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陸軍航空の情報センター

アメリカ陸軍航空科職種

過去に対する敬意と未来に向けた変革

少将 マイケル・C・マッカリー2世

アメリカ陸軍航空科職種の誕生から40周年を迎えるにあたり、陸軍航空の過去を振り返るとともに、未来に向けた変革を確認しておきたい。

聖なる信託への敬意ー航空科隊員は、 過去、現在、そして未来においても、地上部隊の兵士(オペレーター)を支援し続ける。

1983年4月12日、陸軍長官ジョン・O・マーシュ・ジュニアは、陸軍航空を独自の職種とすることを承認した。フォート・ラッカー司令官(当時)のカール・H・マクネア少将は、アメリカ陸軍航空科職種の創設の父となった。1984年2月15日、その決定の実施を命ずる陸軍一般命令が発簡された。現在の我々には、この陸軍航空の過去の歴史に敬意を払いつつ、それに修正を加え、進化するマルチドメインの戦場で戦い、勝利を収められるようにすることが求められている。

いつの時代も、職種の中核となるのは人材である。パイロットに愛され、その性能を自慢されるような機体を装備することも重要ではあるが、それだけでは任務を遂行し、戦闘に勝利を収めることはできない。陸軍航空科職種の40周年を迎えるにあたって、この職種に今日の繁栄をもたらしてくれたすべての航空科隊員、陸軍省軍属、およびその家族の献身的な貢献に謝意を表したい。

陸軍航空の過去

陸軍航空は、職種としては40年の歴史しか有していないが、サディアス・ロウとその飛行士たちがイントレピッドやエクセルシオールのような繋留気球で地面から浮かび上がり、敵陣地の偵察や空中観測を行って地上部隊を支援したのは、それよりもはるか昔の南北戦争中のことであった。

第一次世界大戦、第二次世界大戦、および朝鮮戦争中においても、空中観測による射弾の調整、緊急物資の空輸および医療後送、指揮統制などが行われ、地上指揮官が戦場を別の次元から把握することを可能にしてきた。第二次世界大戦後、陸軍航空隊は、アメリカ空軍として独立した。1948年に定められたキーウェスト協定により、空軍の役割および任務が明確化された。

朝鮮戦争中も、陸軍航空は、近接航空支援、航空輸送、医療後送、指揮統制、兵站支援などにより地上部隊を支援し続けた。

朝鮮戦争後の1962年には、ハミルトン H. ハウズ中将が率いるハウズ委員会によって陸軍航空の運用はより洗練されることになった。その委員会の結果、航空輸送がさらに発達をとげ、最終的には空中機動作戦が生み出された。その結果、ベトナム戦争では、地上部隊支援における陸軍航空の活用が急速に進んだ。「第一次ヘリコプター戦争」と呼ばれるこの戦争を通じて、陸軍航空は、諸職種連合チームにおける自身の有用性を証明した。1961年から1975年までの間、4万人以上のパイロットが7,000機以上のUH-1を操縦し、4,906人のパイロットおよび搭乗員が国家に命を捧げた。

ベトナム戦争が集結すると、マイヤー将軍とスターリー将軍の指導の下、陸軍はエアランド・バトルと呼ばれる教義へと移行した。1982年版のFM100-5に記載されているところによれば、エアランド・バトルの基本は、「火力および機動力を活用して敵の縦深全体を攻撃する非直線的な戦闘」を行うことにある。デザート・シールドおよびデザート・ストームにおいては、諸職種連合チームがエアランド・バトルにおける戦闘の形成を行う上で、陸軍航空の役割が極めて重要なことがディック・コーディ中将による任務遂行により実証された。

過去を振り返ると、気球部隊の飛行士から今日の陸軍航空パイロットに至るまで、陸軍航空には不変のテーマが存在している。それは、聖なる信託への敬意であり、過去、現在、そして未来においても、地上部隊の兵士(オペレーター)への支援を約束することである。

陸軍航空科職種の現在

偵察・攻撃・移動・展開により地上部隊を支援する陸軍航空は、現在、その転換点に立っている。我々の遂行する作戦は、従来の反乱鎮圧および安定化作戦から大規模戦闘作戦(Large Scale Combat Operations, LSCO)へと移行した。この種の作戦において陸軍航空に期待されているのは、航空領域の下位層を支配し、陸、海、その他の領域に影響を与えることである。過去の紛争から学んだ教訓およびウクライナでの現在の作戦から得られている情報を活用し、教義および訓練プログラムのアップデートが行われている。これらの教訓を最大限に活用するため、飛行および戦闘訓練の内容の見直しも行われている。このような教義および技術の進化は、陸軍航空に大きな変化をもたらそうとしている。

