE-M(Degraded Visual Environment Mitigation, 悪視程環境軽減)プログラム

複数年度にわたる実証プログラムであるDVEMは、悪視程環境下においてもフルスペクトラム(全方位的)な航空運用を可能にするために不可欠な技術について、評価を行っている最中である。悪視程環境改善のための主要な構成品は、操縦装置、センサーおよび指示装置の3つである。「融合したセンサーからのデータ」、「包括的な指示」および「先進的な操縦装置」をセンサー駆動型の慣性航法装置と組み合わせることにより得られる、統合化および最適化された解決策が、本年中に実証される予定である。
2020年には、雨、霧および砂塵などの幅広い悪視程環境における飛行試験が行なわれようとしている。その飛行試験全体の目標は、「任務実施間においてもレベル1の飛行特性を発揮できる完全に統合された回転翼機操縦能力」、「融合した複数のセンサーで駆動された慣性航法」、および「悪視程環境下においても完全なカップリング(自動操縦)が可能な飛行および着陸」を実証することである。

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それでは、陸軍航空の改革を継続するために必要な「科学技術上の取り組み」とは何であろうか? 驚くべきことに、それは航空機そのものではなく、航空システムおよびその生態系全般に関わる取り組みなのであった。

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有・無人機チーム(Advanced Teaming)およびALE(Air Launched Effects, 空中発射型UAV)

FARAの開発支援基盤を形成するために欠かせない取り組みが、有・無人機チーム(Advanced Teaming)である。かつての取り組みは、その多くが個々の機体およびその構成品に焦点を当ててきた。これに対し、有・無人機チームは、各機種およびその搭載構成品の間に相互の関連性を構築し、自律的な飛行を実現することによって、マルチドメイン作戦における敵の脅威を発見し、拘束し、撃破するために必要な殺傷性及び生存性を発揮することを目指している。
高速ネットワーク技術は、A2AD(anti-access/anti-denial, 接近阻止・領域拒否)環境における有・無人機チーム内の通信を可能にする。一方、自律ロボット技術(autonomous agents )は、有・無人機チームを構成する航空機および搭載品にDILR(detection, identification, location, and reporting, 発見、識別、標定および報告)を実行させる。

これらの技術に裏打ちされた有・無人機チームは、LRPF(Long-Range Precision Fires, 長距離精密火力打撃)または直接攻撃を行って、敵の無効化を図る。これらの行動を諸兵科連合チームの一員として実行することにより、紛争におけるマルチドメイン戦闘地域に介入する人員数の最小化を図ることができるのである。有・無人機チームは、今後、TRL(tactical readiness level, 戦術レディネス・レベル)ー6に到達することを目標とし、FARA-CPまたはFARA継続ブログラムと同時並行的に技術的検討が進められてゆくことになっている。

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有・無人機チームが航空機などの自律性を重視しながら自ら任務を遂行するものであるのに対し、ALE(Air Launched Effect, 空中発射型UAV)は、UAV搭載装備品にこれらの任務を実行させ、それを補完させようとするものである。

現在、ALEを戦術高度から発射し、さまざまな機能を発揮させる取り組みが行なわれている。自律戦闘を行うUAVで構成されるALEは、母機である航空機の殺傷性および生存性の強化、および下層航空領域における優位性の獲得を可能にすることであろう。

FARAから発射されたALEは、敵のIADS(integrated air defense systems, 統合防空システム)領域に侵入する。有・無人機チームを構成する各機体は、独自の搭載品に関する調整および連携を適切に行い、任務を成功させる。各機種および有・無人機チームの改修には、AIエンジンが活用される。有人航空機が戦場に進入する際には、ALEが層状の防護領域を形成し、我の殺傷性を維持するとともに、最大の資産であるアメリカ陸軍兵士を防護するのである。

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これらの航空技術、オープン・システム、自律性およびセンサー融合の総合体は、有・無人機チームを生み出し、我々の資産を節約し、我々の最大の宝である自由とそれを守る者たちを防護しつつ、より迅速に敵に攻撃を加え、適切に適応して敵を無効化し、敵の投資を無駄にして、戦場での勝利を我々にもたらすことになるであろう。

カービル・E・T・チョーク氏は、アラバマ州レッドストーン工廠にある航空及びミサイルセンター戦闘能力開発コマンドの航空開発本部の副本部長である。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2019年12月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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4件のコメント

  1. 管理人 より:

    この記事の翻訳には、かなり手こずりました。「morphing teamとして運用されるALE」なんて、一体どう訳せばいいのか…降参です。「Advanced Teaming」を有・無人機チーム、「Air Launched Effect」を空中発射型UAVと訳しましたが、これも適切かどうか…他に定訳があれば、教えて下さい。

  2. 匿名 より:

    翻訳ありがとうございます。
    悪視程環境軽減がこれほど発達しているとは…米軍が「夜を克服」したと述べてからまだ数十年ですが、この性能向上は特に対地能力の向上の基盤になると思います。

    • 管理人 より:

      コメントありがとうございます。
      DVE-Mに関しては、こちらもご覧いただければと思います。少し古い記事ですが、具体的に何をしようとしているのかが分かります。

  3. 管理人 より:

    Wikipedia上での議論を踏まえ、FLRAAの訳語を「将来型長距離攻撃航空機」→「将来型長距離強襲機」へと修正しました。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/ノート:将来型長距離強襲機