陸軍航空はまた、2030年以降の陸軍(Army 2030)が想定している敵、戦闘手段および戦闘対象に対応できる、新しい構想を模索している。戦いに勝利するために必要な作戦環境および技術的要求事項の細部を明確化するためには、近代化の取り組みに必要なDOTMLPF-P (Doctrine, Organization, Training, Materiel, Leadership and Education, Personnel, Facilities, and Policy, 教義、組織、訓練、物資、統率力および教育、人事、設備ならびに方針) のアップデートが必要となっている。その一環として、USAACE(U.S. Army Aviation Center of Excellence, アメリカ陸軍航空教育研究センター)は、年内にFM3-04 Aviation OperationsおよびATP 3-04.1 Aviation Tactical Employmentのアップデートを行い、新しいFM 3-0 Operationに完全に準拠させようとしている。戦闘航空旅団(combat aviation brigades, CAB)を派遣先の師団または軍団の任務に適合させるため、航空戦闘力の配分が修正される。また、将校、准尉、および下士官の教育訓練プログラムを最新化し、諸職種連合部隊の機動力および火力の統合に関する専門家としても指導力を発揮できるようにする。

最優先に行うべき事項が「兵士の育成」であることに変わりはない。それは、もはや我々の精神の一部となっている。これを実現する方法の一つは、厳しい環境で実戦的な訓練を実施して、航空科隊員の戦術および戦技能力を向上させることである。大規模戦闘作戦においては、特に戦術能力を洗練させることが不可欠である。

陸軍航空科職種の未来

陸軍航空科職種は、引き続き2030年の陸軍に求められる近代化優先事項に焦点を当て続け、ワームス陸軍長官の指導に従って、陸軍航空組織に必要な持続可能な戦略の実現に努めて行く。

厳しい予算環境にはあるものの、新しい原則における陸軍航空の地位の重要性に鑑み、大規模戦闘作戦に必要な能力を質・量ともに確保する。ウォーリー・ルーゲン少将に率いられた機能横断型チームは、陸上部隊、統合軍または同盟国との連合部隊の一員として、マルチドメイン作戦で戦うために必要な新しい機体やシステムの試験を継続している。

FVL(Future Vertical Lift, 将来型垂直離着陸機)は、大規模戦闘作戦における諸職種連合チームの作戦領域、生存性、殺傷性、および継戦能力の拡大を可能にする。FARA(Future Attack Reconnaissance Aircraft, 将来型攻撃偵察機)、FLRAA(Future Long-Range Assault Aircraft, 将来型長距離強襲機)および空中発射型UAV(Launched Effects )は、大規模戦闘作戦におけるマルチドメインでの運用において直面すると予想される敵対的課題に対処できる。

旅団レベルでは、将来型戦術無人航空機システム(Future Tactical Unmanned Aircraft Systems)のクロスドメイン能力を活用し、地上部隊が他のドメインに戦力を投射し、高度な能力を有する敵の撃破することが可能になる。これらのシステムによってもたらされる卓越した戦闘力により、地上指揮官は複数の選択肢を保持することができるようになる。滑走路がなくても垂直に離着陸できる能力を有する無人システムは、軍に大きな優位性をもたらそうとしている。

モジュラー・オープン・システム・アプローチ(Modular Open Systems Approach)は、将来の能力を迅速に統合し、技術の発展に遅れることなく将来の脅威に適応することを可能にする。DOTMLPF-Pに影響を及ぼす新型装備品開発において、将来の戦闘力を獲得するためには、「オープン・システム・アプローチ」が不可欠である。

加えて、今後10年間の転換期間も戦力を維持するため、現行機種の近代化も継続してゆく。最後に、陸軍航空は、自律化への道を模索している。人と機械のチーム化は、将来の部隊編制の鍵となるであろう。機械は人のような直感や好奇心を備えることはできないが、敵との最初の接触は無人航空機システム(Unmmand Aircraft System, UAS)でも可能であるし、そうすべきである。無人航空機システムは、目標地域の継続的な監視、汚染された地域の飛行、敵の脅威が大きい広範な戦場での任務など、リスクの高い劣悪な環境下での危険を伴う任務であっても長時間に渡って遂行し、諸兵器連合部隊を支援できる。この構想が近い将来に実現することは高い確率で見積られるが、それでも我々は、地上部隊の兵士のために訓練し、戦い続けなければならない。

過去40年間、陸軍航空は成熟を重ね、時代とともに変化してきた。そういった中でも、兵士の質、航空戦闘員の文化、そして聖なる信託への敬意は、変わらず維持されてきた。我々は、陸軍航空科職種という巨人の肩の上に乗り、未来に向かって進んでいるのである。長年に渡って、我々のために道を切り開いてくれたすべての人々に対し、心から謝意を表したい。

Above the Best!(最善以上を目指せ!)

少将 マイケル・C・マッカリー2世は、陸軍航空科職種の司令官であり、アラバマ州フォート・ノボセルのアメリカ陸軍航空教育研究センターの司令官である。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2023年05月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    フォート・ラッカーは、2023年にその名称をフォート・ノボセルに変更しています。